第18話「正々堂々」
文字数 2,808文字
オベール様達から笑われて、俺は「きょとん」としてしまった。
笑われるような心当たりは、全くないから。
でも、
「ケン、お前は良く人の事が言えるな?」
「そうですよ!」
オベール様とアンリが言うけれど……
まだ俺は「ピン」と来なくて、首を傾げていたら、
「うふふ、ケン、お前もフェルナン同様、相当な変人だって事よ」
と、イザベルさんまでもが断言してしまった。
「俺が変人?」
焦って聞き直すと、イザベルさんは優しくにっこり。
「ええ、まあその『変人』のお陰で、我がオベール家とふるさとボヌール村は凄く助かっているけれどね」
ようやく話が見えて来た。
いじられる理由が分かった。
俺にはレベル99の能力があるのに、「野心とか欲が全くないから」って事だな。
「豪傑フェルナンと全く同じなのに、変人って言うなよ」っていうズッコケなんだ。
まあ、傍から見れば、俺はフェルナン以上の超が付く『変人』なのだろう。
自分でもそう思っているから、敢えて否定はしません。
「そのフェルナンさんって、俺は良く知りませんが……まあ、そんな超有名人が来れば、祭りの客寄せにはなりますね」
と、俺は「さくっ」と笑顔で切り返し、その話はもうお
ここに居る皆は忙しく、作業時間が限られているから、無駄話をしている暇などないのだ。
そんなこんなで、「どんどん」すもう大会の申込者をチェックして行く。
戦士や冒険者が多いのは当然なのだが、中には鍛冶屋や石工などパワー系の職人さんもエントリーしている。
俺達が期待しているのはこんな、特殊スキルを所持した職人さん達だ。
「これが『きっかけ』でボヌール村へ移住しないかな?」なんて、願望を持ってしまう。
まあ、実際は職業やスキルより『人物本位』だけどね。
時間がないとは思いながらも、俺は「ちらっ」とだけ、物思いに耽ってたら、 イザベルさんが尋ねて来る。
「ねぇ、ケン、女子の出場者ってどう?」
同じ女性としては、気になるみたい。
自分が見た『すもう』を、もし女子が戦ったらって。
まあ出る人はゼロではないけれど、男に比べれば、さすがに少ない。
「ええっと、ウチの嫁ズを入れて全部で15人くらいですね」
「そうなんだ、ケンから女子も戦うって聞いて、期待したけど……あまり居ないのね」
「う~ん、残念ながら、格闘技をやる女子は、ここら辺でそうは居ません」
「まあ仕方がないけど……いずれは増えて欲しいわ。女子だって逞しいのもあり……じゃない」
イザベルさんの意見には同意。
女子だって、いろいろな個性があって良い。
現に俺は武闘派のクーガーやレベッカ、ミシェルが大好きだし。
それに、俺が女子の部の申込書を改めて見たら……
「イザベルさん! 何か、女性版フェルナンさんみたいな人が居ますよ、冒険者ギルドランクA、カルメン・コンタドールさんですって」
「へぇ! そんな人が来るのね?」
「はい! ええっと、肩書きは戦士、
「わぁ! それは楽しみ」
期待で目をキラキラさせる、最愛の奥様を見たオベール様が、
「むむむ、ランクAの女戦士か? 逞しいのは嫌ではないが、イザベルみたいに繊細で優しい方が、私としては大好きだなぁ」
と言ったら、イザベルさんが『ミステリアスなお澄まし顔』で応戦する。
「貴方……それって……私という女を、一面からしか見ていませんよ」
「へ?」
驚くオベール様に対し、イザベルさんは悪戯っぽく笑う。
「知らないの? 女はね、いろいろな顔があるし、……深いんです。まあ男性も、……そうでしょうけどね」
おおっと、イザベルさんったら、かなり哲学的になってる。
うんうん、凄く面白そうな話だけど、このまま盛り上がってはいけない。
……横道にそれず、仕事を進めなくっちゃ。
さあて、武官ばかりじゃなくて、文官も優秀な人材が欲しいな。
「ねぇ、ケン」
と、またイザベルさんが……
「新たな人材だけじゃなくて、今の部下達にも目を向けてくれてありがとうね」
って、今度は、お礼をいきなり言って来た。
「いえいえ、生え抜きにもしっかり配慮すれば、オベール家全体の活性化にもつながりますから」
俺がそう返したら、イザベルさんは勿論、オベール様とアンリまで頷いてる。
更にイザベルさんは、
「今回のお祭りって、いろいろな意味で、いいきっかけになると思う」
「ですね!」
俺が同意したら、イザベルさんはまた『深い事』を言う。
「今居る人も、新たにウチに来たいって人も……自分を見つめ直して新たな可能性を探るとかね。それにすもうって……凄く良いと思う」
「すもうが良いですか?」
「ええ、かかる経費の事を考えて、ケンがナイスアイディアを出してくれたなって最初は思った。アンリと戦って見せてくれて、実際面白かったし。……でも、それだけじゃない」
「それだけじゃないですか?」
「ええ、貴方に詳しく聞いたら、すもうって、ただ戦うだけじゃないわ。いろいろなルールがあるし、新たなルールも決めたでしょ?」
「ええ、決めました」
「そこなのよ!」
「そこ?」
「うん! 限られたルールの中で、勝つ為にいかに工夫するか、当然ルールは絶対順守じゃない。反則すれば負けだから」
「はい、反則したら負けです」
「それって、さっきの女の話じゃないけど、凄く深いと思うの」
「深いですか?」
「そうよ! だって最近は、ルール無用で何でもありって風潮が強いから。私はね、確かに創意工夫をするのは素晴らしいと思う。だけど、頑ななまでに真面目で愚直な人も、素晴らしいと思う」
「ええ、俺もそう思います」
「でしょう? だから今回のすもう大会を見させて貰って、全員ルールを守って一生懸命戦って欲しい。ルールの範囲内で一生懸命、創意工夫をした上で全力を尽くし、たとえ負けても、正々堂々してくれれば良いなって。そんな人を、ぜひぜひ当家へ迎えたいわ」
ああ、何か分かる。
熱く熱く語る、イザベルさんの言う通りだって。
だって!
俺が惚れた嫁ズも、家族も、友情を感じた人達も皆、真っすぐで正直だもの。
現世の人だけじゃない。
管理神様も、ヴァルヴァラ様も、ケルトゥリ様も……
妖精のオベロン様も、ティターニア様も、違う世界に居るアールヴのフレデリカだって……みんな、そうだ。
「今回のお祭り……とてもいい結果が出る、私はそう確信してる」
力強く締めたイザベルさんの言葉を聞き、企画を考案した俺はとても嬉しくなったのだった。