第11話「泣いた勇者」

文字数 2,832文字

 心の底から、嬉しそうに笑う元魔王はさておき、話を紙芝居へ戻すと…… 

 乗っていた竜から投げ出され、魔王は……本当に泣いていた。
 手下の魔物にも見捨てられ、「自分は孤独だ……」と、慟哭していたのだ。 

 俺の子供達は、とても優しい子ばかり。
 だから、リゼットの口上の効果は絶大だった。
 今迄「倒せ」とか「やっつけろ」と言っていたのに……
 友達皆無、ボッチの魔王に同情、180度変わって気の毒となったらしい。

「なんか……まおうかわいそう……」
「うん、そうだね……」
「ひとりぼっちの……ぼっちって、さびしぃ」

「うんうん! 勇者様もみんなと同じだぁ! 魔王が可哀そうになったんだぁ!」

 リゼットも同感だと、笑顔で言う。
 子供達は、勇者がどのような対応をするのか、気になるようだ。

「それで、それで」
「ゆうしゃさまは、なんていったのぉ」
「おしえて、おしえてぇ」

 またもやせがむ子供達へ、リゼットは微笑む。
 おお、敢えて言えば、慈母。
 つい甘えたくなる……最高の癒し笑顔だ。

「あのねぇ、勇者様はねぇ、優しいのよぉ。そして女神様も同じくらい優しいの。だから、可哀そうな魔王と友達になってあげるよって。もう悪い事をしないならねって言ってあげたの!」

 子供達の期待を……勇者は裏切りはしなかった。
 悪い事をした魔王だが、ちゃんと反省するならと、条件付きで許してあげたのだ。

「おお、やった! ゆうしゃさま、やさしい」
「それで、まおうはぁ?」
「ねぇ、やくそくしたのぉ?」

 子供達が早くと、答えをせがむ。
 当然、ハッピーエンドを望んでいる。

 リゼットったら、今度は悪戯っぽく笑って、ウインクする。

「魔王は、勇者様としっかり約束したよぉ! もう二度と悪い事はしませんってねぇ。だから勇者様は神様にお願いしたぁ!」

 どんどんどん!

「勇者様が一生懸命頼んだのでぃ、神様も魔王を許してあげたぁ! 勇者様の仲間になった魔王は一緒に人々を魔物からぁ、守ってくれるようになりましたぁ!」

 どんどんどん! どんどんど~ん!

「すごい~、まおうがなかま?」
「わぁ、ゆうしゃさま、もっとさいきょうだぁ!」
「ゆうしゃさまぁ、だいすきぃ!」

 期待した通りのハッピーエンドに、子供達は満面の笑みを浮かべる。
 本当に、嬉しそうにしていた。

「こうしてぇ、村には平和が戻り、人々はず~っと幸せに暮らしましたとさ……おしまい……」

 子供達の笑顔と声援を受けながら、リゼットは最後の紙芝居絵をめくり、パタンと木枠の扉を閉めた。

「「「「「わあああああっ」」」」」

 湧き上がる歓声。
 大きな拍手。
 子供だけではない、年配者も大人も、この場に居た村民全員が一緒に喜んでいた。
 
 と、その時。
 俺の心に、クッカの念話がまたも聞こえて来た。
 見れば、彼女は傍らで優しく微笑んでいる。 

『旦那様、ありがとう! 私達は皆、貴方に感謝しています。このお芝居はほんのお礼なのですよ、私達妻からの』

『え? お礼?』

『はい! ふるさと勇者は秘密の裏仕事……ボヌール村の人達は、頑張る旦那様の日々の苦労を誰も知らない……』

『い、いや! 俺の苦労って……』

『ええ! 旦那様が勇者になった理由を含めて、村民全てに教える事は絶対に出来ない。だから、仕方がないけれど……こうして内容を変えて、紙芝居にすれば後世には残る……少しは苦労が報われますよ』

『後世に残る? 少しは報われる? 俺のやった事が?』

 じゃあさっき嫁ズが叫んだ、勇者への声援って……
 日々、家族と村の為に働く、俺を奮い立たせようとする応援。
 そして、温かい感謝も籠った熱い声援だったんだ。
 
 このおとぎ話は、嫁ズから贈られた俺へのエール。
 嫁ズの優しい思いやり、……俺への深い愛だった……
 
 何だよ!
 俺に内緒で、嫁ズがこんな凄いサプライズを用意してくれていたなんて。
 最高に嬉しい。
 
 ああ!
 俺、もう駄目だ……
 嬉し過ぎて、胸が一杯になって……涙が出て来た。
 いや、出て来たなんてもんじゃない。
 溢れて来たよ!
 許されるのなら、思いっ切り、「ありがとう」って叫びたいよ!!!

 そしてクッカの、俺への話は……まだあるようだ。 

『ねぇ、旦那様。この紙芝居は旦那様の頑張りだけじゃない。数奇(すうき)な運命に翻弄(ほんろう)されたケンとクミカが……この世界で生きた(あかし)も入っていると思うの』

『お、俺とクミカの……』

『ええ、ケンとクミカ、ふたりの愛と思い出が……素敵なおとぎ話となって私達の子供達へ、孫達へ、その先の未来へと伝わって行く……ふるさと勇者の物語って、凄く大切だと思うから……この村の人達に、絶対に忘れられてはいけないわ』

 俺とクミカの愛が……思い出が……
 絶対に、忘れられないようにだって!?
 
 ああ!
 だから駄目だって、クッカ。
 そんな事を言われたら……
 俺の涙は、もう止まらない
 「どばどば」流れ落ちて、何か……どこかの滝みたいになっている。

「ねぇ、パパ!」

 クッカと念話で話していたら、娘のタバサが割り込み、抱きついて来た。
 大泣きしている俺を見て、心配しているようだ。

「どうしたの? めがまっか、すごくないてるよ、パパ」

「あ、ああ、良い話だったからな、感動したんだ……」

 俺が泣きながら答えると、タバサは苦笑していた。
 まだまだ幼いのに………とても大人っぽい表情だ。
 おしゃまなタバサに、微笑ましくなる……
 子供って、日々成長しているんだなと感じる。
 
 ああ、複雑な感情が俺を襲って来る……
 泣きながら笑ってしまう……俺の表情を見て、タバサは叱る。
 まるで、弟達の面倒を見る、しっかり者の姉のように。

「もう、だめじゃない、しっかりして。ママもあたしもないていないのに、パパったら、なきむし」

「お、おお、タバサ、御免な。俺はもっとしっかりするよ」

「うん! やくそく! パパ、これからもたよりにしてるっ、だいすきっ!」

 タバサは、俺に抱きついた手に力を入れる。
 「きゅっ」と優しく……

 うん!
 俺もタバサが可愛い、超大好きだぞ!

 それに、ちゃんと約束する。
 俺はもっと、もっと強くなる。
 気持ちも、身体も……
 
 大事な大事なお前達、愛する家族をしっかり守りたいから。 
 そして、第二の故郷……
 心のふるさとである、この素晴らしいボヌール村の平和を守る為にも……

 改めて、決意した俺も、優しく優しくタバサを抱きしめていたのであった。

 ※『昔に帰ろう2』編はこれで終了です。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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