第12話「受け継ぐべき意思②」

文字数 2,569文字

『ケン、ありがとう!』

 綺麗な声で礼を言い、ぺこりと頭を下げた女性は……
 オベール様の現奥様、そして俺の嫁ミシェルの母でもあるイザベルさん。
 おお、いつ見ても相変わらず若い。
 実は?歳だが、見た目が30代前半にしか見えない。

 粋で素敵な美人奥様から、爽やかな微笑みビームがびしばし俺に注がれる。
 ちょっち照れた俺は、「ぶんぶん」と手を横に振る。

『いえいえ、とんでもない。皆さんにはいつもお世話になっていますから』

『うふふ、こちらこそよ。じゃあ、フィリップ、今度はお前がお兄様にお礼を言いなさい』

『はい! ははうえ』

 そう、今度は、オベール様夫婦の愛息フィリップの番。
 今、置かれている状況が、何となくしか分からないんだろうけど……
 イザベルさんに礼を言うよう促されて、これまた頭を下げる。

『あにうえ、ありがとう』

 はきはきと、俺へ礼を言う。
 おお、偉いぞ、可愛いぞ。
 俺はショタではないが、フィリップがとても愛おしくなる。
 守ってやらねばと思う。

 フィリップは、俺の息子のレオやイーサンとほぼ同世代だが、やはり息子と弟は違う。
 いや、けして息子が可愛くないんじゃない。
 子供は、嫁ズと並んで俺の命だもの。
 ここで言いたいのは……
 弟に対する『可愛い感覚』が、息子や娘に感じるものとはまるで違うっていう事。

 そもそも『ひとりっこ』だった俺は、『年の離れた弟』なんて持った事がない。
 ヴァルヴァラ様の件で会った、異世界のラウル王子に弟みたいな感覚は持ったが……
 俺とラウル王子は年齢がそんなに離れていなかったし、一緒に居たのがほんのひとときだった。
 なのでちょっと違うかな。

 具体例としては、確か前世で生きていた頃……
 故郷を出て、都会で暮らしている高校生の時だった。
 同じクラスに、そんな友人が居た。
 彼はどこに行っても、『10歳違いの妹』がいつもくっついて来るとこぼしていた。
 とても鬱陶(うっとう)しいって……

 実際見た事があるけれど……
 「お兄ちゃ~ん」って大声で叫んで、一目散に駆けて来る幼い妹の姿は実に愛らしかった。
 対してぶっきらぼうに「おう!」とか言う友人。
 俺から見たら、凄く羨ましかった……
 今から考えれば……あれって友人の、とんでもない『自慢』だったのだ。

『いえいえ、どういたしまして! ほら、フィリップ。パパ、ママと一緒に、思い切り遊んでおいで』

 俺のゴーサインを聞いて、すっごく嬉しそうなフィリップ。
 お返しにブイサインを出して、可愛く決めポーズ。

『うん、あにうえ! パパのところへ、いってくるっ』

 フィリップったら、元気にダッシュ。
 彼が向かう先は、少し離れた場所で、両手を広げて待つオベール様の下だ。

『あらあら! フィリップ待って』

『ママ、はやくう!』

 イザベルさんは、俺に会釈すると、フィリップを追って駆け出して行った。
 フィリップが転がるように走って行く先には、オベール様が満面の笑みを浮かべて待っている。
 脱兎の如く駆けるフィリップの後を、これまた凄い速度でイザベルさんが追う。
 
 俺とソフィは、ふたりで手を振って見送った。

 時は少しさかのぼり、
 オベール様とソフィの感動の再会が、ひと段落して……
 新たなプレゼントを、オベール様へと考えた俺は……
 イザベルさんとフィリップを、この楽園(エデン)に呼んだのである。

 異界へ来た瞬間、イザベルさんは吃驚。
 同じく、フィリップは、きょとん。
 ふたりとも全然違う夢を見ていて、画面が切り替わったから無理もない。

 俺はイザベルさんへ、「ここは魔法で作った夢の中の世界だ」と手短かに説明した。
 ちなみにイザベルさんは、俺が『ふるさと勇者』だって知っている。
 だから話は凄く早い。

 そう、ここは俺の創った異界。
 夢の世界に準じた仕様の楽園。
 だから、現実世界と違って危険はない。
 人間も魔物も獣も、襲って害そうとする輩は皆無だから、オベール様親子3人が安心して遊べるのだ。
 補足説明したら、イザベルさんはすぐ順応。
 この世界で、存分に楽しむって決めたみたい。
 
 さあ、オベール様親子3人が合流した。
 すぐに、「何しようか?」ってミニ家族会議。
 とても微笑ましい雰囲気だ。

 夢の中って、疲れもしないし、超絶な力を出せる。
 だからさっきフィリップもイザベルさんも凄い速度で走れた。

 まあその逆もあるけど。
 少なくてもこの楽園では、オベール親子3人、何の制約も受けずに楽しんでいる。

 何でもありの夢の中だから……
 俺とソフィの耳には、オベール様達の会話も聞こえて来た。

『パパ、ママ、ケイドロやろっ!』

 息子フィリップから、素晴らしい提案が出た。
 この広大な楽園で、縦横無尽にケイドロをやろうというのだ。

 ケイドロは少し前、俺と嫁ズがオベール家へ伝授してあった。
 
 ボヌール村では、大うけしているケイドロ。
 エモシオンは、ボヌール村ほどではないが、娯楽が少ない田舎町。
 城館では案の定、大流行した。

 普通に遊んでもケイドロは面白い。
 だがオベール家のケイドロは、部下である『本物の衛兵』が混じって遊ぶから、リアルの極致なのである。

 ケイドロでも何でも、夢の世界は外敵がおらず安全で楽しく遊べるから、オベール様とイザベルさんは当然OKである。

『おお、フィリップ、良いぞ』
『ええ、3人でやりましょ!』

『じゃあ、ぼくとママがえいへい。パパがどろぼうだよ』

『え! パパが泥棒なのか?』

 何故?
 という、真剣な顔をオベール様はしてしまう。
 多分「お前はどろぼうだ」と言われるのに、とても抵抗感があるみたい。
 ほんの冗談でも……駄目なのだ。

 性格的なものだろうが、たまにそういう人は居る。
 
 所詮遊びの呼び名なのに、拘る人は拘るから。
 そんな人は、言われたらすぐむきになる。
 面白がって、あまりしつこく言わない方が良い

 だが、フィリップは子供なのでストレート。
 自分の気持ちに正直で、全く容赦がなかったのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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