第21話「男同士の夜②」
文字数 2,528文字
それは管理神様がオベロン様へ、今回の件をどのように伝えていたかって事。
なので、単刀直入に聞いてみる。
「ところで、オベロン様にも管理神様からの神託はあったのですか?」
「うむ、あった。仰り方は丁寧だが、内容は脅しともいえる神託が、な……」
オベロン様には、やはり管理神様からの話があった。
しかし、脅しって何だろう。
浮気夫への諫言かな?
そう思ったが、俺はオベロン様の味方になって聞いてみる。
「脅し? それは穏やかではないですね」
「ああ、脅しと言うのは少し言い過ぎたか……まあ、管理神様にしてみれば、私に対する親心って奴だろう」
「親心ですか……」
「うむ、このような素晴らしい結果になって、実際、管理神様にはとても感謝している。今だからこそ言えるが、神託があってから、私はずっと不安に駆られていた」
「不安?」
「ああ……家出を告げた、ティーの置き手紙を見て吃驚した私へ……管理神様はこう、語られた」
管理神様、どう仰ったんだろう?
気になった俺は、尋ねてみる。
「宜しければ、教えて貰えますか?」
「ああ、もしもお前が行状を改めなければ、誠実にならなければ……ティーの心——お前の妻の気持ちは、ある人間へ大きく傾くだろうと」
「え? ある人間?」
「ああ、ティーは夫である余の下を去り、ある人間、すなわちケン、お前の妻になってしまうとな……はっきり告げられてしまった……」
はぁ?
管理神様ったら、勝手に何、言ってるの?
……さすがに俺はテレーズを、最初から嫁にする気なんかないぞ……
だが、俺は思考を一旦停止した。
いや、待てよと、思い直す。
もしも、万が一、テレーズが……行くところがないと泣きついて来たら……
俺は……絶対嫁にしない! ……とは言い切れない。
一緒に暮らしてみて、テレーズが凄く可愛らしく、良い子だって気付いたから。
嫁ズや家族とも折り合って、仲良く生活しているし。
そんな事を考える俺を見ながら、オベロン様の話は続いている。
「いくら管理神様のお告げとはいえ、最初、私は信じなかった。いくら私が浮気をしても、ティーは私にぞっこんで、惚れられていると自信があったからだ。しかし徐々に心配になった……いつまで経ってもティーが帰って来ないからな……」
「成る程、よっく分かります」
「ふむ、それから、まもなく……また管理神様から、お告げと映像が送られて来た」
「映像?」
「ああ、お告げは『現在、お前の妻はこんな風に暮らしてるよ~ん』と仰い、私の持っている魔法水晶に、ティーが楽しそうにこの村で暮らす光景をお送りされたのだ」
「え? それって……」
「ああ、日々の仕事だけではない……お前に、がばっと抱きついて甘えるティーの姿もだ」
あっちゃ~!
あれって……『中継』されていたんだ……
「お父様ぁ」って甘えるテレーズの姿が……
「あと……ケン、度々、お前に頭をなでられ、とても気持ち良さそうにするティーの姿もな……」
え?
それまでも?
俺の脳裏には、猫のように甘えるテレーズの姿が浮かんで来た。
これって……とってもヤバクないか?
「う! ええっと……」
「ははははは! 大丈夫だ、ケン。ティーの切ない感情も伝わって来た……『お父様』ってお前に甘える、寂しそうな感情がな……」
ああ、管理神様、またもやナイスフォロー。
テレーズの心の声も送ってくれたとは。
それがなかったら……もっと大惨事になっていたかも……
「奥様にとって、俺はお父様ですか? ふう! 認識が一致していて、良かったです」
「ははははは、でも今だからこそ笑って話せる。当時、私は嫉妬に狂った。我を忘れて怒り心頭となり、ティーを迎えに行った。妖精の国とこちらの世界の時間軸の問題で、ちょうど湖に居たお前達の前に登場した……そういう
「成る程……だからあんなに怒って現れた……そういう事だったんですね」
ああ、行き違いにならなくて良かった。
オベロン様の、とんでもない誤解を招かず、本当に良かった。
そんなこんなで……
俺とオベロン様は、完全に腹を割って話し合う事が出来た。
だから、いろいろと違う話もした……
オベロン様は自分の生い立ち、テレーズとの出会いと結婚に至るまでを話した。
そして現在、妖精の国での施政者としての苦労、公私に亘ってたまったストレスも吐き出した……
一方、俺は死んで、この異世界へ来た事。
様々な出会いと別れを繰り返し、今日に至っている事をざっくりと告白した……
オベロン様が、真っすぐ俺を見て、真剣に話を聞いてくれたので……
酒を飲んだ勢いもあって……俺は成り行きで、ついクミカとの悲恋も話した。
3人目のクミカである、夢魔リリアンと夢の中で最後の別れを交わした事も……
……リリアンの事はクーガーを含め、嫁ズに絶対言ってはいなかったけれど。
心を許した誰かひとりくらいには、俺の辛くて泣きたい気持ちを聞いて欲しかったのだ。
すると……
「おお、それは………………」
と言い、オベロン様は言葉を飲み込んでしまった。
上機嫌で、凄く饒舌だったのに。
いきなり、黙り込んでしまったのだ。
それから……ずっと黙っていたから、どうしたのかと思い、改めてオベロン様を見たら……
何と!
……目にじわりと涙を浮かべ……オベロン様が泣いていた。
吃驚した俺がそっと声を掛けても、黙ったまま……
俺を見つめると……そのまま、俺の為に……泣いていた。
そして、
「……済まぬ……私が泣いた事は、どうか、ティーや家臣達には内緒にしておいてくれ……」
涙を拭くと、オベロン様は俺へ慈愛の籠った眼差しを向ける。
更に、
「……ケン、お前は今迄……良く頑張った……」
と、だけ言い、オベロン様は……静かに且つ優しく笑った……
俺はこの瞬間、この人とは親友になれる……と確信したのであった。