第11話「共感①」

文字数 1,883文字

 幻影の俺と抱き合い、そのままで、暫し経った後……
 サキは真っすぐ、そして「じっ」と見つめて来る。

『ねえ……じゃあさ、こうしながら……ケンの事を話して……』

 俺もサキを真っすぐに見つめ、微笑むと……身の上を話し始めた。

『分かった、俺はな……学校を卒業する時に、親しい仲間と飲んだ帰り道で……』

 俺は突如、わけがわからないうちに死んでから……
 管理神様から神託を受け、改めて少年として異世界へ出現するまでを話した。
 
 俺が話す間、サキは大人しく真面目に俺の話を聞いていた。
 途中で茶化したり、冗談を言ったりせず……
 そして、俺がひとりぼっちで草原に居たくだりを聞くと、優しい笑顔を見せた。
 ひどくホッとしたような表情である。
 
『ふうん……そうなんだ。管理神様の話の後は、いきなり草原だったのね。じゃあさ、私と全く一緒だよ』

『ああ、そうだな』

『でも……いつ、どうして死んだのか、ケンは記憶が曖昧なのね』

『ああ、今でも分からない。気が付いたら、真っ白な世界に居たからな』

 そう……
 俺は、自分でも気づかないうちに死んでいた。
 魔王だったクーガーの話によれば、俺の死は、運命神の手によるものだという。
 
 でもサキのように、悲惨な事故の記憶がないだけ、まだマシかもしれない。
 絶対、そんな事はサキへ言えないけれど……

 サキの目が更に優しい。
 うるうるしている。

『……ケン、可哀そう……』

『まあな、でもサキも凄く怖かったろう? 事故の時』

『うん……でもね、一瞬の事だから、痛みもあまり感じなくて……私も気が付いたら、もう知らない場所だった……ケンと同じ真っ白な場所なの。多分……すぐに死んでたんだよ、私』

 ……こうして、ふたりは……
 お互いに、様々な事を話し込んだ……

 ……それからあっという間に、5時間あまりが経ち、日付けが変わった。
 時刻はもう深夜……

 なのに、俺とサキは、……まだ話していた。
 いつも思うけど、話が凄く盛り上がると、時間の過ぎるのってとっても早い。

 結局、例の『ぴ~音』は鳴らなかった……
 
 だから、俺は転生してから現在に至るまで、だいぶ割愛しながらも……
 自分の長きに渡る、異世界の物語を……
 つまり『身の上』を、サキへ伝える事が出来たのだ。
 
 今や『良き思い出』となった、己の記憶を手繰りながら、俺は語った。

 異界で出会い、担当となったクッカという、サポート女神が助けてくれた事。
 転生してすぐ、ボヌールという村の少女リゼットをゴブリンから助けた事。
 その、ボヌール村で暮らし始めた事。
 村の少女達と知り合い、いっぱい恋愛した事。
 
 襲って来た女魔王クーガーの軍団と戦った事。
 そして……管理神様の助けで、何とか勝利し、村を守り抜いた事。
 転生した世界で知り合った、愛する恋人達と……結婚した事。
 今や、ボヌール村の村長になった事までを……

 女神クッカと魔王クーガーの意外な正体……
 すなわち、クミカとの悲恋を話した時は、サキも吃驚。
 同情してくれて、「わあわあ」大泣きしていた。
 年頃の、感受性が強い子だから、自分をクミカへ感情移入してしまったのだろう。

 サキの凄い号泣が、隣の部屋に聞こえるとまずいから、防音の魔法をかけたのは、ご愛敬。

 一方、サキも……
 更に詳しい、自分の身の上話をしてくれた。
 
 ひとりっ子で、寂しかった事。
 両親には、とても可愛がられていた事。
 通っていたのは、ずっと女子だけの学校だった事。
 門限も含め、親が非常に厳しく、今迄『彼氏』は居なかった事。
 
 そして、初恋はずっと昔だった事……
 まだサキが、6歳くらいの時である事も……
 真っ赤になって、大いに照れながら告白してくれた。

 初恋の相手とお遊戯の際に、初めて手を繋いだら……
 あまりにも感激して、教室の床に座り込み、サキは泣いたって。
 
 でも、その初恋の子とは……それっきり……
 時間が経つにつれて、自然と疎遠になった。
 今となっては、良い思い出だという……
 
 「多分、すぐに好きなタイプが変わったから」と、サキは無邪気に笑う。

『じゃあ、サキの今好きなタイプって、どんなだよ?』

 俺が聞いたら、何故か大笑い。

『今? あはははっ、好きなのは、ケンに決まってるじゃない!』

 俺と、いっぱい話したかったのだろう。
 サキは夢中になって、もっともっと話し続けたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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