第10話「熱い再会」

文字数 2,470文字

 オベール様とソフィことステファニーは、お互いに駆け寄り、「ひしっ」と抱き合った。
 
 見ていて思うけど、いつもながら熱い父娘の抱擁である。
 まあ、俺の嫁ズは基本的に親と仲が良い。
 中でも、この父娘は特に仲が良いのだ。

 嫉妬?
 いえいえ、とんでもない。
 子離れ出来ない父親に、親離れ出来ない娘?
 否、全然OK、ノープロブレム。
 
 だって無理もないじゃないか。
 こんなに仲が良いのは、父娘の絆が堅いのは、俺にもよく分かるもの。
 オベール様の最初の奥様、つまりステファニーの母親が亡くなって……
 夫と妻、母と娘、お互いに永遠の別離の辛さを耐えた。
 そして父娘ふたりきりで助け合って、励まし合いながら……長い間、暮らして来たから。

 さて……
 念願であった愛娘との再会が叶い、オベール様は満面の笑みを浮かべている。
 愛妻イザベルさんや愛息フィリップと一緒に居る時とはまた一味違う、幸福なオーラを大量に放出している。

 両手で「がっし」と愛娘を抱きながら、オベール様は叫ぶ。

『おお、ステファニー、良かった! いつもと変わりなく、元気そうで何よりだ』

『もう! お父様ったら、私はいつも元気で幸せですよ。旦那様から伺えない事情を聞いたでしょ?』

 片や、抱き締められたソフィは父を軽く睨む。
 愛娘にたしなめられたオベール様は、まるで子供のようにはにかんだ。

『あ、ああ……確かに聞いたが……あまりにもショックが大きくて、まだ信じられない』

 疑問を呈するオベール様へ、ソフィは言う。

『うふふ、そう思うのは仕方がないとは思うけど……真実よ。グレース姉は今や私の大切な家族です』

 ソフィの言う通りだ。
 様々な諸事情から、経緯(いきさつ)に関しては多少盛ったり、脚色はしたが……
 理解し合えたソフィとグレースの絆は、本物。
 これだけは、はっきり言える。

 しかし、愛娘からそう言われても、まだオベール様は信じられないようだ。
 余程、ソフィとグレースの確執は凄かったのだろう。

 なので、またまた娘に聞いてしまう。

『ええっ? グ、グレース姉だと? 婿殿から一連の話は聞いたが、お前からも聞くと改めて吃驚だ。でも姉って? あのヴァネッサが、本当にお前の……姉……なのか?』

『そうです! 今や本当の姉、以上の姉です!』

 きっぱり言い放つソフィ。
 「もう! いい加減に信じなさいっ!」っていう、強い命令オーラが父へビシバシ注がれていた。

 うん!
 詳しい話を直接ソフィから聞けば、オベール様も納得するに違いない。
 と、いう事で俺は邪魔。
 こんな時は、「さくっ」と気を利かせないといけない。

『少しふたりきりで話せば良い。俺、ちょっと外すから』

 俺がそう言うと、ソフィとオベール様は不思議そうに「きょとん」としている。

『え? 旦那様』

『婿殿?』

 俺が席を外して、父娘ふたりきりにするのが何故?とか どうして? と思ってくれるのかな?
 ああ、少しだけ嬉しくなった。
 笑顔の俺は軽く手を振って、その場を離れたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ソフィとオベール様ふたりから離れ……
 緑一面の草原に、手足を伸ばし、大の字で寝そべる俺。

 真上には真っ青な大空。
 燦々と降り注ぐ太陽。
 周囲を吹く風は爽やかで、草の香が鼻をくすぐり、とても落ち着く。
 エモシオンの城館で俺は寝ていて、ここは夢の中なのに……不思議な気分だ。

 自分で造っておきながら、ここは最高の場所だと思う。
 多分この癒しが……
 俺が故郷に求めていた、理想と同じなのだろう。

 だが、帰りたかった故郷にも、厳しい現実が待っていた。
 もし転生しなかったら……
 帰郷した俺は、クミカの悲惨な死という、厳しい現実を突きつけられていた。
 幼い日の記憶が甦った俺は後悔に染められ、ずっと辛い日々を送っていただろう。
 あれだけ夢見た故郷での暮らしも、理想通りになってはいない……

 所詮、人間って、理想を追い求めながら、近付こうとしながら……
 リアルな現実と向き合い、歯を食いしばって生きて行くしかない。

 目を閉じて、つらつらとそんな事を考えていたら……

『旦那様!』
『婿殿!』

 頭上から、聞き覚えのある声が掛けられた。
 ソフィとオベール様であった。
 どうやら父娘水入らずでたっぷり話し、充分満たされたようである。

 近付くふたりの気配は、分かっていた。
 だが敢えてこちらからは声を掛けず、気付かぬふりを俺はしていたのだ。
 ふたりから見下ろされた俺は、ゆっくりと半身を起こして、草原の上に座り直した。

 まず、ソフィが声を掛けて来る。

 とっても、にこにこしている。
 今のソフィは変身の魔法を解除し、ステファニーとして元の顔に戻っている。
 だから、さらさらな金髪、そして美しい碧眼の仕様。
 華がある、典型的な貴族美人。
 
 正体を隠す為、地味に髪と瞳の色を変えたソフィ。
 地味バージョンのソフィを毎日見ても、綺麗だと思っている俺だが……
 こうして元の顔に戻っても、凄く美しいと感じる。
 うん、はっきり言ってノロケです。

『もうお父様とはたっぷり話しました。今度は旦那様を入れて、3人で話しましょう』

『うむ、ステファニーの言う通り、婿殿を入れてじっくり話したい』

 3人で?
 一体、何を話すのだろう。
 ああ、でも、俺なんかと話したいなんて。
 そう言って貰えると、凄く嬉しい。
 自然と、感謝の言葉が出る。

『ありがとうございます!』

 すかさずソフィが、

『ほら! お父様、そうでしょ?』

『おお、確かにな』

『???』

 ほらとか、確かにとか、意味不明で謎めいた仲良し父娘の会話。
 どうやら、俺の事を言っているらしいが……
 
 わけがわからない俺は、思わずきょとんとしてしまったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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