第11話「容赦ない追及」

文字数 2,174文字

 一計を案じた俺は、いきなり大声をあげる。

「お~い、あんたら!」

「な!? だ、誰だ!」
「何者だ!」
「名乗れ!」

 突然、そしてどこからともなく男の声がする。
 なので、冒険者達は戸惑って「きょろきょろ」している。
 
 木霊(こだま)という現象をご存知だろう。
 ヤッホーとか、高い山から声を出すと反響してあちこちから聞こえるアレ。
 そんなスキルを俺も習得している。
 声のする場所に行っても、俺は居ないのだ。

 暫く男達は声がした方向を探し回った。
 だけど俺も従士達も見つからない。
 探し疲れ、肩を竦めて戻る男達。

 さすがにリーダーらしき奴は、落ち着きを取り戻した。
 お約束の、髭男なのが笑える。
 そのリーダーが、俺に負けないくらい大声をあげる。

「そこに居る奴! 手を挙げて出て来い! さもないと矢と魔法をお見舞いするぜ」

 やっぱりか。
 予想通り脅して来た。
 そんな奴に、当然俺も従わない。

「断わる! 無抵抗で出て行っていきなりやられるのは嫌だからな」

「そんな事はしないぞ! クラン挑戦者(プローウォカートル)は卑怯者の集団じゃない」

 リーダーはそう言っているが、鵜呑みにするほど俺は愚かではない。
 俺は奴等に弱味を作らせる事にする。

「信用出来ないな。あんた方は違法行為をしているし」

 違反だとか規則に背いているとか、そんな話をすれば相手がトンデモな奴ではない限り結構気にする。
 注意して従うかどうかは別にして、一旦聞く耳は持ってくれる。
 どの時代も、どこの国の人間でも一緒だ。
 何でもありの原始時代ではない限り、一応法律が存在するからである。

 俺の言葉を聞いて、案の定リーダーは動揺した。

「俺達が違法行為だと? 馬鹿な!」

 怪訝そうなリーダーに、俺は補足説明をしてやる。

「知らないのか? ここはオベール騎士爵家の領地内だ。許可も無しに狩猟する事は禁止だ」

 俺に狩猟と指摘され、リーダーは更に首を傾げる。

「狩猟? 狩猟などしていないぞ」

「お前達はさっきゴブリンを倒しただろう?」

「何言ってる? あんな奴等、正当防衛だ。戦闘行為だ。やらなければ俺達が喰われてしまうじゃねぇか」

 確かに無抵抗では喰われるだろう。
 戦わなければ撃退出来ない。
 しかし、それはケースバイケースだ。

「理解出来るが、それは街道を通行している場合だ。このような森では通用しない」

「え?」

「お前ら、何故こんな森の奥に居るんだ?」

 そうそう、何故この冒険者クランがお宝もない森に踏み入ったのか?
 ゴブを狩っても金にはならないから、俺みたいにオーガでも倒して皮でも売るつもりなのか。
 不自然さを指摘すると、リーダーは苦し紛れに叫ぶ。

「み、道に迷ったんだ!」 

「ははは! ありえないな……街道を真っ直ぐに歩いて何故こんな森の奥深くに来る?」

 あまりにもお粗末な言い訳に、俺は苦笑した。
 ここでリーダーが反撃する。 

「……そ、そういうお前はどうなんだ」

 おお、質問に質問を返して来たか。
 苦し紛れに突っ込む、というところだろう。

 でも俺はそのような場合の対策も立ててある。
 無記名の書類を持っているのだ。

「あいにくだな、俺はオベール様から許可を貰って狩猟をしている。フリーの冒険者さ」

「な、何?」

「動物は勿論、魔物を狩ってもOKなんだ。ちゃんと許可証も持っている」

 さあ、どうだ。
 これで追いつめたぞ。

「くくく! 畜生!」

「どうだ? いい加減白状しろ! 俺がこのままエモシオンの衛兵に通報したらお前達は即座に牢獄行きだ」

「……わ、分かった! 相談したいから俺達の前に姿を現してくれ! わ、悪いようにはしない」

 悪いようにはしない?
 何言ってる?
 ふざけるなよ。

 その台詞(セリフ)ほど、曖昧で怪しいモノはない。
 少なくとも、俺の周囲でそう言われて良くして貰った者は皆無だ。
 見えない悪意を持って、丸め込もうとする気配がぷんぷんだ。

 いや丸め込むばかりじゃない。
 殺されて、死体をどこかに隠されたらそれで終わり。
 死人に口なしという立派な(ことわざ)があるじゃないか。
 まあ、こんな奴等は返り討ちだけどね。

 とりあえず、俺の返事は拒否あるのみ。

「断わる! とりあえずお前達がここに居る理由を話して貰おうか、このままの状態でな」

「…………」

 リーダーの髭男は黙り込んだ。
 すぐに答えないところを見ると、やはり何か人に言えない理由がある。
 だから、こんな場所に居る。
 
 だが奴等が答えるのを気長に待つほど、俺達は暇じゃない。
 俺はきっちり追い込む。
 クロージングへ入る。

「おいおい、黙ってちゃ分からないぜ。話すか、牢獄行きかすぐ選べ」

「ぐぐぐ」

 俺の宣告に、リーダーは更に追いつめられる。
 悔しそうに歯噛みをしていた。
 ここは攻め時、容赦なく追い立てよう。

「さあさあさあ! どうする? どうするんだよ?」

 俺は身を隠したまま、木霊のスキルを使って叫ぶ。
 口籠るリーダーを急かして、真の理由を吐かせようと迫ったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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