第48話「みんなと一緒に旅をしよう!」

文字数 2,420文字

 村をあげての送別会から、3日後の早朝……
 フィリップはユウキ家の馬車で、ボヌール村を後にした。

 出発の際は、村の正門から村民が全員総出で見送ってくれた。
 特に子供達は、大声で別れの挨拶を叫び、手を思いっきり打ち振っていた。

 村を去るフィリップを、見送る子供達の表情は、真剣そのものだった。
 無論、フィリップも馬車の窓から身を乗り出し、声を嗄らして叫び、手を振り返していた。

 聞けば……
 フィリップと子供達は今後、魔法鳩便で手紙のやりとりをすると決めたらしい。
 その為にも、読み書きを含め、「しっかり勉強しよう!」とお互いに誓い合ったという。

 気合の入った両者のやりとりは……
 子供同士で築き上げた、深い信頼と固い絆を表している。
 オベール家とボヌール村の、明るい未来への、確かな(あかし)だと信じたい。
 
 フィリップも、改めて認識したに違いない。
 両親、そして俺や嫁ズがこの世から居なくなった後……
 彼等彼女が、人生の旅を共にする大切な『道連れ』であるのだと。

 そんな子供同士の、別れの光景を見て……
 馬車を走らせる御者席の俺は、出発前にフィリップと交わした会話を思い出す……

 ……フィリップは覚えたてのフィストバンプを、俺としながら言った。
 小さな拳が、強い意思を伝えて来る。

「兄上! 約束します! 僕はまたボヌール村へ帰って来ます」

「おお、いつでも来い」

「はい、絶対に来ます! でも……」

 言い切りながら、フィリップは少しだけ顔をしかめ、口籠った。

 何故だろう?
 俺は、つい聞いた。

「おいおい、でも、って何だ?」

「はい、本当は僕も……ボヌール村で暮らしたい」

 俺の問いに答えた、フィリップの言葉は本音だった。

 敬愛する、大好きな両親は居ても……
 エモシオンに帰れば、また『孤独』が待っている。
 
 一生の友情を育んだ、大事な仲間達と別れたくない。
 そんなフィリップの気持ちが分かるから、俺は曖昧に返すしかない。

「そうか……」

「はい! 今なら……アンリ兄の気持ちが分かります」

「アンリの気持ちが?」

「はい! アンリ兄が……王都より村で暮らす方が、騎士の修行になると僕へ言った事も……オベール家に仕えず、ボヌール村に住む、そう決めた気持ちも分かるんです」

「…………」

 アンリの事まで持ち出され、俺は返答に困り、黙ってしまった。
 良い言葉が見つからない……

 でも成長したフィリップは、素晴らしい事を言ってくれた。

「だけど! 僕は、オベール家の子です」

「オベール家の子……そうだな」

「兄上! 僕は、エモシオンも大好きです」

「そうか……お前のふるさと……だものな!」

「はい! 大好きな僕のふるさとです! それにエモシオンで勉強する事もいっぱいあるって……気が付いたんです。父上の跡を継ぐ領主として」

 フィリップは、エモシオンが『自分のふるさと』だと自覚している。
 それは、このボヌール村で暮らしたから、分かった事。

 そして……
 エモシオンでも、勉強する必要があると、はっきり宣言した。
 次代の領主として、父オベール様から、母イザベルさんから、しっかり学ぶ事を……

 ああ、フィリップ。
 お前……
 本当に大人になった。

 俺はとても嬉しくて、つい涙が出そうになる。

「あ、ああ! そうさ! その通りだよ、フィリップ」

「はい! 僕はいっぱい勉強して、強くもなって、父上、母上、兄上と。そしてみんなとしっかり『旅』が出来るように頑張ります!」

 ……フィリップは吹っ切れた表情で、きっぱりと言い放った。
 全身全霊で努力して、素敵な人生の旅をしたいという決意を。
 そして……
 このボヌール村からの出発が、彼の新たな旅立ちでもあるのだ。
 
 俺には分かる。
 オベール様には悪いけど、フィリップは父を遥かに超える、良い領主になるって。

 つらつら考える俺の耳へ、
 ……御者席の背中にある、開けた小窓から、車内の声が聞こえて来る。

 今回、エモシオン行きに同行するのは、フィリップが来た時と同じメンバー。
 クッカ、クーガー、ミシェル、レベッカだ。
 
 前回と違い、俺の子供達は居ないけど……
 改めて深い絆を結んだ家族として……
 且つ頼もしい人生の同志となったフィリップと、話がとても弾んでいるみたい。
 どうやらボヌール村を見ながら、全員で様々な思い出に浸っているようだ。

 俺もちょっと、振り向けば……
 先ほど出発した我がボヌール村が、どんどん小さくなって行くのが見えた。
 ……もう少しすれば、完全に見えなくなるだろう。

 ……頃合いを見て、俺は睡眠の魔法をフィリップへかける。
 そう、彼が眠っている間に転移魔法を発動し、エモシオン付近へ一気に跳ぶのだ。
 また、こんなに短時間でエモシオンに到着しても、不審に思わない魔法も一緒にかける。

 まずは、道中の安全の為、
 そしてフィリップとの再会を、少しでも早くと!
 心待ちにしている、オベール様とイザベルさんの為に……

 まもなく……
 素晴らしく成長したフィリップを、両親へ返す事が出来る。
 ふたりは、すっかり逞しくなった愛息を見て、凄く喜ぶだろう。
 
 満面の笑みを浮かべる、幸せそうな領主夫婦の顔を想像し……
 思わず俺も破顔したのであった。

 ※『子供達と旅に出よう』編は、これで終了です。
 ご愛読ありがとうございました。
 
 今回の『パート』はいかがだったでしょうか?
 結構長くなってしまいましたが……

 もっともっと続きが読みたいぞ! とお感じになりましたら、
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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