第21話「すもうトーナメント③」

文字数 2,258文字

 言葉に詰まったカルメンへ、俺は再び尋ねる。
 
「カルメン、どうだ? 話が分かったか?」

「うう、分かった! じゃあ聞くぞ!」

 おいおい、まずは「すみませんでした」……とか、謝罪は無いのか?
 それも、すぐ質問で返してきやがった。
 
 言動で分かる。
 カルメン・コンタドール、この女は、相当な負けず嫌いだ。

「何だ?」

「その、ルールとやらに(のっと)り、このくそ生意気な女を捕まえ、放り投げたら……勝ちだな、審判!」

「審判ではない、行司だ……」

「うう~、どちらでも良いっ! 審判! 勝ちなんだな?」

「カルメン! お前の態度の悪さを理由に反則負けにしても良いんだが……答えてやろう。ルールに基づいた戦い方で、相手の足の裏以外が地面についたり、相手を土俵の外へ出したらお前の勝ちだ」

「よ~っし! よし!」

 ギラギラした肉食獣のような目で、クーガーを睨みつけるカルメンだが……
 当のクーガーはといえば、華麗にスルー。
 何と、口笛まで吹いていた。
 そんなクーガーの様子を見たカルメンは、悔しさのあまり、ギリギリ音を立てるくらい歯を噛み締めている。

 少し間を置き……
 いよいよ立ち合いだ。

 クーガーとカルメンは蹲踞(そんきょ)し、改めてにらみ合う。
 そして、一瞬手を突き、勢いよく立った。
 派手な音をたて、鍛えた肉体同士がぶつかる!
 そう思いきや。

 何と!
 クーガーは組む寸前、両手で掌を合わせて「ぱちん」と叩いた。
 カルメンの顔のすぐ前で。

 ああ、これは!

 こんな事を全く予想もしていなかったカルメンは吃驚して、身体が強張(こわば)った。
 一瞬だが、動きが完全に止まった。

 その瞬間。
 
 クーガーは「さっ」とカルメンの背後に回り込み、背中を「ぐいっ」と押す。
 カルメンに比べて身体が華奢に見えるクーガーも、元魔王だけあって、膂力はもの凄い。
 
 軽々と、カルメンは土俵外へと、「送り出されてしまった」のである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ……女子の大会はそれから、順調に進み、レベッカ、ミシェルはそれぞれ一回勝って二回戦へ進出。

 という、流れなのだが……
 俺は、行司をアンリに任せていた。
 ひとりの女から、執拗な抗議を受けていたからだ。
 
 そう、あのカルメンである。
 クーガーに、あっさり負けたカルメンであったが、納得せず、ず~っとず~っと文句を言っているのだ。

「審判! 何度言ったら分かるっ! あんなの反則だっ! 目の前でいきなり両手を叩くなど」

「反則じゃない。あれは『猫騙(ねこだま)し』というすもうの技だ」

「猫騙しだとぉ! ふ、ふざけるな! あんな技、見た事がない」

「でも、ルールには則った技だ。だから何の問題もない」

「だ、だがぁ!」

 何度も、食い下がるカルメン。
 と、そこへ、当の対戦相手であるクーガーがやって来た。

「旦那様、どうしたの?」

「おう、ちょっとな」

 俺とクーガーの会話を聞いて、カルメンは吃驚している。

「な、何? 旦那様だとぉ? 審判、こら貴様ぁ、この女と夫婦なのか?」

「夫婦なのか?」と、聞かれれば当然答える。

「そうだよ」

「むおおおっ、ならば八百長かよ!」

 カルメンは吐き捨てるように言うと、憎悪の籠った目で俺とクーガーを睨んだ。

 ああ、そう来たか。
 と、思ったら、クーガーが低いドスの効いた声で言う。

「おい、冒険者、人聞きの悪い事を言うな」

「違うのかっ!」

「違う、私と旦那様が夫婦だからと言って、断じて八百長などではない。ならば、お前が望む、すっきりとした決着をつけてやる」

 と、クーガーが指さしたのがエール樽。
 すもう大会の合間に行われる、『アームレスリング大会』の為に用意された『特別リング』だ。

「ほう! アームレスリングか? 貴様、パワーでこのカルメン・コンタドールに挑むのか? 良い度胸だ」

「そうさ! だが、もしも私が勝ったら、潔く負けを認め、この場から退く事を約束しろ。それとしっかり謝罪しろ。お前の暴言と態度をな……」

「良いだろう!」

 これで決まった。
 クーガーとカルメンは、アームレスリングで勝負をするのだ。
 更にクーガーは、

「じゃあ、すぐにやるぞ」

「は? す、すぐか?」

「ああ、即座に結果が出るだろう? それともカルメン。お前にはギャラリーが必要なのか?」

「い、要らん! そんなもの」

 と、いう事で早速勝負。
 他の者は進行中の女子の大会に注目していて、こちらを気にする者は居なかった。
 
 そして……

 どご!
 
 手が、樽にぶつかる鈍い音がして………勝負は、またも呆気なくついた。
 当然だが、クーガーが圧勝したのである。

 手を樽の上板につけたまま、カルメンは呆然としていた。

「こ、こんな! ば、馬鹿な!」

「これで、負けを認めるな? 冒険者」

「…………」

 クーガーの問いかけに対し、カルメンは答えなかった。
 俺とクーガーを悔しそうに睨むと、即座に城館を出てしまったのである。

 結局……
 次の戦いでも、クーガーは順当勝ち。
 
 そして、レベッカとミシェルが激突。
 接戦だったが、何と、ミシェルの勝利。
 
 結果、女子大会の決勝戦は……クーガー対ミシェルとなり……熱戦の末、クーガーが勝ったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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