第17話「貴方こそ励みです!」
文字数 2,985文字
帰りは、来た時と全く一緒。
俺とクラリスは、相変わらず物々しい雰囲気の王宮から出て、馬車を使い、キングスレー商会へと戻った。
商会へ戻った途端、強張っていた身体が、一気にリラックスした気がした。
リラックスついでに、商会で頼んでいた諸々の買い物を行う。
エモシオンの店では、手に入らない画材や道具を買うのが今回の第一目的。
便利な新兵器があれば、クラリスの創作の幅は、益々大きく広がるだろう。
他にも……
王都でしか手に入らない種々のモノを購入した。
お子様軍団のおみやげも買った。
珍しいおもちゃ、素敵な人形などをゲット。
子供達は大喜びするだろう。
そのお子様軍団へのおみやげ以外は、後日商隊経由で配送して貰う事で話もついた。
俺達と会った後の、レイモン様の機嫌がとても良かったせいだろうか……
会頭もマルコ氏もにこにこして、口調も滑らか。
いろいろと、大サービスしてくれたのはラッキーであった。
ああ……
情けは人の為ならずって本当だ。
というか、今回は俺とクラリスが、知らないうちにレイモン様の役に立っていたのだけれど。
……まあ全て、管理神様がセッティングした事だろう。
少し考えたら……
管理神様が、レイモン様を何故助けたのか、理由は分かった。
何故俺が、理解する事が出来たかって?
だって管理神様とは、もう転生した時からの長い付き合いだから……
え?
俺が分かったという理由?
管理神様が、レイモン様を助けた理由を、具体的に教えてくれ?
良いよ、了解!
……神様って、自分が治める世界のバランスを、第一に考えるって言うじゃない。
善と悪、光と影……
表と裏の力を、上手く使い分けながらとか。
神様が下す『リセット』も良くある話。
様々な神話で数多く聞くけど、
世界が歪んだと……
すなわち、バランスが一旦崩れたと判断したら……
世界を創り直す為に、容赦なく、全てを滅ぼしたりもする。
怖い……話だ。
つまり、この世界で管理神様は……
創世神様の定めた、絶対的な
例えば、俺とクーガーの場合。
前世からの、いろいろな宿命はあったにせよ……
魔王クーガーが出現し、世界を滅ぼそうとした際、勇者の俺を使って、バランスを保った。
今回の件だって、想像して欲しい……
愛妻を失ったレイモン様が、もし絶望し、自暴自棄になって……
自死をするか、身体を壊して、命を失ったら……
……このヴァレンタイン王国は……もたないだろう。
現国王には悪いが、彼は人望がないから……
家臣の統制は取れなくなる。
大臣以下、好き勝手して、私利私欲へ走り、王国を食い物にしようとするかもしれない。
そうなれば……王国の政治基盤は揺らぎ、国内は乱れて行くだろう。
隙が出来たこの国へ、各国が要らぬちょっかいを出して来て……
下手をすれば戦争が起こるかもしれない。
戦争が起これば、今の平和が失われ、世界が大混乱に陥るのは間違いない……
ボヌール村やエモシオンだって、確実に戦火へ巻き込まれる。
人が大勢死ぬだろう……
つまり現在は、上手く保たれている世界の均衡が、レイモン様の死により、大きく崩れるのだ。
怖ろしい争いのリスクを回避させる為、管理神様は手を差し伸べた。
夢という形で、俺の生き様を見せて……
レイモン様の、萎えた気持ちを鼓舞した。
そして……とんでもない『奇跡』が起こる可能性も示した。
もしかしたら俺が『クミカ』へ奇跡的に会えたように、レイモン様は、愛する奥様エリーゼ様と再会出来るかもしれないと……
でも……
正直に言って……
レイモン様が、奥様と再会出来る可能性は極端に低いだろう。
万にひとつくらいしか、ないと思う……
これって所詮、神様がちらつかせる、レイモン様という『馬』への『人参』
……かもしれない。
だけど、レイモン様が絶望に囚われ、希望を失って生きる人生よりは……
ずっとマシだ。
多分、レイモン様も『夢』ばかり見てはいない。
奥様との再会が難しいって、きっと分かっていらっしゃる。
でも、現実をしっかり直視しながら、前を向いて生きるって決められたのだと思う。
あの時、レイモン様は俺の事を、「尊敬する!」なんて、仰っていたけれど……全然違いますよ。
今も王宮で、仕事に励んでいらっしゃるでしょうけど……
レイモン様、お聞き下さい。
俺は、そのお言葉を何倍にもして、貴方へお戻しします。
明るくて、前向きで、何事にも一生懸命で……
飾らず、気さくで、優しくて、思い遣りもあり……
その上、愛する奥様ひと筋なんて!
あの場では、お伝え出来なかったけれど……
レイモン様、貴方は最高の方です、心の底から尊敬します!
貴方は俺が、この世界で天涯孤独だと仰ったけれど……
今や素晴らしい家族に恵まれ、愛され、支えられている俺に比べ……
貴方は、ご自分の命よりも大事な奥様に先立たれても、必死に自分を奮い立たせ、頑張っている。
俺なんかには想像も出来ない、孤独の中でもがいているんだ。
はっきり言います、レイモン様。
俺こそが、貴方を励みにしたい。
愛する家族や仲間と共に、貴方の存在も、俺が生きる新たな励みになりますって。
この俺の、正直な……気持ちです。
だから、管理神様、お願いします。
いつか……レイモン様の悲願を叶えてあげて下さい。
一心不乱に頑張る彼が報われるよう、絶対、幸せにしてあげて下さい。
本当に本当にお願いします。
レイモン様に刺激され、改めて、やる気の出た俺。
明日は……
愛するクラリスを、王都のいろいろな所へ連れて行く。
そんなこんなで……
ようやく白鳥亭に戻ったら、もう宵の口。
実はキングスレー商会で夕食を誘われたけど、俺達は断った。
「早く宿へ戻って、休みたい」と伝えてね。
……本当の理由は……申し訳ないけど……
白鳥亭の名物、アマンダさん特製のハーブ料理を食べたいから。
でも商会は、気を悪くなどしなかった。
快く、俺達を馬車で、白鳥亭まで送ってくれた。
マルコ氏からは、「今後とも宜しくお願い致します」とも言われた。
レイモン様同様、彼等とも、更に素敵な関係になれるだろう。
部屋に戻って、俺達は安心してホッとひと息。
その後の夕食は……予想通り激ウマだった。
クラリスも大満足で、笑顔が一杯。
うん!
いろいろあったけど、今日は本当に良い日だったと思う。
ウルトラサプライズな出会いがあり、素敵な友情も生まれたもの。
買い物だって無事に済んだ。
一番の目的だったクラリスの使う画材が大量に、リーズナブルな値段で買えたしね。
この旅は、素晴らしくなる……
忘れられない思い出を、まだまだ作る事が出来る。
笑顔のクラリスに負けないくらい、俺の顔もほころんだのであった。