第21話「そうだ! 学校を作ろう!①」
文字数 2,083文字
クーガーとカルメンは一気に心の距離を詰め、カフェの雰囲気はとても和んだ。
当人同士は性格的に素直になれず、お互いにまだまだ、ぎこちなかったけど。
オベール様夫婦、俺達ユウキ家、そして随行した護衛達までも……
カルメンの腕がさえわたったハーブ料理を、存分に楽しんだ後、これまた美味しいハーブティーを飲みながら、皆、楽しそうに話している。
中でも子供達は、5人でかたまり、お互い熱心に話し込んでいた。
午前中、町で見た物、聞いた物がとても刺激的だったようだ。
このような時、同じものを見た相手と話せば盛り上がる。
自分とは違う感想や意見を聞き、様々な価値観に触れるのは大切である。
また、一緒に学べば、間違いなく絆が生まれる事を、俺は前世の学校で経験している。
常人以上の聴覚を持つ俺の耳へ、自然と子供達が話す内容が聞こえて来る。
「門番さんって、大変ね」
「衛兵……カッコイイ」
「税金って、難しいな」
「あの食べ物、どんな味がするんだろう?」
「私も、このお店手伝いたい!」
どうやら予想通り……
正門で俺から聞いた話、先ほど見た市場の店と商品の数々、そしてアンテナショップの感想等を言い合っているようだ。
中でも目立つのは、フィリップの弾けんばかりの笑顔。
普段城館で、俺がいろいろ手解きしている時より、ずっとずっと楽しそうである。
現在、フィリップは……
家庭教師から教わるという形で、マンツーマンで学んでいる。
教師役はオベール様、イザベルさん、俺、ジョエルさん、フロランスさん。
村へ移住する前は、アンリも教えていた。
仕事との兼ね合いがあるので、突如キャンセルになる場合もある。
キャンセルされた場合は可哀そうである。
フィリップはたったひとり、部屋で自習だから、
そんな勉強に比べると、今回は凄く楽しいに違いない。
そもそも、このヴァレンタイン王国には、学校自体があまりない。
王都や大きな街に限られている。
実際にあるのは、中小の私塾的なものばかりだ。
このエモシオンの町も、例外ではない。
某商店主が個人的な趣味レベルで読み書きだけを教える、小さい私塾ひとつしかない。
さすがにオベール様も、その塾には愛息を通わせられないと言っていた。
身分の問題が一番大きい。
ましてや、既にフィリップは、読み書きが出来るから。
ではこの王国の子供は、本来どうやって学んでいるのか?
王都の貴族は学校へ行くのが殆ど。
それ以外は、親が直接教えるか、知人が家庭教師になるのが多いらしい。
更に詳しく説明。
職業別で、まずは騎士。
アンリに以前聞いたが、王都に在住する者は騎士学校へ通い、それ以外の街では主が知り合いの他家へ丁稚奉公に出る。
そして乗馬や武道に止まらず、読み書きに始まり騎士の精神や音楽までも叩き込まれる。
更には容赦なく、使用人がやるような掃除、洗濯、食事の準備片づけ、お使いなどの雑用も命じられるという。
本来ならフィリップは、オベール様の親友でアンリの実家、王都のバルテ家あたりに修行へ行くところだが……
アンリの受けた酷い仕打ちを聞き、オベール様が即座にとりやめたらしい。
そして商家の子供はといえば、文字通り実家や他家へ丁稚奉公して、仕事と共に基礎の勉強をする。
職人も、親方となるべき者へ弟子入りして同様だという。
ばりばりの農民である我がユウキ家や村の子供達に関していえば、手が空いた大人が随時、読み書き、算数等を教えていた。
受ける子供の人数はいろいろな事情で、一度に多くて3人、もしくは、たったひとりの時もあった。
なので、俺はひらめいた。
今回みたいな、ある程度大勢の子供達へ、教える仕組みを決める。
そう……思い切って、ボヌール村に学校みたいなものを作れないかと。
今回のテーマはお子供様軍団をエモシオンへの旅に連れ出して、社会勉強して貰う事。
ならば、その落としどころが……
子供達がしっかり学べる、村の学校創立&開校計画でも良いと思う。
村に居る子供の人数とか、考えたら、やはりこの町にある私塾くらいの規模だろうが……
理想を言えば……教えるのも、手が空いた大人というのを少しは変えたい。
毎回先生が変わる、イレギュラーなものではなくてね。
まあ専任の教師なんて、村には居ないし、誰かがなるのも難しいって分かってる。
でも、前もってスケジュールを決め、『授業』自体を定例化して行えれば……
本業の仕事と棲み分けが出来て、同じ先生が連続で教えられるかなとも思う。
ふと見れば、少し離れた席で、まだまだ子供達は自分達の世界へ入っている。
相変わらず、熱心に話していた。
俺達大人へ、全く注意を向けてはいない。
ならば今が、内緒話をするチャンスだ。
俺はまず、声を落とし、嫁ズに相談してみたのであった。