第19話「ジュリエットが聞きたい事」
文字数 2,671文字
そう、念話で問い掛けて来たジュリエットの表情はひどく真剣だ。
こんな時はちゃんと話を聞いてやらなきゃ。
俺はやや微笑んで、返してやる。
『ああ、何だい?』
『うむ、まずは確認だ。ヴァルヴァラ様にお聞きしたのだが……現時点でお前の実力は今の私より遥かに上だな?』
ふうん……
この子は、今の自分のレベルを分かっているんだろうか?
俺はレベル99、そしてこの子ジュリエットは50を少し超えたくらいか。
ヴァルヴァラ様の事だから……
啓示を伝えた時に、この子が素直に俺の指示を聞く為にと教えたのだろう。
でも、これって切り返しが難しい。
俺の力を自慢し過ぎても、かと言って謙遜し過ぎてもNG。
相手がジュリエットのような『俺様タイプ』なら尚更だ。
なので、考えてこう返す。
『ああ、そうかもな、しかしお前はこれからもっと力を付けるだろう? 俺なんかすぐに超えるさ』
『確かにそうだ。もう少し経験を積めば、お前などすぐに追いつき追い越す。それにこれくらいのレベル差がなければ、手助けをして貰う価値などない』
ははは、やっぱりね。
この子の負けん気は相当だ。
そして、超が付く自信家でもある。
ああ、そう言えば質問の途中だったっけ。
でもまあ良いや、気軽に何でも聞いてくれ。
但し……
嫁ズとどのようにエッチするの? とかは無理っ!
『まあ頑張れ……それより、質問って何だ?』
『うむ、そうだった。質問とはお前の今の生き方についてだ』
『俺の生き方?』
俺の生き方に関して質問?
良く考えれば変じゃね。
だって……他人の事なんかほぼ興味ないっていう、このジュリエットがだよ。
と考えていたら、ジュリエットは真面目な顔で質問をして来る。
『そうだ、お前の無駄な生き方だ。何故それほどの力を持ちながら、あのような辺鄙な田舎村で埋もれている? 何故刺激のない世界で安住してしまっている?』
え?
無駄な生き方?
って……おいおいおい。
この子は俺の事情も知らず、凄い事を言う。
だけど、ここで怒っても大人げないし、この子とは一生ずっと付き合うわけでもないし。
『辺鄙な田舎村で安住ねぇ、俺はそういう生き方が好きだからとしか言えない。それに決して埋もれているとは思わないけど……』
『いいや、違う! 絶対に埋もれてしまっている。何故ならば才能を持つ人間、お前の場合は管理神様から授けられたものかもしれないが……それを有効に使わないのは、とんでもない罪悪だからだ』
『とんでもない罪悪? う~ん、ちゃんと有効に使っているけど?』
『違う! 私の言っているのは、お前の能力をもっと広く世の為、人の為に使え! と言う事だ』
『広く世の為、人の為?』
『分からないのか? 例えばお前が居るボヌール村、そしてこの王都を比べてみよ。住まう人間の数だけで偉い違いじゃないか?』
人の数?
ああ、そう言う事か。
ジュリエットの言う意味が分かって来た。
話が見えて来た。
俺がそんな事を考えている間も、ジュリエットの話は続く。
『仮に、怖ろしい災厄が起こったとする。お前が王都で完璧に活躍すれば5万人もの人間が救われる。しかしお前の村ではせいぜい100人……この違いは大きい、大き過ぎる』
まあ5万人の命と、100人の命……
数は確かに違う、違い過ぎる。
まあ、ジュリエットの言っている事は理解出来る。
俺のレベル99の力をもっと多くの人の為に役立てろって事だ。
確かに、それは正論だ、だけど……
『ジュリエット、お前の言う事は分かる。だけど俺の力は後から付いて来たモノだ、ボヌール村に住むことを選んだから、管理神様より授けられたんだ』
『関係ない! 後からだろうとなかろうと……強大な力を持つ者には責任と義務が生じる』
責任と義務?
そうかもしれないけど……
だったら……
『なら俺はレベル99の力なんか要らない。俺にとっては家族と、家族同様なボヌール村の100人の方がずっと大事。王都の見ず知らずな5万人よりも』
『ふうむ……』
『100人より5万人を選べ……多分、それって……神様か、立場ある王様の論理だろうな。管理神様なんかそうだけど、この世界に生きる人間全てを見ていかなきゃいけないだろうから、きっぱり割り切る場合もあるだろうし』
『…………』
『だけど俺はレベル99とはいえ、気持ちは平凡な人間だもの。まずは自分の家族を守りたいし、その為に必要なら戦う。だから後付けされたレベル99の能力ありきで、大義の為に戦う生き方は出来ない』
『…………』
『でも、いろいろな考え方があるから頭から否定はしない。ジュリエットが大義の為に生きたいのなら、勇者になって貫けば良い』
『…………』
『単に俺がそう生きたいと思っているだけだから、ジュリエットは違う生き方をすれば良いのさ』
『…………』
『5万人が助かる為に、100人なんか切り捨てろという考えもある事は否めない。だけど俺はボヌール村の守護者さ。つまり、ふるさと勇者だから村民ひとりの為にだって戦うよ』
『村民ひとりの為に……戦う』
『ああ、今日、お前はマルコさんを助けて、ブランカちゃんにお礼を言われただろう?』
『ああ、言われたな……父親が無事に帰って、とても喜んでいた……可愛い子だった……』
『ああ、確かに可愛かったな。俺、今でもあの子の嬉しそうな顔が目に浮かぶよ。今日、俺とお前はあの子の為に戦った。5万人を救いたいお前には物足りないかもしれないが、俺にはあの子の……マルコさん一家3人の笑顔だけでも充分満足さ』
『…………』
『多分それと……一緒なんだ、俺がボヌール村を守るって』
『ふうむ……お前の考えは良~く分かった。賛同しようとは思わないが……』
『だ・か・ら! ジュリエットは自分の生きたいように生きろって。この世界での俺の役目は、限られた時間の中でお前を助ける事だろう?』
『うむ! 了解だ! 明日は頼むぞ、戦友!』
おお、戦友か。
上手い事言う、ジュリエットの奴。
何か、ぴったり来る。
今の俺とジュリエットの関係を的確に表してる言葉だ。
なので、とっても気分が良い。
改めて乾杯を要求するジュリエットのジョッキに、俺は自分のジョッキをカチンと合わせていたのであった。