第7話「クラリスと王都へ①」

文字数 2,242文字

 翌月、某日午前……
 湖で約束した通り、俺とクラリスはふたりで、王都への街道を歩いていた。
 ここまで来る方法は先日、ミシェルと来た時と同じである。

 まず馬車で村を出る。
 村道を暫し走り、街道までは行かず、ひとけがない事を確かめ……
 付近の雑木林で、馬車からベイヤールとフィオナを外し解放。
 ちなみにベイヤール達は、俺達が呼ぶまで自由行動。
 ふたりを含め、俺の従士達は日々真面目に俺の家族と村民を守り、且つ一生懸命働いている。
 なので、この前のロケハンの時と同様、
『感謝&慰労』の休暇である。

 乗っていた馬車は、俺の収納魔法で「さくっ」と仕舞っておく。
 必要があれば、すぐに出せる状態で。

 仕上げは、転移魔法で「ほいっ」と王都近くの目立たない場所へ来る。
 タイミングを見て、さりげなく街道へ入る。
 こうやって、いかにも遠くから旅して来たように装うのだ。

 閑話休題。

 俺に手を引かれたクラリスは、さっきから、ず~っと笑顔である。

 生まれた時から王都育ちのグレースだって、俺との旅行は凄く喜んだのに……
 王都未体験で今迄連れて来たレベッカとミシェルの反応は、超が付くくらいの、
「わくわくどきどき」となった。
 
 レベッカ、ミシェルふたりとも、普段のキャラ返上で、子供みたいにはしゃいでいた。
 同行するのが『俺』だから、素を見せてくれたのかもしれない。
 そう思うと、余計に嬉しい。
 
 当然、今回のクラリスも全く同じ。
 歩きながら目をキラキラ輝かせ、辺りを「きょろきょろ」見回している。
 普段のおっとりした、大人しいクラリスとは大違いだ。

 王都へ通ずる石畳の街道は、大勢の旅人や商人達が乗る馬車などであふれていた。
 夥しい数の冒険者、巡礼の親子や、周辺を定期パトロールしたらしい騎士の一団も居る。
 ボヌール村は勿論、エモシオンも比べものにならない交通量の多さなのだ。

 クラリスが感嘆して言う。

「旦那様、やはりと言うか……いろいろな人が居て……凄い数ですね。何か息苦しくなりそう」

「あはは、そうだな」

「ええっ、あ、あれって! じょ、城壁なんですか?」

 クラリスが指さした方角を見ると、周囲の木々の向こうに、王都城壁のてっぺんが見える。
 エモシオンの、5mくらいな城壁に慣れているクラリスにとっては、段違いの高さである。

 俺が頷き、

「うん、城壁だ」

 と、答えれば、クラリスは手をかざして、見とれている。

「わぁ! レベッカ姉から聞いた通りだわ。凄く凄く高いのですねぇ!」

 充分、城壁を見た後、俺の顔を見つめ大興奮。
 「きゅっ!」と俺の手を握るクラリス。
 ああ、可愛いな、本当に……

「クラリス。もう少しで南正門だ、入場手続きをするぞ」

「はい、旦那様! 村民証、出しますね」

 クラリスはちゃんと、先発組に入場手順を取材したのだろう。
 「打てば響く」という感じで、対応がとてもスムーズである。
 同じく、俺も村民証を出し、

「うん! 入場税は俺とクラリスのふたり分、一緒に払うからな」

「ありがとうございます!」

 いつもの通りだが……
 入場を待つ人の数も夥しい。
 ずら~りと並んでいる。
 思わず、前世の都会で大人気だった某飲食店を思い出す。
 
 お約束で、待つ時間も相当だが……
 初めての王都で、『あげあげ』のクラリスは全く平気。
 俺と手を繋ぎ、嬉々として行列に並んだのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 今回、俺達の恰好は、洒落たブリオーを着た一般市民風。
 お約束ともいえる、プレゼンテッド、バイ、クラリスである。
 俺とふたりで王都へお出かけということで、彼女は超特急で作り上げた。

 この服装の為、レベッカの時みたいに、冒険者からスカウトされるのはなかったが……

 可愛い女連れで来れば、いつもながら、王都の洗礼がある。
 当然、クラリスも受けた。
 強引なナンパが、輪をかけて凄かったのだ。

 それも数人の男が「ばらばらっ」と現れ、ぐるりと俺達を取り囲んだ。

「お~い、可愛い子ちゃん! 俺と遊びに行こうぜ」

「へへ、酒が美味い、良い店があるよ」

「何でも好きなアクセサリー、俺が買ってやるからさ」

 クラリスがいくら、連れの俺は『夫』だと言っても……
 奴等は全く、聞く耳なし。
 スルー、スルーの、連続技が炸裂している。

「はぁ? そんな男が夫だって? おいおい、やめろって!」

「超美人の君には、そんな奴、ゴミかカスみたいなもんだぜ」

「うん! いっそ別れちまえ、速攻で離婚決定!」

 笑顔が優しい、癒し系タイプのクラリスは……
 とても大人しくて、強引な押しに弱い……
 という勝手なイメージが、奴等にはあるらしかった。

 まあ実際、その通りなんだけど。
 クラリスは、頼まれると嫌って言えないタイプだから。
 危ない、危ない……
 そういう子は、しっかり守らないといけない。
 
 ナンパ男共は、『連れ』の俺さえ引き離せば、「何とかなる!」という短絡的な考えに至ったのだろう。

 だから、脅し、貶め、俺とクラリスを無理やり分離させようとする。
 吃驚したクラリスは、必死で俺にしがみつく。

 こらこら、可愛い嫁を怯えさせるな!
 って事で、俺はお約束、『戦慄のスキル』を発動させたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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