第6話「試練を乗り越えろ!」

文字数 3,165文字

 食事が終わった後、本日の方針&試練に関して説明があった。
 話すのはフレデリカの父マティアスである。

「ケルトゥリ様から遣わされた勇者様が……いずれは元の世界へ戻られると知り、父と急ぎ相談しました。試練を受けるフレデリカに協力して頂きながら、指導をしてやって下さい」

「指導?」

「はい、魔法、体術、心構え、何でも結構です。フレデリカへご教授頂きたい」

 未知の勇者からアールヴ族が受け継ぐのは、何も『血』だけではない。
 勇者の持っている技能も、習得したいという考えがあるのだろう。

 俺の持つ魔法やスキルは最初からズルして与えられたモノだが、何かプラスにはなるかもしれない。
 ケルトゥリ様も、そのような効果を期待したのかもしれない。
 俺が貢献すれば、この世界で彼女の信仰心が上がるのだから。

「了解しました。俺がどこまで何を教えられるか分かりませんが、全力を尽くします」

 そんな事を考えて、無難な返事を戻したら、

「勇者様、ありがとうございます! 創世神様とケルトゥリ様に深く感謝致します」

 早速、マティアスはジャストなコメントを出してくれた。

 あは!
 よっし。
 信仰心を上げるって、こういう感じだな。

 手応えを感じる俺に対して、マティアスは話を続ける。

「では次に試練に関してご説明します」

 試練か……
 果たして?

「試練とは現ソウェルから与えられる課題といえる難事です」

「難事……」

 ああ、分かる。
 伝説の英雄ヘラクレスが成しえたモノみたいな感じかな。

 俺が頷くと、マティアスは話を続ける。

「ランクは難易度によってS、A、B、Cと分れており、クリアすれば相応の評価が下され、実績として残ります。種類は大きく分けますと討伐系、調査探索系、そして貴重品獲得系の3つです」

「成る程」

「我が国へ害為す討伐系の試練で魔物や魔獣に置き換えて言いますと、Sは大悪魔や古代竜(エンシェントドラゴン)、Aは中小の悪魔、二足竜(ワイバーン)やグリフォン、Bはオーガ、Cはオークとなります」

「分かり易い、理解しました」

「ご理解して頂き、ありがとうございます。フレッカ……いやフレデリカは今迄にBランクの試練——オーガ討伐を成し遂げています」

 フレデリカは既にオーガを倒したのか?
 彼女の出す魔力波(オーラ)で結構な実力者だと分かったが、やはりそう。
 レベルで言うと、50前後くらいだろう。
 ちなみにシュルヴェステルは良く分からないが、俺以上の実力者なのは確か。
 意外だったのは、フレデリカの父マティアスでレベル40を少し超えたというところ。
 自分の娘より……下なのだ。
 
 ここでフレデリカが手を挙げる。
 マティアスが発言を認めたので、声を張り上げる。

「お父様! 今日は勇者様が居るから、当然討伐系のAランクをお願いしたいわ」

 討伐系のA。
 すなわち二足竜(ワイバーン)レベルか。
 状況にもよるが、二足竜(ワイバーン)ならば以前も戦った事があるし、まあ何とかなるだろう。

 しかし父は、経験不足の愛娘が心配らしい。

「フレデリカ、それは無理だ」

「無理じゃないわ」

「いや無理だ。Aランクというのは、ソウェル自ら解決にあたられるくらいの難事。候補レベルのお前では到底だ」

「あら? それはお父様がでしょ? 私は大丈夫よ」

 フレデリカは自分の実力が父を上回っている事を知っている。
 だから、こんな失礼な事を言うのだ。

 俺の前で立場をなくされたマティアス。
 何とか怒りを抑えながら、フレデリカへ言う。

「むむむ、お前は先日Bランククリアを苦労してやっと成し遂げたばかりではないか」

「だから~勇者様が、ケン様がいらっしゃるからぁ、全然怖くないし大丈夫だって」

 何かエスカレートして、不毛な会話になりそう。
 と思っていたら、案の定シュルヴェステルが止める。

「マティアス、フレデリカ、もう止めなさい。勇者様の前だぞ」

「父上!」

「は~い、御免なさ~い、お祖父様」

 さすがにフレデリカは祖父の言葉には従った。
 そのシュルヴェステル、息子をフォローしてやる。

「マティアス、私が代わってやりとりしよう、良いな?」

「か、かしこまりました、ソウェル」

 マティアスの言葉遣いが変わっていた。
 息子ではなく『部下』として命令に従っている。

 マティアスの同意を得たシュルヴェステルは孫娘へと向き直る。

「うむ、ではフレデリカ」

「は、はい! ソウェル」

「お前の気持ちは尊重したいが、今のところAの試練はない」

「となると、またBですね。楽勝です」

 ニコニコ余裕のフレデリカ。
 しかし!

「いや、折角だからもっと凄い課題に挑んで貰おう」

「凄い課題? やったぁ!」

「前向きなお前の気持ちを無駄にする事になるからな。但しイエーラではなく、遥か北の魔境で行って貰う、転移門を使ってな」

「魔境!?」

 祖父のひと言でフレデリカの表情は一変した。
 目を大きく見開いている。

 マティアスも吃驚したようだ。

「父上!」

「控えよ、マティアス!」

「は、はいっ、ソウェル……」

「フレデリカ、魔境であればお前が望むAランクどころか、Sランクレベルの試練に近い経験が出来るだろう。危険度を考えると、ひとりなら絶対に行かせないが……お前の言う通り、勇者ケン様がついていらっしゃる」

「うう、は、は、はい……」

 震えながら返事をするフレデリカ。
 えっと魔境って、あの魔境だよな。

 俺は少し前にグリフォンのフィオナと共に赴いた地を思い出した。
 結構凄い場所だった。
 うまくやり過ごしたが、竜の大群がうじゃうじゃ居たのだ。
 この世界の魔境がもし同じならば、自信家のフレデリカが震えるのも分かる。

 と、今度はシュルヴェステルは俺へ呼び掛ける。

「勇者様!」

「はい」

「失礼だが、改めて戦歴をお聞きしたい。悪魔や(ドラゴン)と戦った事はおありかな?」

 成る程!
 この質問はシュルヴェステルの深謀遠慮だ。
 俺に実績を話させる事で、フレデリカの暴走を抑え、マティアスの心配を(やわ)らげる効果を狙ったのだ。

 シュルヴェステルの質問を聞いて、つい俺を見るフレデリカとマティアス。
 注目の俺はあっさり答える。
 悪魔はエリゴス、竜はクーガーの騎乗竜、そして召喚士の呼んだ二足竜との戦いを思い出して。

「ありますよ。悪魔は多分相当なレベルの奴だと思います。竜は……最初がハイドラゴンで、たぶん古代竜(エンシェントドラゴン)。次に戦った竜は二足竜(ワイバーン)でした」

「うむ、それで勇者様が今も無事という事は、結果はどうなったのですかな?」

「はい、悪魔は魂を破壊し消滅させました。古代竜(エンシェントドラゴン)は無力化、二足竜(ワイバーン)は倒しましたね」

「えええっ」
「あううう」

 驚愕! という言葉がぴったりのフレデリカ達。
 そんな中、シュルヴェステルは質問を続ける。

「おひとりでか?」

「はい、その場に協力者は居ましたが、戦った時は俺ひとりでした」

 俺の答えを聞き終わった、シュルヴェステルはにっこり笑う。

「ならば大丈夫、フレデリカ、お前を勇者ケン様と共に魔境へ送ろう」

「は、はいっ」

「試練をクリアするのは大切だが、その前にケン様の言う事を素直に良く聞くようにな」

「か、かしこまりましたっ、ソウェル!」

 こうして……

 俺とフレデリカはアールヴ達が怖れる魔境へと送られたのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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