第13話「女は明日に生きる、男は思い出に生きる①」
文字数 2,432文字
今夜は俺、グレース&ベルの3人で寝る。
前にも言ったけど、ママと生まれたばかりの赤ん坊のコンビだから、ふたりが寝るのは早い。
夕食を食べて、7時過ぎにはもう寝ている。
まあ、ふたりのうち、すぐに寝てしまうのは、当然赤ん坊のベル。
母親のグレースは、暫く起きている。
敢えて言わなかったが……
俺は週に2回ペースで、グレース母子と一緒に寝ている。
出産直後から、グレースを労わるのは勿論、生まれたてのベルが気になって仕方がないから。
本当は毎日一緒に寝たいから、これでも全然少ないくらいだ。
まあ、こうなると物理的に、他の嫁ズとの『一緒寝』の頻度が低くなる。
だけどこれって、他の嫁ズに子供が出来た時も全く同じ対応をしていた。
だから、「お互い様!」って事で、基本的には嫁ズ全員が了解している。
但し、了解していると言っても日々『いろいろ』とある。
全員が生身の人間だし、ちょっとした行き違いもある。
先日の、レベッカとクーガーが良い例だ。
だから俺は、嫁各自と会話を増やしてコミュニケーションを取ったり、昼間いろいろと仕事のケアをして、全体のバランスをしっかり考えている。
都会で暮らす人には想像も出来ないだろうけど、大家族で楽しくやるのも、いろいろと大変なんだ。
そんなこんなで……
今夜もお約束通り、ベルが先に寝た。
寝顔はまさに天使の寝顔。
本当に、グレースそっくり。
「ベルは、パパの貴方に似てますよ」と、グレースは笑顔で否定するけど、絶対に超美人の母親似。
なので、とても嬉しい。
将来が楽しみである。
こうして、俺とグレースは2時間くらい話してから寝る、いつものパターンに。
実は今夜、ちょっと話したい事があった。
話す際に、少しためらいはあったけど。
グレースの、『心の琴線』に触れる事かもしれないから。
話というのは……
エモシオンにオープンする、アンテナショップの件である。
何故かというと、グレースはオベール様と『離婚』後、エモシオンに一回も行っていない。
まあ、それが俺とグレース、そしてオベール様との約束だから当たり前なのだが。
グレースとオベール様、離婚したふたりは、もう会わない方が良いと決めたんだ……
但し、気になる事があった。
携わっている主要メンバーは勿論だけど、他の嫁ズも今回募集するアンテナショップの仕事には興味深々。
販売員やカフェの調理、給仕などをぜひやってみたいって。
クラリスが、可愛い制服も数種類考案中だから、とっても楽しみだ。
え?
メイド服?
当然あります。
サキなんか、ぜひ着てみたいって、自らデザインするくらい。
最近の俺は、月に2回ほど、エモシオンへ行って数日滞在する。
オベール家宰相の仕事もやりつつ、アンテナショップの仕事もするわけだが、主要メンバーではない嫁ズから、「同行して手伝いたい!」って話が出ている。
アンテナショップの舞台がエモシオンなので、グレースへは、敢えて話をしていなかったのだが……
一応、意思確認をしなければ、と思ったのだ。
お
だから、いつも会話は心と心の会話、つまり念話なのである。
俺とふたりきりになると、グレースは凄い甘えん坊へと変貌する。
まあ嫁ズは皆、そうなんだけど……
中でもグレースは、俺と一緒に王都へ行って以来、心が思いっきり解放されたというか……
一緒に寝る時は、殊更、俺にくっついて来る。
で、俺は……
『グレース、ちょっと聞きたい。一回は約束した事だけど……』
『何でしょう?』
『嫌だったら、その話は言わないでと、告げて欲しいんだ』
『はい、分かりました』
『ええっとさ、アンテナショップ、どうする?』
と、聞いてみたら……
『エモシオンには行きません』
即答であった。
これだけで、もう今夜の用件は半分済んだ。
『そうか……』
『いつも私を、お気遣い頂きありがとうございます……と、いう事で、申し訳ありませんが、アンテナショップもお手伝いしません』
『了解』
俺が短く返事をすると、
『この前、レベッカちゃんとクーガーちゃんの事があったからでしょ? この件に関しては旦那様と私、お互いにもう気持ちは分かっているけど……一応は聞かないとって……』
『う、うん…………』
『もしかして、アンテナショップに関わらない私がのけ者になるって、気にしてるとか……ちゃんと考えてくれたのね』
ああ、やっぱり見破ってる。
俺の考える事なんか、大体、嫁ズには全てお見通しなんだ。
『お、おお……』
思わず、口籠って返事をすれば、
『うふふ、旦那様はいつも優しい。ありがとう!』
ああ、グレースの癒し笑顔。
そして、「ちゅ!」って、キスもしてくれた……
グレースだけじゃなく、嫁ズから、感謝の言葉と共に言われると、
俺は「明日も頑張ろう!」って強く強く思う。
『何か……旦那様達とオベール家が、これからやる事は、にぎやかなお祭りみたいで、楽しそうですね』
『…………』
『そういう場所へ連れて行けば、私は勿論、ベルも凄く喜ぶかもしれません』
『…………』
『でも……ベルには可哀そうだけど……私はもう、エモシオンには二度と足を踏み入れない、って決めてます』
『分かった……』
『うふふ、敢えて説明はしませんけど、旦那様なら、私の気持ちが分かると思います。……なんなら私の心を読んで下さい』
「私の心を読め」というグレースの気持ち……
だが、読まずとも、俺には彼女の気持ちがとても良く分かっていたのであった。