第30話「宿命①」

文字数 2,379文字

 ええっ?
 そ、創世神様だって!?
 創世神様が何故ぇ!?

 俺には、話が見えない。
 全く現実感がない。

 こうして話している管理神様や、かつてのクッカ、ケルトゥリ様、ジュリエットことヴァルヴァラ様達みたいな女神様でさえ、畏れ多い。
 全員が、人知を超えた存在なのに……
 
 それが?
 いくら何でも創世神様が?
 
 そんな、とてつもなく偉い方が?
 な、何故、俺とサキを?
 引き合わせろって、仰ったんだろう?

 口をポカンと開けて、呆然とする俺に対し、管理神様は話を続ける。

『ああ! まさに本当の奇跡! 真の奇跡なんだよっ!』

『本当の奇跡……真の……奇跡……』

『そうさっ! あの御方はね、ケン君をご覧になっておられたんだ!』

『お、俺を……ご覧に?』

『そうなんだよ! この世界で必死に生きるケン君を! 数奇な運命に翻弄されても! 魂と身体を傷だらけにしながら、愛する家族を守り、幸せにしようと頑張って歯を食いしばるケン君を!』

『俺が……が、頑張っているのを?』

『ああ、こんな事は普通ありえない! 絶対にありえる事じゃないよっ! いくらレベル99と言っても、ケン君は単なるひとりの人間なのにっ!』

『………………』

『広大な宇宙で(またた)く無数の星のように、数え切れないくらい存在する世界で、数多生きる人間達の中でっ! 創世神様はね、君の事を、気に留められて、ず~っとご覧になっていたんだよっ!』

 いつもの軽い、面白がるような、突き放すような物言いじゃない。
 常に冷静沈着な管理神様とは、到底思えなかった。
 
 そう! 
 神様の自分でさえ、信じられないぞ!
 絶対に絶対にっ! ありえない事なんだっ!!!
 
 そんな波動が、喜びの大きな波動が伝わって来る。
 俺がそこまで感じるほど、管理神様は熱く興奮して語っていた。

 でも、でも俺だって!
 管理神様から念を押され、事実を再認識して、凄く凄く驚いていた。
 
 否、驚くどころじゃない!
 驚愕&感動して、大絶叫していたんだ。

『ああ、あああああああああああ~っ!』
 
 創世神様が!?
 全ての時間を支配し、全世界の(ことわり)を定めた、大いなる存在……
 広大な宇宙の(あるじ)であり、神々のトップに立つ方が?
 こんなにちっぽけな、俺なんかを気に留めて、ずっと見ていたって!?

 そして、俺とサキを引き合わせてくれた。
 他の神様の、猛反対を押し切って!

『創世神様は仰った! ケンとサキ……つまり君とクミカに、人間の未来、すなわち可能性を見たいってね! 原初の時代に、ご自分が土くれから創り上げた人間とは……果たしてどこまで、真実の愛を極められるのかって!』

『俺とクミカに……人間の可能性を……』

『うん! だから僕は、創世神様のご意向を尊重した。それ故、ケン君とサキを引き合わせる理由を、事前には教えなかった。当人同士は勿論、ヴァルヴァラにも伝えなかったのさ』

『俺とサキの関係を、限られた方以外は誰にも伏せて……全て秘密だったのですね……』

『ああ、ケン君は真実を知らないし、サキにもリリアンだった頃の記憶はもうない。第一、サキとリリアンの容姿も性格も全く違う、完全に別人格だから』

 確かに、そうだ。
 管理神様の仰る通り、リリアンとサキを、結びつけるものなんか何もない。
 タイプも性格も、全然違う。
 俺からしてみれば、「サキが実はリリアンだ」なんて、青天の霹靂。
 完全に予想外だったもの。

『だけどケン君とサキ、……君達には、神々にも見えない固い絆があった。だから離れ離れにならず、見事に結ばれたんだ』

『俺とサキの固い絆……』

『そうさっ! 結果、ケン君とサキことクミカは、創世神様が仰った人間の可能性を体現してくれた。そのふたりの絆こそが……宿命そのものなんだよ』

『俺とクミカの絆が宿命そのもの……管理神様! 確かに! 確かにそうですよねっ!』

 言い切って、俺は実感していた。
 
 俺とサキは……
 出会ってから……
 言い争って、つまらない喧嘩もして……
 しかし最後は、お互いに惹かれ合った。
 相手の『真の素性』を、全く知らなかったのに……
 
 もしもボタンを、ひとつでも掛け違えれば……
 『永遠の別れ』になったかもしれないけど……
 そうは、ならなかった。
 
 俺とサキは……
 出会ってから……
 お互いに(いたわ)り、思い遣って……相手の気持ちを分かり合って……
 心と心が近付いて……徐々に離れがたくなった。
 
 最後には……
 心同士が、ぴったりとくっついた。
 絶対に、離れたくないと、ふたりで強く強く思った。
 俺とサキのけして切れぬ絆、すなわちクミカとの絆が……
 宿命故に……再び固く結ばれたんだ。

 そして管理神様は……
 俺が一番嬉しい事実を、ズバリ言う。

『ケン君、おめでとうっ! 本当に良かった! これで君は……クミカとの愛を完全に成就出来たんだっ!』

『俺とクミカの愛が……完全に成就出来た……そうか! そうなんですねっ!』

『そうさ! ケン君とクミカの魂は永遠に結ばれた。宿命という絆の下に! もう二度と離れる事はないだろう!』

 俺には分かった。
 凄く分かった。
 相変わらず姿は見えないけれど……顔だって知らないけれど……
 管理神様の、とても晴れやかな笑顔が、瞼にはっきりと浮かぶんだ……
 
 大いなる創世神様だけじゃない。
 この世界へ転生してから、俺の事を、ず~っと、ず~っと見守ってくれていた管理神様は……
 
 ようやく、俺とクミカの愛が完全に成就した事を、まるで我が事のように喜んでいたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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