第2話「異世界でケイドロ」
文字数 2,348文字
家族全員が朝御飯を食べる為、居間へと集まって来た。
新たに嫁となったグレースことヴァネッサも、元気良く朝の挨拶をしている。
俺、嫁8人、子供7人の計16人が揃うと壮観だ。
前世の日本では、中々見られない大家族だろう。
俺とクッカ、クーガーは早速他の嫁ズに昨夜の話をした。
そう、『ケイドロ』について。
当然ながら、大盛り上がりとなる。
嫁ズは皆、直感が鋭い。
俺の話を聞いて遊びの楽しさは勿論の事、クッカの切ない思いを感じたのだろう。
既に俺達は、転生の秘密を共有している。
唯一の秘密はグレースこと、ヴァネッサの過去とソフィの繋がりだけだから。
なので、全員協力して前向きに取り組もうという事になった。
一番の主役である子供達は、当然ながら状況を飲み込めない。
大人達が異様にはしゃぐのを、きょとんと見ていたのである。
嫁ズとのコンセンサスが取れたので、俺は村長のリゼット父ジョエルさんと相談した。
遊び場は、村外の農地周辺と決めている。
村内では狭くて、おいかけっこなどしたら他の村民へ迷惑をかける可能性があった。
広くて安全な遊び場確保の為に必要な事は、門番常駐である正門を外柵の門へ移動する事、外柵の更なる大幅強化など。
実施するか、どうかの最終判断は村長のジョエルさんがする。
現実問題として、費用は結構掛かる。
だが、村の子供の育成&遊びの為という趣旨でのお願いだと伝えた。
俺はジョエルさんに熱く語る。
子供は村の宝であり、将来を担うと……
結果……
村長という立場もあって、ジョエルさんは快諾してくれた。
やった!
バッチリだ。
農作業を邪魔しないようにすれば、これでのびのびと遊べるだろう。
上司ジョエルさんの許可が出たので、俺は率先して外門の櫓製作と外柵の強化工事を行う。
嫁ズも持ち回りで手伝い、職場移動となるガストンさんやジャコブさんも手伝ってくれた。
村民も子供の遊び場確保だと聞いて、作業を申し出る者がどんどん増えて行った。
約3週間で作業は終了。
外門と外柵はぐっと頑丈になり、村の防衛力は格段に増した。
内門の櫓に居たガストンさん達も新たな櫓に陣取って敵襲を警戒するようになったのだ。
そして、いよいよボヌール村で解禁される新たな遊び、ケイドロ。
俺と嫁ズ全員、そして俺の子供達を含めた村の子供全員が集められる。
「これから、何をするんだい?」
「良かったら、教えてくれないかね?」
気になって声を掛けて来たのは農作業担当のベテランふたり、ラザールさん、ニコラさんであった。
今や村の『じいじ』として、自分の孫と同様な子供達の面倒を日頃から良く見てくれている。
「ええ、子供達と新しい遊びをするんです」
俺が答えると、ふたりは目を輝かせた。
「それって儂等も参加して構わないかね」
「一緒に遊べるかね」
「ええ、構わないし、おふたりとも普段鍛えていらっしゃるから問題無いです」
「混ざりたい」という、『じいじ』ふたりを俺達は歓迎する。
「では説明を始めます。これはケイドロと言いまして……」
説明役には、クッカが任命された。
大きな声で、張り切って遊びの説明をしている。
ケイドロのルールとは……
まず『牢屋』の場所を決める。
木陰とか壁際とか、何か目印になるものがある場所がベストだ。
次に『警官役』と『泥棒役』の二組に分かれる。
警官役がいくつか数えたら、泥棒役が一斉に逃げる。
それを、後から警官役が追いかけるのだ。
警官役がタッチしたら、泥棒役は抵抗出来ずに捕まるルールである。
捕まった泥棒役は牢屋に入れられるが、助けに来た仲間が警官役にタッチされず、捕まった者へ先にタッチしたら牢屋から脱獄が出来るのだ。
警官役が泥棒役全員をタイホしたら勝ちで、役柄を交替して遊びを続ける。
オリジナルのケイドロに、俺達はいくつかローカルルールを加えた。
こうしたローカルルール採用も、各地では良くあった事だ。
警察官に馴染みがなくても、村の人はエモシオンの衛兵なら知っている。
だから、追いかけ役に衛兵をイメージさせたのだ。
例えばだが、悪い事をしたら衛兵は……「スターップ」と声を掛けて来る。
その行為をルールに取り入れた。
衛兵役が「スターップ」と告げたら、泥棒役は3秒間大きな声で数えて、その場に留まらなくてはならない事にした。
しかし「スターップ」の濫用は出来ず、使用は1回だけとするとか制限も設ける。
やがて……ボヌール村オリジナルのケイドロは始まった。
警官役……いや衛兵役と泥棒役の息詰まる攻防戦だ。
息詰まると言っても、雰囲気は正反対。
子供が楽しそうに全力で逃げ、じいじが怖い顔をしてわざとゆっくり追いかける。
俺が大袈裟なポーズで逃げ、クッカが悪戯っぽく笑って追いかける。
嫁ズも、皆が夢中になって隠れたり、追いかけたり……
手が空いたら、村民の大人も参加。
ジョエルさん、フロランスさん夫妻含めた義両親達もキャッキャと言いながら童心に戻って遊んでいる。
遊び場であるボヌール村の農地は、大きな笑い声と歓声に包まれた。
年寄りに、親、そして様々な世代の子供達が全員一緒に遊ぶ。
これこそ……俺の前世では殆ど見なくなった昔の風景である。
俺は万感の思いを込めて眺めていた。
いつか見た故郷の夢のような……
ひどく懐かしい、セピア色をした夢のような光景であったのだ。