第15話「何度でも!」
文字数 2,889文字
オディルさんとの出会いは、俺とレベッカの絆を、改めて強固にしてくれたのだ。
ちなみにオディルさんとは、一応住所を交換しておいた。
彼女は最早、柄職人の『師匠』だもの。
一期一会なんて勿体ない。
ナイフが上手く作れたら、魔法鳩便で報せる約束をした。
もう時間は、お昼過ぎ……
昨日同様、露店でオープンな昼食。
天気が良いと、外で食う飯は凄く美味い。
ふたりとも大満足である。
その後はレベッカの希望で、冒険者ギルドを見学。
恰好が恰好なので、初日同様、『スカウト』されかかったのはご愛敬。
更に軽く王都観光をし、白鳥亭へと戻って来た。
笑顔で迎えてくれたアマンダさんには、お陰様で、『良い所』へ行けたとお礼も伝えた。
さてさて、昨夜に引き続き、今夜も俺とレベッカは、夕食の手伝いをする事になっている。
一旦部屋へ戻って、アマンダさんから借りた業務用のブリオーに着替える。
少々強行軍だが、レベッカは充実しているらしく元気いっぱい。
浮き浮き気分が伝わって来る。
夫婦だから遠慮はない。
俺の前で、速攻で脱いで、肌着姿のレベッカ。
相変わらず抜群のスタイル。
いっつも思う。
レベッカは子供を産んでいても、全然身体のラインが変わらない。
逆におっぱいが、やや大きくなって本人は大満足。
もう完璧に綺麗だって思う。
「ダーリン、私、凄く楽しい! 今回の旅行は、人生でも5本の指に入るよっ」
「おお、そうか」
「うん! まさか、子供の頃から使っているナイフを、作った人に出会えるなんて! ダーリンとの出会いも超運命的だけど、オディルさんとの出会いも、超が付くサプライズかも……」
「だな、普通は絶対に出会えないもの」
「だよねっ」
「ちょっち、疲れただろう?」
「ううん、大丈夫!」
「いやいや、少し回復魔法かけといてやろう。で、元気いっぱいになって、完璧な接客してやろうぜ」
「うふふ、昨日みたいに、またナンパされちゃうかな? さらっと
レベッカの言う通り、昨夜彼女はナンパされた。
グレースの時もそうだったが、この宿の8割はアマンダさん目当ての男性客。
だけど他に、可愛い女子が居ると簡単に乗り換える。
それが王都クオリティ。
当然だが、レベッカ、お誘いは丁重にお断りしてくれた。
まあ、ここは『お約束』で、俺は不安顔をしてやる。
「むうう、レベッカは面食いじゃないか? カッコイイ男の子に弱いから心配だ」
「もう! そんな事ないって! 私はダーリン命だもの、オディルさんみたいにっ」
レベッカは不満げに「ぷくっ」と頬を膨らませると、「ひしっ」と抱きついて来た。
こいつ、ホントに可愛い。
「よし! このまま魔法かけてやるからな」
「うん!」
俺はレベッカを抱いたまま、回復魔法を発動。
宿の仕事に備えて、ふたりとも体調を万全の状態にしたのである。
1時間後……
俺とレベッカは手伝いへ入った。
白鳥亭は今日も大が付く繁盛。
夕食の手伝いだけでも、目の回るような忙しさであった。
しかし一生懸命働くと、飯も美味い。
更に2時間後……
お客さんの食事が終わった。
更に後片付けも終わり……
アマンダさんからは、今夜も『まかない』という形で、アールヴ特製のハーブ料理を振舞って貰った。
やっぱ凄く美味いぞ、これ。
と思ったら、早速レベッカが、
「アマンダさん、この料理の味付けですけど」
「はい、これはですねぇ……」
本当は食事中に、こんな会話は良くないのだが……
事前に俺と相談し、アマンダさんにOKを貰っているので、全く問題ない。
グレースが既にレシピを教えて貰っているから、まずいかなと思ったのだが……
レベッカは考え直し、やはりアマンダさんから直接の教授を希望した。
なので、「改めて教えて下さい」と、頼み込んだのである。
幸い、アマンダさんは嫌な顔ひとつしなかった。
「成る程! 良く分かりますっ。後程厨房で、具体的に実地で教えて頂いて良いですか?」
「ええ、喜んで」
レベッカはハーブ料理習得に……本気だ。
アマンダさんにエンジンをかけられ、オディルさんというターボ装置で一気に加速した。
さしずめ俺は、愛というハイオク燃料ってとこか。
目をキラキラさせてアマンダさんに喰い付くレベッカを、俺は温かく見守っていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
宿の仕事が終わり、部屋に戻ってから……
俺とレベッカは情熱的に愛し合った。
オディルさんの話を聞いたせいだろうか?
いつものレベッカより、数倍反応が激しい。
俺もたっぷり時間をかけて愛してやる。
……そして、愛の行為は終わった。
緩やかな、まどろみの時間が訪れる……
ちゅ。
満足そうな表情をした、レベッカの唇にキスをする。
ちょっと、彼女の汗の味がする。
でも、全然OK!
「うふ」
「ありがとう、最高だった」
「私も……最高に気持ち良かった……ねぇ、ダーリン」
「何?」
「私達、オディルさん夫婦みたいになれるかな?」
昼間聞いた、オディルさんの夫への愛は深かった。
レベッカは俺へ、しっかりと確かめたいのだ。
「大丈夫、もうなってる」
「あは、そうだよねっ!」
レベッカは裸の俺の胸へ、顔をすりすりして来る。
俺にしっかり『保証』して貰ったせいか、満面の笑みだ。
しかし、徐々に顔が曇って行く。
何を言うのかと思ったら、
「ねぇ……人間って……いつかは死ぬんだよね?」
充実した人生を過ごすオディルさんが見せた、唯一の悲しみ……
それは、愛する夫との別れだった。
レベッカは、オディルさんの悲しそうな表情を思い出して、感傷的になったに違いない。
こんな時には、「馬鹿な事言うな!」なんて責めちゃいけない。
だから、俺ならではの『切り返し』をしてやる。
「ああ、そうさ。現に俺なんか一回死んでる」
「あ! そうだった!」
レベッカは驚くと、声を潜める。
「……ダーリンって転生者だもんね。それに、私もダーリンが居なかったら、どこかの森でオーガに食べられて死んでたんだ……私達、生まれ変わって出会ったのと一緒だね」
子供のように驚き、納得するレベッカがまた可愛い。
そして、
「ダーリン、オディルさんの言葉……覚えてる?」
「勿論!」
「私も同じ! オディルさんやクミカさんと同じ! ダーリンが大好き! 私達はナイフの刃と柄みたいに一心同体なのっ! 死んでも、生まれ変わって、ダーリンと巡り合ってまた夫婦になるの! 何度でも何度でも! 絶対に!」
真っすぐ俺を見て、強い決意を告げるレベッカを、俺は優しく抱き締めていたのだった。