第2話「外の世界を見せよう」
文字数 2,743文字
ボヌール村は、新たな村民がずいぶん増えた。
俺が来た頃と比べ、いろいろな部分で、世代交代も進んでいる。
何せ、村長が俺なのだ……
もう次の段階へ……という事だろう。
思えば我がお子様軍団も成長した。
とても大きくなった。
第一世代であるタバサ達も、もう6歳……
まもなく7歳になる。
ちなみに、このヴァレンタイン王国では、子供も立派な労働力となっている。
皆、小さい頃から働きだす。
我がお子様軍団も例外ではない。
レオ、イーサンはもう兎狩りの手伝いくらいなら、立派に出来る。
ナイフを使い、獲物の解体作業だって出来る。
他の子達も赤ん坊のベル以外は、農作業をばっちり手伝っている。
そんなわけで、子供が小さい頃から仕事をするのは、当たり前の、この異世界だが……
我が子達も、そろそろ次のステップへ踏み出させても良いだろうと思い、嫁ズと相談した。
例によって行われたのは夜で、お子様軍団が寝付いてから。
俺は早速、今夜の議題を切り出す。
「皆に相談したい。そろそろ第一世代の4人を、エモシオンへ連れて行きたいと思う」
嫁ズは反対せず、黙って聞いていたので、俺は話を続ける。
「趣旨は子供達へ村外の世界を見せ、学んで貰う事。オベール家との親交を深める事のふたつだ。申し訳ないけど付き添いは限定する。留守の事も含め、全員は行けないから。いろいろ考えたけど、俺と子供達の母親クッカ、クーガー、レベッカ、ミシェルが同行する」
人選も妥当だと思う。
子供の付き添いとして母親が同行という事に、意義を唱える者は居なかった。
年配の人に聞けば……
俺が村に来るより遥か昔。
ボヌール村は、とても閉鎖的であったという。
村から一歩も出ず、生涯を終えるという村民も多かったらしい。
しかし大規模な魔物の襲撃が何度もあり、犠牲と流出で村民が著しく減り、村は存亡の危機に陥った。
その為、方針を変え、外部から人を受け入れるようになった。
時が流れ、俺が村民として受け入れられ……
方針変更を伝え聞いてか、移住を希望する者も出て来た。
結果、村は徐々に人が増えて行く……
そして今や、俺や嫁ズが毎月エモシオンへ行くようになり……
つれて王都やジェトレ村、外国からの商隊も、以前よりずっと立ち寄る事が多くなった。
こうなると村民の目は、より村外へと向けられる。
我がお子様軍団も例外ではない。
個人差はあるが、長女のタバサはいつか王都を見たい……なんて言っていた。
でも物事には順序がある。
嫁ズだって、いまだ王都を見ていない者も居る。
だから、お子様軍団が行くのは、最初はエモシオン。
更に言えば、いきなり魔法は使わない。
すなわち我が子とはいえ、俺のレベル99のカミングアウトはしない。
まだ全てを告げるタイミングではないから。
「今回、行きは転移魔法を使わず、まともに馬車で行く。半日かけてね。丁度一週間後に結構大きな商隊が村へ来る。強力な護衛も同行しているだろうから、後をくっついて行くつもりだ。帰りはその時に検討して決める」
嫁ズも、俺の意図を察したらしい。
まともに旅をするのなら、いくら俺とクーガー達が強力でも、単独行なんてしない。
地球の中世西洋でもそうだったらしいが、強力な護衛を随行させた大きな商隊が居れば、安全を確保する為一緒に行く。
それがお約束。
まだ質問や反対意見はない。
なので、俺は説明を続ける。
「エモシオンに着いたらタバサ達を、領主であるオベール家へ引き合わせして、俺達領民の立ち位置を教える。そしていろいろな場所を回り、社会見学もさせる」
ここで、クーガーが「さっ」と手を挙げる。
「旦那様、質問! 留守中の村と道中の事、考えてる?」
「ああ、考えてるよ」
クーガーの指摘は、道中における『安全面』って事。
当然俺は、自分が不在の間の、村の安全を考えてる。
俺だけじゃなく、戦闘力上位のクーガー、クッカ、レベッカ、ミシェルが
が一気に不在になるから。
「打合せは済んでる。俺達が留守の間は、表向きの守りはガストン副村長とジャコブさん達は勿論、アンリ、そしてデュプレ兄弟もしっかりと防衛する。裏部隊ではケルベロスとジャン、そしてフィオナも残すから」
ケルベロスは冥界の魔獣、ジャンは妖精猫でも戦闘力上位、フィオナは女子ながら強靭なグリフォンだ。
こんな時、非常時にはケルベロスがリーダーとなる。
不在である俺の代わりに、従士達の指揮を執り、外敵に対処する事となっている。
当然、従士達の正体は、絶対ばれないようにね。
俺の話を聞き、クーガーが頷く。
「うん、だったら安心。こっちはこっちで、旦那様と私達は絶対にレオ達を守るから」
「ああ! それと、もうひとつだろう?」
「ええ、そうよ」
俺の問いに頷いたクーガーを見て、今度はクッカが首を傾げる。
「もうひとつ?」
聞かれた俺に代わって、クッカへ答えたのはクーガーである。
「うん! もし魔物、そして人間の山賊や強盗の襲撃があった場合よ……子供達へ厳しい現実を見せるかって事。私は見せた方が良いと思う。良い機会だわ」
厳しい現実……
この異世界では、俺の前世よりあっさり人が死ぬ。
魔物や人間などに襲われて……
だから自分、そして家族を守る為には戦わなくてはならない。
でも、魔物はまだ良い。
完全な敵であり、怖ろしい捕食者なのだから。
問題は人間の敵である。
同じ人間同士で殺し合う、ぞっとするような現実がある……
俺だって、最初は
まだ6歳か、7歳の幼い子供に殺し合いを見せて良いのか?
という疑問や葛藤は尤もである。
だが……クーガーは言う。
「いつかは……子供達にも、この世界の
クーガーはそう言うと、俺へ熱い眼差しを向ける。
そう、俺とクーガーはもう、この手を人の血で汚している。
ボヌール村の村民を、虐殺しようとした傭兵どもを始めとして……
だが仕方がない。
家族を、ボヌール村を守る為だ。
常に盾となる俺への、感謝の波動が、クーガーから伝わって来る。
そんなクーガーの気持ちが、すぐ伝わったのだろう……
他の嫁ズも、俺へ熱い視線を向けたのであった。