第22話「そうだ! 学校を作ろう!②」

文字数 2,008文字

 俺は嫁ズに、ボヌール村の学校創立の相談をしてみた。

「私は賛成」
「うん、良いと思う」
「先生をやりたい。狩りを教えたいな」
「算数の勉強と、お店、手伝って貰おう」

 反対意見はなく、全然問題はなかった。
 この場に、嫁ズ全員は居ないが……
 まず4人の了解は得た。
 後の5人へは念話なりで、後々了解を取ろう。

 嫁ズ4人の意見の大半は……
 専門の勉強は、後々個人の希望を取るにしても、基礎の勉強はこうやって人数多めで楽しくやった方が良いのでは、という賛成意見だった。

 次に俺は領主のオベール様夫婦へ、ボヌール村の学校創立を打診した。
 「そんなのいちいち言わないで、勝手にやればいいじゃんか」という意見もあるかもしれない。

 でも、この異世界で、領主の権限は強い。
 メンツの問題もあるから、村として何かやるには、いちいち了解を取っておかねばならないのだ。

 だが案ずる事はなかった。
 話をしたら、悪い事ではないので、オベール様もイザベルさんも文句なくOK。

 経費がそんなに掛からない事も効いた。
 校舎は村の空き家を使えば良いし、教師は俺や嫁ズ、村民がやる。
 人件費も教材費もそんなにかからず、たかがしれている。

 但し、そんな規模の学校でも、いろいろと準備はある。
 様々な調整が必要で、正式発進にはある程度の時間がかかるだろう。

 加えて、今回のボヌール村の学校創立は、テストケースとして考えて欲しいとも告げた。
 将来、もっと規模を大きくしたり、教える内容を本格的にする。
 更に、ゆくゆくはエモシオンにも学校を作る場合の参考になるのだと。

 学校創立に問題はないが、オベール様夫婦ふたりの表情は少し曇っている。
 肝心の、というと語弊はあるけど。
 ボヌール村にそのような試みをしても、エモシオン在住である一粒種フィリップが、ひとりさびしく学ぶ環境は全く変わらないから。

 でも俺は、その点もバッチリ考えている。
 テーマのもうひとつは、オベール家との懇親だもの。

 俺は再び周囲を見た。

 子供達は相変わらず。
 状況は変わっていない。

 でも注意しなきゃ。
 離れた場所で、夢中になって話しているといっても、フィリップに聞かれたら絶対にまずい。
 なので、声のトーンを数段落とす。
 ここでまた提案をする。

「俺、フィリップと旅に出ます」

「え?」
「ケンがフィリップと?」

「はい。でも本当に小さな旅ですよ、ボヌール村までの」

「???」

 首を傾げるオベール様。
 イザベルさんも、「もっと具体的に」と求めて来る。

「ケン、もう少し詳しく説明してくれる」

「はい」

 返事を戻し、俺は説明を始める……

 うん!
 次の俺の提案とは、「可愛い子には旅をさせよ!」というモノ。

 具体的には、フィリップを単身ボヌール村へ行かせて、1か月か、2か月くらい、俺の家に滞在させる。
 村の子供達と一緒に、楽しく学ばせようというもの。
 例えていえば、短期留学かな。
 このミニイベントも、学校創立に役立つ経験則になる筈だから。

 それに、フィリップはただ学ぶだけではない。
 本来の騎士の丁稚修行に倣い、勉強や身体を鍛えるだけでなく、農作業を含めた様々な仕事と雑用もこなして貰う。
 彼の立場は、以前のテレーズことティターニア様と同じ。
 けしてお客さんにはしないという形なのだ。

 まあ騎士の家へ修行に行くのと違い、村で学ぶと騎士以外の勉強がメインになってしまう恐れはあるが……メリットも大きい。

 他家で働きながら生活して逞しくなれる。
 自立心を養い、社会人経験を積めるって事。

 そして……
 管理地ボヌール村の事情を、深く知る事が出来る。
 子供は勿論、領民である村民達とも懇親を深められる等々。
 こういった効能効果が、フィリップ本人には、とてもプラスになるとも伝えたのである。

「うむ……だがなあ……」

 俺がいろいろ説明しても……
 とても心配していたのは、意外にも父親オベール様の方だった。

 どうやら……
 自分の目の届かない場所に、息子を置く事が心配らしい。
 年を取ってからようやく生まれた、最愛の跡取り息子。
 フィリップの身に、もし万が一の事があったらと、やきもきしていたのだ。

「何言ってるのですか? フィリップにとっては、凄く良いチャンスですよ」

 俺の援護をしてくれたのは、イザベルさん。
 何故フォローしてくれたのか?
 彼女がまず、俺を心の底から信頼してくれている事。
 それにこの提案は、愛する息子の成長につながると考えたのだろう。

 やはりというか、オベール家は夫より妻の方が強かった。
 イザベルさんは熱心にオベール様を説得し、遂にフィリップの、ボヌール村行きが決まったのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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