第11話「救出①」

文字数 2,242文字

 という事で……

 俺と嫁ズは、迎えに来た『騎士見習い君』アンリに先導され、オベール様の城館へ戻っている。
 颯爽(さっそう)と、先頭を歩くアンリは……
 いかにも少年らしく溌溂として、若さに満ち溢れていた。
 そういう俺も20歳を超えたばかりだから、まだ充分に若いのだが……
 比べれば、さすがに10代は違うと思う。

 案の定というか、俺の後ろで、嫁ズが何やら内緒話。
 何度も言って申し訳ないけれど、俺の聴力は常人の数十倍。
 
 あのぉ、聞こえていますよ。
 ふ~ん、アンリが出会った頃の俺みたいに可愛いだって。
 ああ、15歳の時の俺ね。
 そういう時代もあったよね……

 何だよ、結構、ふけたなぁって?
 そんな事を言うのは……やっぱり毒舌クーガーか?
 さっきの仕返し?
 いやいや、年相応の落ち着きが出たと言って欲しいぞ。
 
 でも……
 15歳でこの異世界へ来た俺も、前世でいう20歳を超えた大人。
 ああ、月日が経つのは早いなぁ……

 そんな事を、つらつら考えていたら、嫌な波動が伝わって来た。
 これは……誰かが絡まれている!
 誰かは……女の子だ。
 相手は、複数の男か。
 場所は、少し離れた裏通りみたいだ。

 これは対処しなきゃいかん。
 俺は振り返って、嫁ズへ叫ぶ。

「おいおい、トラブルらしいぞ! ちょっと、行って来るが、クーガー、ミシェル、とりあえず皆を守れ。あと、衛兵呼んでおいてくれ」

 心配したのは、お約束のナンパ。
 自慢じゃないが、こんなに可愛い嫁ズだもの。
 俺という連れが居なければ、そこいらの男から、お誘いの声を掛けられるのは必定。  
 当然、お断りしてお引き取りが基本だが、万が一しつこく絡まれたらという心配がある。

 そんな時の、守り役はクーガー。
 まあ、クーガーだけで充分だとは思うが、ミシェルも拳法の達人。
 そこらへんの『ごろつき』くらいなら、充分渡り合える。
 いざとなれば攻撃魔法使用可能なクッカも居るし、俺が少しだけ外しても大丈夫だろう。 

「了解!」
「任せて!」

「わっかりました」
「すぐに衛兵を呼びますね」

「え? どうしたのですか、いきなり?」

 先頭を歩いていたアンリも驚いているが、俺と嫁ズにとってはいつもの事。
 これまで、エモシオンでは何回か同じ経験をしたから。

 というのは、最近エモシオンの評判が良い。
 オベール様の善政が原因だと思うが、とても住みやすい町だって、王都にまで噂が伝わっているという。
 評判が良くなれば、こんな遠方の町でも、そこそこ人がやって来るのは当然。
 
 新参者には、町へ入場する際に、門番がチェックはする。
 しかし指名手配中の犯罪者でもない限り、既定の入場税を払えば、問題なく町へ入れるのだ。

 当然だが、入場手続きの際は、皆猫を被っている。
 私は善人ですよぉ、悪い事なんか絶対しませんよぉ、清廉潔白で真面目に生きていますよぉ、みたいな……
 だが、根っからの悪党は町へ入った途端、怖ろしい本性を表す。
 まるで、某童話に出て来る凶暴な狼みたいに……

 俺が更に聞きつけたのは、女性の小さな悲鳴。
 そして、索敵のスキルで状況も把握。
 エモシオンの人口は約1,500人で小さな町だが、警護する衛兵の数は絶対的に足りない。
 そう!
 常に、人手不足状態なのだ。

 なので、トラブルが起こった際、『宰相』の俺自らが、現場で治安の維持にも当たっている。

「頑張って下さい!」
「頼むねぇ!」
「気を付けて!」
「不埒者を、懲らしめて下さいっ」

「え~っ! ケ、ケン様、どこへ!? ま、待って下さいよっ」

 嫁ズの大きな声援と、アンリの戸惑う声を背に受けて、俺は走り出した。
 焦ったアンリも、走り出したみたい。
 背後から、声を掛けて来る。

「ま、待ってぇ! 待って下さい~っ!」

「い~や! 急いでいるから、待た~ん!」

「そ、そんなぁ~!」

 エモシオンの路上で繰り広げられる、漫才のようなやりとり。
 韋駄天のように「さっさか」走る俺を、騎士見習いのアンリは必死になって追いかけて来ている。
 
 ちょっとだけスキルを使っているから、俺が走る速度は一流の陸上選手並み。
 少しくらい鍛えていても、常人では追いつけない。
 
 でもアンリは息を切らして追いかけて来る。
 
 騎士見習いというから、それなりに鍛えてはいるらしい。
 だが、俺に追いつくのは100%無理。
 可哀そうだと思うが、今は構っていられない。

 アンリを待つより、大至急、襲われている女性を助けなくては!
 必死に助けを求める気配は、とても切羽詰まっていたから。
 
 怖い!
 早く、助けて!
 理不尽な酷い暴力を、振るわれている!
 その上、今にもどこかへ連れ去られてしまう!
 
 そう、必死に訴えていた。
 連れ去られて、その後に起こる事を、俺は想像もしたくない。

 大勢の凶暴な男達が、たったひとりの女を連れ去ってどうなるか?
 悲惨な運命が待っているのは、100%確実だ。
 
 走る速度を更に上げ、アンリを「ぐんぐん」引き離した俺は、数分で現場へ着いた。
 そこは中央広場から、約1㎞離れた寂しい裏通り。

 居た!
 あそこだ。
 
 やはり!
 若い女性らしき小柄な者が、5人の逞しい男達に取り囲まれていたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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