第4話「デモンストレーション①」
文字数 2,507文字
いよいよ紙芝居の実演だ。
改めて気合を入れ直そう。
夢の世界だからイメージで作れる。
木枠とイーゼルのセットに続き、「ぱぱっ」と、俺が取り出したのは、ひもで繋がれた2本の木の棒。
『え? ダーリン、それどうするの?』
レベッカが、不思議そうに聞いて来るが、ここでストップをかけたのがミシェル。
『まあまあ、レベッカ、いつもの昔遊びのパターンだよ。まずは最後まで見ていよう』
『うん! 分かった』
親友のミシェルに言われ、納得したレベッカ。
俺に対し、期待に満ちたうるうるの眼差しを向けて来る。
大丈夫!
愛するお前の、大きな期待に応えてやるぜ!
俺も「任せろ!」って、瞳で返してやる。
この道具は、紙芝居では、お約束。
俺は開始の合図として、棒を打ち鳴らす。
カン! カン! カ~ン!
ご存知の方も居るだろう。
この棒は
拍子木とは、叩いて拍子を取る為の音具である。
一般的に使われているのは、相撲の呼び出しとか、歌舞伎の舞台。
当然、楽器としても使われている。
『さあ、紙芝居が始まるよ、始まるよぉ! さあて、今日のお話は何かなぁ?』
本当はここで飴を買って貰う。
そうやって、紙芝居屋さんは商売をしていたのだ。
『おじさん、何ぃ! 何のお話ぃ? 飴買わなくて良いのぉ?』
突っ込みをしたのは、クーガー。
俺同様実体験はないだろうが、嫁ズの中で唯一、紙芝居を知っている。
だから、いつものように一緒にデモンストレーションしてくれるのだろう。
当然ながら、俺もツ―と言えば、カー。
『おいおい、おじさんはないだろう? お兄さんと呼んでくれ。飴は今日はなし、特別サービスでタダだよ~ん』
『嬉しい! タダなのぉ! じゃあ、大サービスで旦那様って呼ぶよぉ』
大サービスで旦那様って?
おお、そう来たか!
じゃあ、こっちもだ!
『ええっ? 旦那様ぁ? う~ん、じゃあ君みたいな、かわい子ちゃんなら、特別にそう呼んでもOKだ』
特別な呼び方を、俺に許可されたクーガーは笑顔でVサイン。
ああ、結構楽しいな。
嫁ズやお子様軍団だけではなく、俺も存分に楽しめそうだ。
うん!
乗って来たぞ!
片や、俺とクーガーのやりとりを、他の嫁ズは呆気に取られて見ている。
顔を見合わせ、ウインクし合った俺とクーガー。
「そのまま、行っちゃえ!」という、クーガーからのアイコンタクトを感じた。
そして紙芝居には、絶対に欠かせないのが太鼓。
どんどんど~ん!
『さあ、今日の話はっと! 主人公は何と猫だ!』
俺が話の内容を切り出すと、これまたお約束。
クーガーが大袈裟に驚いてみせる。
『へぇ、猫ぉ! 面白そ~』
口に手を当てて悲鳴を押さえるポーズのクーガー。
もう、のりっ、のりだ。
だから俺の口調もどんどん滑らかになって行く。
『おお、猫だ! それも普通の猫じゃない、何と! 喋る猫なんだぞぉ!』
『うっそ、旦那様ぁ! そんな猫、絶対に居ないって!』
「ええ~っ?」というジト目のクーガー。
まあこれも、何も知らない、お子様軍団や一般の村民向けのコメント。
ここに居る嫁ズは、ジャン=喋る猫を含め、従士達の存在は当然知っている。
彼等が、俺と共に命を懸けて戦っている事も。
『いやぁ、居るんだな、これが! さあ、話を始めるぞぉ』
紙芝居の命は、まずこの口上だろう。
当然、メインビジュアルとして、絵のインパクトも同じくらい重要だ。
口上と絵を組み合わせ、どのように場を盛り上げるかにかかっている。
俺が木枠の扉をぱかっと開ける。
当然、中の紙芝居絵も作っておいた。
うん!
タイトルが出た。
『靴履き猫』って。
そう、俺が今回演目として決めたのは、前世地球のヨーロッパ各地で古くから伝わる童話である。
グリム童話の初版、フランスの某作家様を始めとして、数え切れないほど素材にされている。
今回はこの異世界流に大幅アレンジして、俺の紙芝居の素材に使わせて貰う事としたのである。
ここで大きく反応してくれるクーガー。
『ええっ? 靴を履くって、どんな猫ぉ』
『さあ、それはこれからのお楽しみだぁ!』
俺はまた、さっと紙を引く。
次の紙が現れ……
俺の絵がさらされた。
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
『…………』
嫁ズ、全員沈黙&ジト目……
何、その反応って……
う~。
自分で言うのも辛いが、俺には絵心が全くない。
「オールスキルを与えるよ~ん」と言いながら、習得したスキルに入っていない。
「もう、管理神様ったら、オールスキルじゃないじゃないかぁ」と愚痴りたくなる。
嫁ズよ、まあ今回は夢の世界で行う、デモンストレーションだから許してくれ。
しかし、万事心得ているクーガーは、容赦なく突っ込む。
『あのぉ、これって某有名画家みたいな前衛的芸術? それとも、何か謎の生命体?』
『違う、猫だって! 単に超下手くそなだけ! ううう、次回はそこの綺麗なお姉さんに描いて貰うぞぉ、絶対に描いて貰う! という事で、クラリスお姉ちゃ~ん、よろしくぅ』
俺はいきなりクラリスを指名した。
指さされたクラリスは、「え?」って感じで驚いた。
『わ、私ですかぁ?』
ここでまた、クーガーがフォロー。
『そうそう、これじゃあ、可愛い猫がせいぜいゴブリンに見えるよぉ。絵はクラリスに任せないと』
『あははははは』
『うふふふふっ』
『ほんと、ほんと!』
『猫じゃな~い、ひどいお化けよぉ』
『つらすぎるぅ』
やっと、この場の雰囲気に慣れた嫁ズ。
大笑いして、紙芝居になごんで来てる。
でもさ、何も、そこまで言わなくても……まあ、いっか。
俺は苦笑しながら、次の口上を告げるポーズをしたのであった。