第20話「いきなりランクA」

文字数 2,677文字

 翌朝……

 キングスレー商会のマルコさんが手配してくれたのは、この王都でも最高級クラスのホテルだった。
 広々とした豪華な部屋でゆっくり寛ぎ、ふかふかの高級ベッドでぐっすり寝た俺達は、元気よく出発した。
 ああ、当然俺とジュリエットの部屋は別々、念の為。
 エッチな事は全く無く、と~っても健全な夜でした。

 朝一番で出発するのは、意味がある。
 冒険者ギルドは午前8時から営業開始で、例の『講座付きランク判定試験』の申し込み締め切りが1時間後の9時なのである。
 そんな悠長には、していられないのだ。

 そして……
 何となくは予想していたが、「やっぱり」という感じで驚く。
 開門前から並んでいたらしい冒険者の列で、ギルド前は大混雑だったのだ。
 さすがのジュリエットも、昨日とは全く違う様子を見て口をあんぐり開けている。

「一体、何の騒ぎだ、これは?」

 怪訝な顔で聞くジュリエット。
 冒険者ギルドのラッシュアワーは朝と夕方、それがお約束。
 中二病知識が満載な俺の中では常識だから、ジュリエットに教えてやる。

「多分、割の良い仕事を狙って来た連中さ」

「割の良い仕事?」

「ああ、朝から仕事してうまくやれば午後半ばで終わる。そして貰った報酬で美味い酒を飲む。ほら昨日の俺達みたいにさ」

「むうう……」

「だから俺には分かるよ、仕事をさっさと終わらせて」

「終わらせて?」

「お前みたいな可愛い子と居酒屋(ビストロ)で美味い酒を飲むなんて、冒険者にとって最高の贅沢じゃないか?」

「はぁ? 私みたいな可愛い子? さ、最高の贅沢なのか?」

「うん、贅沢。だって昨夜、俺凄く楽しかったから! お前も楽しかっただろう?」

「う、ま、まあな……お前と飲む酒は美味いし、確かに楽しかった」

「よっし、今日は更に気合入れて相応のランク認定して貰おう。それで俺とお前で高難度の依頼をクリアして名を売ろう」

「う、うう、了解」

 昨日とは打って変わって、今日は俺の方が気合が入っている。
 逆にジュリエットが押され気味だ。

 ズルをせず並んだので少し入るまでに時間がかかったが、俺達はギルドへ無事入って受付を済ませたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 今更だけど、敢えて言おう。
 俺は都会……すなわち王都は嫌だけど、冒険者生活自体には憧れていた。
 まあラノベや漫画の影響なのだけれど。

 昨日の飲み会だけじゃなく、冒険者ギルドで講習受けて、認定試験受けて冒険者になるって図式を体験してみたかった。
 なので、結構ワクワクしていたのである。
 気合が入っていたのはそのせいだ。

 しかしジュリエットは、結構根に持つタイプだって分かった。
 どうしてかって?
 受付してくれたのが、偶然昨日と同じ男性職員だったと見て……
 「昨日私を馬鹿にしたお前を見返してやろう、吠え面をかけ!」などと捨て台詞を吐いたからだ。
 これって筋違い。
 だって職員さん、全然悪くないから……ギルドの規約に乗っ取って指導したに過ぎないもの。
 当の職員は苦笑いしていたが、俺がフォローしたのは言うまでもない。

 まあひとつ聞けて良かったのは、良い前例があった事。
 この認定試験で過去にランクAになった冒険者が居たらしい。
 であれば、俺達もランクAは行けるかも……
 ランクAの依頼をいくつかこなせば、すぐに有名になるのは間違いないだろう。
 俺がこの世界に居る間に、ジュリエットをある程度、助ける事が出来るから。

 午前10時から開始された冒険者の基礎講義は面白かった。
 内容は冒険者の心構えから始まって、ギルドの規約や魔物への簡単な対処等。
 俺が知っている事も知らない事もあった。
 まあ、楽勝です。
 俺には学ぶスキルもあったから、どんどん知識吸収出来た。
 今後の村での生活にも少しは役立つだろう。

 片やジュリエットは……退屈そうだった。
 全く興味ないって感じ。
 まあ彼女にとって冒険者は、勇者になる為のステップ&手段に過ぎないだろうから。

 講義の後、昼飯を挟んで1時間の小休止。

 午後になって戦いの基礎訓練。
 これも楽勝だった。

 そしてクライマックス。
 認定試験の実技。
 すなわちギルド教官との模擬試合。
 
 これもやはり、大が付く楽勝

 だって相手が……止まってみえたもの。
 止まっている奴を倒すなんて簡単でっす。
 俺が戦った男性教官はランクAの猛者らしいが、完全に子供扱い。
 ジュリエットの相手は、同じくランクAの女性教官だがやはり圧倒。
 事前にやり過ぎないように彼女には念を押していたので、良い感じで合格する事が出来たのである。

 俺とジュリエットの実力に吃驚したのがギルド側。
 即、サブマスターが来て、最終的にはギルドマスターとの面談となった。
 という事で俺達が今居るのは、ギルドマスター専用応接室。

 少し待たされたので、その間に別室で相談があったみたい。
 その結果……

「協議した結果……おふたりにはランクAを与えます」

「あ、ありがとうございます!」

 おお、やった!
 冒険者ギルドのランクA。
 未登録からいきなりA、これは凄いだろう!

 俺は素直に喜んだが……
 ジュリエットは不満そうである。

「ケンから聞いた。今迄にランクAが認定試験結果の最高だと聞いたが、前例は前例。私達は充分、ランクSの実力があると思うぞ」

 きっぱり言い放つジュリエット。
 とんでもなく強い目力(めぢから)が、何とギルドマスターを圧倒する。

「う、うむ、まあ、そうだが……」

「では迷う事などない! 私達が前例となる、Sにしろ!」

 「がばっ」と身を乗り出して迫るジュリエット。
 凄い迫力だ。

 ああ、百戦錬磨のギルドマスターが……引いている。
 ここで傍らのサブマスターが、耳打ちをする。
 聞こえないように小さい声で話していたが……聴覚が常人の数十倍の俺には無駄。
 ばっちり内容が聞こえた。

 でも理にかなってる。
 それは……

「ではランクAの依頼を受けて、クリアして下さい。それであなた方をランクSと認定しましょう」

 いきなりギルドからAの依頼。
 それもクリアすれば、ランクアップの確約付き。
 それもこのようなパターンだと、高難度間違いなしだろう。

 俺とジュリエットは顔を見合わせ、大きく頷いたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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