第25話「送受信成功!」
文字数 3,410文字
当然、お互いの心の絆は強くなったといえるのだが。
「気の毒だ」と、下手に気を遣っても良くない。
今まで同様、「普通に接していれば良い」と考えたのである。
もう一度言う。
俺達の態度は変わらなかった。
しかし!
アンリとエマさん、当人同士が、「がらり」と変わってしまったのである。
エマさんから、見たら……
暴漢に襲われているところを、俺と共に助けたアンリは、命の恩人として好ましく映っていただろう。
エモシオンに新設されるアンテナショップで、これから働く仲間同士という結びつきもあっただろう。
そして何かのタイミングで、辛い過去である、お互いの境遇も話し合ったに違いない。
王都で暮らしていた、縁もゆかりもなかった、傷ついたふたつの魂は……
遥か南の町エモシオンで邂逅し、このボヌール村で触れ合い、慈しみ……結ばれたのだ。
ふたりの生い立ちや接点を考えると、出会って恋人同士になる可能性は、想像も出来ない。
運命って本当に、……何て、不思議なんだろう。
ちなみにエマさんの年齢は21歳で、アンリは17歳の4歳差。
でも男の方が年下とか、全く関係なかったみたい。
ケイドロ、だるまさんが転んだなど……
子供達と共に、昔遊びをしている時の仲睦まじい様子で、ふたりが好き合っている事は決定的となった。
当人同士は、熱い恋人同士に見えるのが恥ずかしいのか、何とか隠そうとしたみたい。
俺が昔マンガで読んだ、ベタな『社内恋愛もの』みたいな雰囲気である。
まあ傍から見れば、バレバレという落ち。
だが、別にふたりは禁断の関係でも何でもない。
もしどちらかが、少し砕けたタイプだったら、『いじる事』も充分にあったけれど……
ふたりとも、超が付くマジメさん。
だから、俺と嫁ズはそっとしておいた。
当然だが、他の村民達にも認識された……
でも村民も、皆、優しかった。
俺達と同じように、ふたりの性格も分かっていた。
村内で『公認の仲』となってしまったアンリとエマさんを、茶化す者など誰も居なかったのである。
あくまでも私見だが……
恋愛している人って大別すると、ふたつのタイプに分かれると俺は思う。
まず恋愛を人生の励みにして、頑張るタイプ。
そして逆に恋に囚われ、何も手につかなくなるタイプ。
どうやらアンリとエマさんは、前者だったみたい。
それも強力にターボがかかる前者タイプで、恋に仕事にやるき満々となったのである。
アンテナショップのスタッフという新たな仕事にも、強い責任感が生まれて来たらしく、打合せには全部参加した。
「店をこうしたら良くなる」という意見も、どんどん積極的に出して来るようになったのだ。
元々、アンテナショップはボヌール村の抱えている様々な問題を解決する為に作られる。
打合せを通じて、ふたりは村の現実と、抱えている様々な問題も理解して行った。
俺達の奮闘と、ボヌール村&オベール家の全面的な協力で、アンテナショップは完全に具体化した。
こうなると、村民全員へも、その存在と概要が周知されたのである。
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テレーズの時も、そうであったが……
楽しい時間は、過ぎ去るのも早い。
もうお約束となってしまったが……
アンリとエマさんがボヌール村を去る前日、村をあげての送別会が行われた。
いつもの通り、飲めや、歌えや、踊れやの、三拍子揃ったどんちゃん大宴会。
アンリは勿論であるが、
うん!
ふたりとも、たっぷりと、楽しんでいたみたい。
ここで最後に、少しだけいじわる。
さすがに、身体を密着させた、チークダンスこそしなかったが……
男の村民はエマさんと、嫁ズを含めた女の村民はアンリとい~っぱい踊りまくったのだ。
情熱的に、激しく! 熱く!
アンリもエマさんも、踊る相方を心配そうに見ていて、少し笑えた。
ちょっち、ジェラシーって感じかも。
だけど、俺は心の中で言ってやった。
大丈夫!
君達の愛は深いんだから。
こんな事では壊れないぞって。
踊りがひと段落して、また歓談タイムへ。
と、この時。
アンリが俺にひと言。
「ケン様、エマと一緒に、皆さんへご挨拶をしたいのですが」
何、エマって?
しっかり呼び捨てじゃないか。
ここで俺は、突っ込みを一発!
「あれ、アンリ。エマって、何? その呼び方、俺は初めて聞いたぞ」
俺が惚けた口調で言うと、アンリの奴、ハッとする。
「あ!」
「何? あ! って、ふふふ」
「ふふふって、怪しい……う~、分かったぞ! ケン様、さっきのダンス……ケン様の仕業ですねぇ!」
「ははは、当たり。……良かったな、アンリ。エマさんを大切にして……末永く幸せになれよ」
「え?」
え?
じゃないって。
とっくに、ばれてるのさ。
俺が無言で悪戯っぽく笑うと、アンリの奴は苦笑&照れ笑い。
「ケン様……ご、御免なさい……すぐ相談するって言っていたのに」
アンリにとっては、初めての恋かもしれない。
そのせいか、いつもの、はきはきした「ありがとうございます!」は、なし。
でも良い、構わないよ、そんなの。
アンリ、お前、王都の誰かさんを反面教師にして……頑張れ!
心の中でエールを送った俺は一転、真顔に。
「まあ、良いじゃないか。なら挨拶してくれる? すぐに行けるか?」
「はいっ!」
おお、出た、いつもの元気な返事。
俺からOKを貰ったアンリはダッシュして、エマさんの下へ。
一方、俺は村民へ呼び掛ける。
「お~い、みんなぁ、アンリ達が挨拶するぞぉ!!!」
こうして、村民全員が注目の中、アンリ達の挨拶が始まった。
見れば、アンリとエマさん、しっかり手を繋いでいた。
「皆さん! 本日は私とエマの為にこのような楽しい
はきはき挨拶するアンリを皆、笑顔で見つめている。
「私達は決めました。ふたりで、このボヌール村の村民になります」
「はい! アンリの言う通りです! 宜しくお願いしますっ!」
え?
いきなり出たよ。
衝撃発言が。
吃驚した俺以下村民が、注目していれば、
「ですが、私達はエモシオンの町で、このボヌール村の素晴らしさを伝える大役を仰せつかりました。ですから、しっかり役目は果たして来ますっ」
「頑張りますっ!」
お、おいおい!
という事は?
「私とエマは、しっかり村の事を伝え、後を任せられる優秀な者を育てあげたら、村にすぐ戻ります。その際は……夫婦として改めて宜しくお願いしますっ!」
「お願いしますっ!」
おおおおおおおおおっ!!!!!
村民から、湧き上がる大歓声。
そりゃ、そうさ。
村民が、こんなに喜ぶのも無理はない。
村の事をしっかり考えてくれる、こんなに素晴らしい仲間ふたりが増えるんだもの。
それも、夫婦になって移住してくれるなんて。
嬉しいったらない!
最高だ!
うん!
アンテナショップ、大成功。
まだ、開店もしていないのに。
……でも店を開こうと頑張って来て、本当に良かった。
俺達から発信した未来への送信を、この若いふたりが早くも受信、キャッチしてくれた。
そして、しっかりと、素晴らしい答えを返信してくれたのだ。
うん、素敵な予感がする。
これからも、ボヌール村の魅力という『信号』を、いっぱい、いっぱい送りたい。
もっともっと、輝かしい未来へ届けって。
挨拶が終わり、真面目に深々と、頭を下げるアンリとエマさんへ……
俺、嫁ズを含めた村民全員は、大きな拍手と声援を送っていたのであった。
※『未来への送信』編はこれで終了です。
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