第15話「笑う門には福来たる①」
文字数 2,253文字
そして可愛い服を作る事にかけては天才的な女の子。
最初の認識は、そうだった。
しかしそれらは、クラリスのほんの一面だけ。
他にも彼女の隠された才能が、段々と分かって来たのだ。
親友リゼットの夢を聞いてハーブの事も猛勉強。
今やクッカやリゼットにも負けないハーブの知識を持つ、癒し系完璧農ガールとなった。
加えて才能が開花したのが、以前エモシオンの町へ行って大空屋の仕入れに参加した際……
クラリスは、市場の交渉で大活躍。
ボヌール村へ戻ると、ミシェルに即弟子入り。
日々働く中で、優れた商人としての適性を見せたのである。
農業全般に詳しく、デザインと裁縫をこなすファッションクリエイター、そして商売に長けたビジネスウーマン……
本当に凄い才能だと思う。
ところで……
またリア充とか言われそうだが、最近また寝る時のパターンが増えた。
嫁複数以外に、嫁と実子の3人で寝るパターンである。
今夜、俺はクラリスと一緒に寝て、傍らの小さなベッドにはまだ1歳の息子ポールを寝かせていた。
3人一緒に川の字で寝ないのはその……まだまだ愛の行為をいっぱいする為だ。
だって、もっともっと子供が欲しいもの。
そう、単にエッチしたいだけじゃないんだ。
崇高な目的だから。
え?
このスケベ野郎! だって?
貴方も! そこの貴女も! いずれ誰かと夫婦になれば分かりますって!
俺と同様、たくさん子供が欲しいと言うクラリスの要求に応えた後、まどろむ一時の事。
「はいっ、これ! 旦那様、よかったら貰ってください」
以前クーガーが、俺に四つ葉のクローバーをくれたのと同じパターン。
今回は、クラリスから俺への特別プレゼントだ。
「おおお、凄い! そっくりだよ」
俺はその『プレゼント』を見て驚いてしまった。
クラリスが差し出したのは、俺そっくりに描かれた『似顔絵』であった。
いわゆる肖像画ではなく、俺の特徴を上手く捉えてデフォルメ的に描いた漫画風似顔絵なのである。
「急に旦那様の顔を描いてみたくなったの、私から日頃の感謝の気持ちを込めて」
相変わらず、癒し系の笑顔を見せるクラリス。
笑うと、垂れ目がなくなってしまうくらいの超癒し系だ。
しかし洋服を作る時に見せて貰ったデザイン画は秀逸だと思ったが、このような才能もあったとは。
ちょっと大袈裟かもしれないが、クラリスはまるでボヌール村のレオナルド・ダ・ヴィンチである。
「俺、クラリスにそこまで感謝されるくらい尽くしたっけ?」
俺がわざと意地悪く言うと、クラリスはむきになる。
「何を仰っているのですか! 旦那様と出会うまで私は農作業の合間に洋服をちまちま作る地味な女の子でしたもの」
「地味な子なんてとんでもない! お前はすっごく可愛いじゃないか」
「可愛いって言って貰うと、私どきどきするんです、とても嬉しくなるんです」
俺は、甘えるクラリスを「きゅっ」と抱き締める。
「私、旦那様と結婚して、家族も大勢出来てとても幸せだと思っていました。だけど最近もっともっと楽しくなって来ているんです」
クラリスの充実振りを見ると、確かに俺もそう思う。
最近のクラリスはマルチな才能を発揮して家族に貢献しながら、自分も充分に楽しんでいる。
人生を120%、謳歌しているといえるのだ。
「ポールはクラリス似だ。将来どんな才能を発揮するか、楽しみだな」
俺は、傍らで眠る息子のポールを見て言う。
成長してクラリスみたいに芸術家タイプに育ったら、王都で勉強したいとか言うのだろうか?
そうなったら、どうしょう!?
王都にやって学ばせる方が良い?
いや、都会で擦れて欲しくない。
のびのびと育って欲しい。
だから、ボヌール村に居た方が良いのか?
家族は賛成? 反対?
妄想は、どんどん膨らんで行く。
俺がつらつらと考えていたら、クラリスはポールが『俺似』だと言い張る。
「いいえ! ポールは旦那様似です。絶対に強い男の子になりますよ。レオやイーサンみたいに」
「おお、そうかもな」
こんな時に否定したら喧嘩の元。
そんなのは、つまらない。
だから、相手の意見を受け入れる。
嫁と、末永く仲良くやって行くコツである。
ちなみに、クーガーとレベッカは相変わらずスパルタ教育。
そして先日の狩りデビューも加わって、最近レオ&イーサンは男としての強さを感じさせるようになっていた。
レオは渋く、イーサンは爽やかに、それぞれ男っぷりをあげている。
クラリスは、先輩ママ達を見ながら思ったらしい。
自分の息子に対して、やはり強くなって欲しいと。
俺は、にっこり笑って言う。
「ポールが芸術と強さのセンス両方あったら無敵だな……顔はクラリス似で恰好良いしな」
「うふふ、旦那様の欲張り! それって親馬鹿ですよ」
俺はまた、クラリスとイチャイチャする。
ああ幸せと思いつつ、ふと俺の似顔絵を見ていたら、凄い事を思いついたのだ。
俺は考えた事を、早速クラリスに伝えて相談する。
最初は驚いたクラリスも、話を聞いて俺の意見に賛成してくれた。
とっても面白いと感じたようだ。
こうして俺とクラリスは、深夜「ひそひそ」と作戦を練ったのである。