第7話「クライマックス」

文字数 2,647文字

 俺の身振り手振りを交えた独特な口上、効果的な太鼓の音、嫁ズの突っ込み、ボケは次第に周囲を巻き込んで行った。
 最初は遠慮がちだった俺の子供を含めた、ボヌール村お子様軍団も嫁ズと同じようにボケと突っ込みをして来るようになっていた。
 子供達だけではなく、年配者も大人も、主人公である靴を履いた猫に対して大きな熱い声援を送っていた。

 いつの間にか……

 広場に面した民家の屋根の上に、村の猫がいっぱい居た。
 猫達の真ん中に、ジャンが偉そうに寝そべっている。

 当然、奴にも事前にこの紙芝居の話をした。
 詳しく説明しても、「ふうん」と無関心な感じだったが……
 やっぱり、凄く気にしていたんだ。

 うん、天邪鬼なジャンらしい。
 改めて見れば、ジャンは屋根の上で雌猫たちへ、そりかえるぐらい得意げに胸を張っている。
 俺は、こみあげる笑いを押さえ、話を続けた。
 ちなみに、ジャンだけを持ち上げるのは不公平なので、ケルベロスとベイヤールにも約束している。
 いずれ犬と馬が大活躍する話も、個別に上演すると。

 そんなこんなで、やがて物語は終盤のヤマ場へと向かって行く。
 
 豪奢な城と広大な領地を持ち、恐怖をもって人間を苦しめる凶暴なオーガ王。
 こいつと、主人公である靴を履いた猫が繰り広げる、最高の対決シーンだ。

「オーガ王、貴方はお強い! 素晴らしい魔法も使えるぅ! 何にでも化けられますねぇと、猫が言う! 対してオーガは大きな口をがばぁっと開けながら、当たり前だぁと吠えるぅ! ごうっ! と大きな唸り声と生臭い息が猫にもろ、かかったぁ」

 どんどんどん!

 俺は太鼓を叩き、傍らに居たレベッカを見た。
 以前起こった事件で、レベッカはオーガに対してトラウマがあるからだ。
 ※第25話参照
 まあ、練習の時から、ちょっとぎこちなかった。
 悩んだ俺は敵の設定を変えようかと思ったが、ある方法を試してみる事にした。

 俺は、レベッカの手をそっと握ってやる。
 案の定、身体を固くしていたレベッカは、嬉しそうに俺を見た。
 俺は「きりっ」として頷くと、またも話を続ける。

「猫はくっさ~、きたない息を吐くなぁ! と思いながらぁ、鼻をつままず、何とか平静さを保ったのだぁ」

「あははははっ!」

 俺の口上を聞いて、レベッカが笑っていた。
 どうやら『臭い息』というのが、うけたらしい。
 俺は「ほっ」として、繋いだ手をきゅっと握ってやった。

 そして一方の手で太鼓を大きく打ち鳴らす。

 どんどんど~ん!
 
「そして猫はここが勝負だぁと、……いかにも無理でしょ? って感じで首を傾げ、さらりと聞いたのだぁ」

 どんどんど~ん!

 緊迫した雰囲気から、いよいよクライマックスだと、全員が感じたのだろう。
 老若男女問わず、村民が一斉に身を乗り出した。

 俺は村民の期待を一身に受け、独特な声色で言う。

「でもぉ、オーガ王はぁ、さすがにぃ~、ネズミみたいな小さい生き物にはぁ、化けられないでしょ?」

「あ~っ! パパ、それってねこのさくせんだぁ!」

 もうノリノリになっていた、クッカとの娘タバサが叫ぶ。
 話に集中して聞いていたから、タバサは猫の意図を見事に見抜いていた。

 うん、観察力が素晴らしいぞ。
 タバサ、偉い!
 よっしよし!

 親馬鹿な俺は、凄く嬉しくなってしまう。

「おお、タバサ、そうだぞぉ、実は猫の作戦なんだぁ。で~も馬鹿なオーガはま~ったく、気付かない~」

 俺が正解だと告げると、拳を握り締め、ぶんぶん打ち振るタバサ。
 凄く嬉しそうに笑っている。

「わぁ、パパ! すごぉい! ねこのさくせん、だいせいこう!」

「おお、大成功だぁ! 油断したオーガ王は魔法を使って、ぼん! ってネズミに化けちゃったぁ!!!」

 どんどんど~ん!

「うわ、オーガ、ばっかでぇ!」
「すっげぇ、どじぃ。だまされたぁ、つかえない~っ!」
「さいてい~!」
「あくはほろびるぅ!」

 ああ、タバサ以外のお子様軍団も目をキラキラさせて、叫んでいる。
 さあ子供達、猫が『とどめ』を刺すぞぉ!
 いよいよ、クライマックスだぁ!

「猫はぁ、作戦大成功とばかりに~、にこ~っと笑うとぉ、ぱっとネズミを捕まえてぇ、ぱくっとひと飲み~っ。哀れ、ネズミに化けたオーガは万事休すぅ、は~い! 猫のお腹の中ぁ!」

 どんどんど~ん! どんどんど~ん!

 俺が打ち鳴らす太鼓の音に煽られるよう、村民が歓声を上げる。

「「「「「わああああっ!!!」」」」」

 普通に戦ったら到底敵わない、小さな猫が知恵を絞って、凶暴なオーガを倒した。
 とても痛快な結末に、ボヌール村村民は全員が感動してくれたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 その後のハッピーエンドは、もしかしたら付け足しかも。
 『残り物』の猫を貰った三男は、元々人柄が良かった。
 親しくなったお姫様に愛情を持たれ、三男は身分を超えて、結婚する。
 そしてお姫様の父親である王様にも気に入って貰い、次の王様になるのだ。

 王となった誠実な三男は、自分を立派にしてくれた、猫の事を決して忘れない。
 恩に報いて、立派な貴族にしてやった。
 生活に困らなくなった猫は、ネズミ捕りを気晴らしとストレス解消にしたそうである。
 ……おしまい。

 紙芝居が終わり、お辞儀をする俺に対し、大きな拍手が起こった。
 村民は皆、嬉しそうな笑顔を浮かべている。
 とても楽しんでくれたみたいだ。

 ソフィの励ましの言葉が、紙芝居をやるきっかけだったけれど……
 ああ、本当にやって良かった。

 今回は、道具をつくるのも苦労したし、嫁ズにも大いに頑張って貰った。
 だけど、努力した甲斐はある。
 また、村民同士の絆が深まった気がするから。

 紙芝居……これからもバリエーションを増やして、もっと盛り上げて行こう。
 俺がそう思った時……

 いきなり、リゼットが「すっ」と手を挙げる。

 え?
 何だろう?
 
 そしてリゼットは、

「皆さん! 今日は大サービスです! これから、もうひとつ面白いお話をやりますよぉ!」

 何?
 もうひとつ?
 面白い話?
 違うバージョン、作ってたの、紙芝居?

 吃驚する俺に向かって……
 嫁ズは全員、にっこりと笑ったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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