第10話「授業再開」

文字数 2,316文字

 俺とフレデリカは今、広大な大空を飛んでいる。
 飛翔魔法を使って、ゆうゆうと飛んでいる。
 地上から300m強ってとこだ。

 フレデリカの両腕は「しっかり」俺の背中に回されていた。
 当然俺も「がっつり」フレデリカを抱きかかえていた。

 魔境から、ず~っと続く真っ蒼な大空。
 純白の千切れ雲があちこちに浮かんでいる。

 眼下には濃い緑一面の針葉樹の森が広がる。
 そう思ったら森がなくなり、萌黄色の大草原が開ける。
 ペン圧が強い人が描いたような、太い線のように流れている川も見える。
 川の先には鉄紺のような色の湖が横たわっていた。

 俺とフレデリカが見ている様々な景色が目に入っては、あっという間に後方に飛び去って行く。
 その繰り返し。

 時間は……少し(さかのぼ)る。

 魔境からアールヴの国イエーラへどうやって移動しようかと、俺はフレデリカと相談した。
 移動手段は転移魔法か、飛翔魔法。
 一長一短がある。
 
 転移魔法はあっという間に戻れるが、俺はこの世界での制御(コントロール)に不安があった。
 下手をすれば、まったく未知の場所に出てしまう可能性がある。

 一方、飛翔魔法は時間がかかるのが難点。
 しかし真っすぐ南へ向かえば、イエーラには確実に着く。

 どうするか聞いたら、フレデリカは即答。
 そして、可愛いおねだりも。

「私、断然、飛翔魔法! だって! お兄ちゃわんと大空を飛びたいもの」

「そ、そうか?」

「うんっ、それとお願いっ!」

「何?」

「私まだ上手く飛べないし、速くも飛べない。だから……お兄ちゃわんが抱えて飛んでくれる?」

「お、おお、まあ良いけど……」

 というわけで、俺とフレデリカは抱き合い身体をぴったり密着させて大空を飛んでいるのだ。

 俺は、飛びながら苦笑する。
 さっきのフレデリカの話は多分……

「フレッカ、お前って本当は飛翔魔法、得意だろう?」

「うん、得意!」

「こいつぅ」

「えへ、御免! でもお兄ちゃわんと、こうやって飛びたかったから」

 ぺろっと舌を出すフレデリカ。
 うん、大丈夫、許す!
 美少女は悪意のない可愛い嘘など、簡単に許されるのだ。

「OK! 問題無し」

「うふふ、ちゅっ」

 フレッカ、すぐキスしたがる。
 お前はキス魔か? 超甘えん坊め。
 可愛いな……この子は。
 俺の嫁ズには居ないタイプ。
 完璧な妹キャラだ。

 そうこうしているうちに、猛スピードで飛んだ俺達はイエーラの上空に入ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 俺達はフレデリカの家がある、イエーラの都を目指して飛んでいたが……
 眼下の大地で何か異変を感じた。
 俺の目はスキルによって地上の細かな部分まで捉えられる。

 小さな村があった。
 丸太を組んだ簡素な柵により何とか守られている村。
 板張りの粗末な正門があるが……今にも破られようとしているのだ。
 凶暴な魔物の群れによって。

 目を凝らすと魔物が何か分かった!
 おなじみのオーガだ!
 オーガは人間だけではない、アールヴも含めて何でも喰らうおぞましい魔物、その大群だ!
 さっき魔境で、俺達を囲んだ奴等より断然多い。
 軽く、倍の200以上は居る!

 破られまいと、門を支えているのはほんの僅かなアールヴの戦士達である。
 急がないと彼等戦士は……いや村民が全滅だ。

「フレッカ! 村を救うぞっ」

「はいっ、お兄ちゃわん」

 ここから俺の授業第2時限目も開始。
 そう、クッカ直伝の魔法剣士の戦い方をフレデリカへ教授するのだ。

『フレッカ、ここからは念話で行く。お前に戦い方を教えるが最初に言った通り見て盗め。これから行う実戦でな』

『はいっ』

『お前は空で待機しろ。周囲に注意しながら防御に徹して上空から見守ってくれ。俺が単独で戦う! 戦い方は通常以外に、至近距離での属性魔法の連発を入れる』

 前に言ったが、通常の術者の場合、魔法発動には少々の時間がかかる。
 言霊の詠唱を開始して終了、そして魔法が放たれるまで若干のタイムラグが生じる。
 しかし俺は、無詠唱で魔法を連発出来るから。

『剣技、そして魔法、加えて、俺は天界拳を使える』

『天界拳?』

『創世神様の教える拳法だ。もしかしたらお前のおじいちゃんが知っている。俺がこの世界から去ったら、習え』

『え? さ、去るって、お兄ちゃわん!』

『落ち着け! 時間が無いから、話を続けるぞ! この3つを組み合わせての無双スタイル。これこそ俺の認める完璧な魔法剣士の戦い方なんだ』

 魔法剣士は魔法剣を携えて戦う。
 剣に属性魔法を宿し、どのような相手とも戦える万能の戦士なのだ。
 フレデリカはまさにそれ。
 愛用のミスリル剣に3種類の属性魔法を宿し、戦う。
 但し、攻撃魔法は遠距離からのみ。
 
 俺の場合は剣技&天界拳&遠近で放つ魔法も武器とする超万能戦士。
 愛する嫁のクッカにより、叩き込まれた無敵キャラ。
 フレデリカにも、ぜひそうなって欲しいから。

『完璧な魔法剣士!』

『そうさ! 俺は火と風の魔法を果断なく連発し、剣技と天界拳を組み合わせて戦う』

『りょ、了解! フレッカ、お兄ちゃわんの戦いをしっかりとこの目に焼き付けます』

 オーガの群れの上空約50m……フレデリカは自ら飛翔魔法を発動する。
 小柄な身体が俺から離れて、ふわっと宙に浮く。 

 俺はフレデリカへ手を振ると、回り込んでオーガの群れの背面側へ降りて行ったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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