第3話 「里帰り」

文字数 2,471文字

 馬車でエモシオンの町に着いた俺達を、門番から取り次いだ衛兵が城館まで先導してくれる。
 何度も面会しているから、衛兵も俺達の顔を知っていた。
 だから、オベール様とミシェル母のイザベルさん夫妻にはすぐ会う事が出来た。
 
 城館の中で会う時は、いつも人払いして貰う。
 身内だけになるからオベール様も気兼ねなく、(おおやけ)には行方不明となっている愛娘を本名で呼ぶ事が出来るのだ。

「おお、ステファニー!」

「お父様ぁ!」

 「ひしっ」と抱き合う父娘。
 感動の再会。
 そして……

「母さん、相変わらず若いわねぇ」

「うふふ、ありがと。ミシェルも元気そうね、シャルロットは元気?」

 ミシェルとイザベルさんも、ステファニー達ほどテンションは高くないが感動の再会。
 娘に言われる通り、イザベルさんは粋なお姉さん、本当に若く見える。
 俺が初めて会った時同様、30代前半にしか見えない。
 本当の年齢?
 ……ノーコメント。

 ミシェルが、愛する『弟』に笑顔で合図を送る。

「ばぁ! フィリップも元気ね、それにとても大きくなった」

 イザベルさんに手を引かれたフィリップも、俺の子供と同じ2歳。
 俺達が身内なのが分かるのか、にこにこしている。
 顔は、イザベルさん似かな?

「うふふ、可愛い跡継ぎも出来てこのまま行けばオベール家も安泰ね、お父様、お母様」

 ステファニーが笑顔でそう言った瞬間、オベール夫妻の顔が僅かに曇った。
 
 どうやら、心配事があるらしい。
 気がついたのは、俺と元魔王のクーガーだけだ。
 ステファニーとミシェル、そしてクラリスはフィリップに構いながら、イザベルさんと話している。

「親父さん、ふたりきりで、ちょっと話しませんか?」

 気を利かせた俺が内緒話を持ちかけると、オベール様は縋るような目付きをする。
 「助かる」というアイコンタクト。
 やはり、何かあるのだ。

「分かった、ムコ殿。じゃあ私の書斎に行こう」

『旦那様、後で共有しましょう』

 すかさずクーガーが、念話で意思を伝えて来る。
 家族の悩みは、基本的に家族全員で解決。
 これが、ユウキ家の方針だ。
 俺は軽く手を挙げて、クーガーに応えたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「まあ座ってくれ」

 俺に肘掛付き長椅子(ソファ)に座るように勧めて、自らももたれ込むように座ったオベール様。
 なんだか、相当お疲れのようだ。
 
 俺は、単刀直入に問う。

「どうしました? 心配事があるのでしょう」

「勘が良いな。さすがムコ殿だ」

「俺達は家族ですよ。包み隠さず話して下さい」

「……分かった。お前から聞いたステファニー救出の件を考えたら絶対に相談した方が良いと思ってな」
 
 ステファニーとオベール様が再会したあの日、落ち着いてから俺は救出の経緯を説明した。
 オベール様は俺の気遣いを理解してくれた。
 ドラポール伯爵家の失態にして、オベール家に火の粉が降りかからないようにしたという俺の意図を。
 俺の行いを意気に感じて、お前にならステファニーを任せたいと言ってくれたのだ。

 但し、俺はオベール様へ、救出の一部始終を話してはいない。
 細かい事を言っても話が余計にややこしくなるだけだから。
 とてつもない魔法を使って、行方不明に見せかけたとだけ言ってある。
 
 だが、オベール様は、知った。
 俺がとんでもない力を持つと。
 
 でも、このヴァレンタイン王国の王様へ『勇者のご注進』など出来やしない。
 そんな事をしたら、色々と経緯を話さなくてはいけない。
 ボヌール村へ王国の捜査の手が伸び、勇者の俺が捕らえられ(捕まらないけど)、折角掴んだ愛娘(ステファニー)の幸せを壊す。
 となると、加えて義理の娘ミシェルの幸せをも壊す。
 俺が捕まらなかったら、虚偽報告で王国から罰せられ、オベール家の行く末にかかわる。
 ふたりの娘の幸せを壊した上に家庭まで崩壊させたら、いくら熱々でもイザベルさんから離婚を切り出されるのは必至。
 自らの幸せも、放棄する事になる。
 今のままが……全員幸せになれるのだ。

 閑話休題。

 悩み事を明かして欲しいという俺の申し入れを受けると、オベール様は決めたらしい。
 眉間に、深く皺が寄る。
 思い出すだけでも、不愉快になるようだ。

「実はな、あのドラポール伯爵家が、またもやちょっかいを出して来たのだよ、つまり嫌がらせだな」

「でも、オベール様って、あれから寄り親を変えましたよね。もうあいつらとは関係ないんじゃ……」

 貴族社会というのは、足の引っ張り合いだともいえる。
 少しでも脇が甘い所を見せると、絶対に容赦しないらしい。
 俺が画策した『ステファニー誘拐【偽装】事件』からドラポール伯爵家は転落の一途を辿った。
 屋敷前でのステファニーの堂々たる拉致で、貴族としての名誉が一気に失われた。
 それがきっかけで、三男ウジューヌの不埒な悪行がばれたのだ。
 
 事件がなくても、ドラポール伯爵家の王都での評判は最悪だったようである。
 こうなると、処分する恰好の口実として王家よりつけ込まれた。
 誇りを重んじる貴族として、あってはならない失態や品格の無さを責められ、所有する領地の大部分を没収されてしまったのである。

 概して、貴族は時勢の流れに敏感だ。
 ドラポール家の著しい凋落を見て、オベール様達寄り子へ上級貴族他家からの誘いが一斉に来た。
 当然、主君鞍替えの誘いである。
 寄り親である上級貴族にとって、派閥の拡大は自家の繁栄に繋がるから抜け目がないのだ。

 子分の寄り子だって、同様である。
 寄らば大樹の陰……
 多くの中堅、下級貴族が何かと別の理由をつけて主君の鞍替えをしてしまった。
 
 元々要領が良いオベール様も例外ではない。
 嫌気がさしていた悪辣な主君を、さっさと代えたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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