第3話「特別な店②」
文字数 2,724文字
「うん! そうだよ」とクーガー。
「はい! 旦那様とクミカの故郷も、結構な田舎でしたから……ボヌール村と同じ悩みを抱えていました……アンテナショップは予算がなくて、実現しませんでしたけど」とクッカ。
俺の懐かしい故郷、そして現在住むボヌール村には、共通の悩みがある。
少子高齢化、過疎、そして前世では不景気という名の貧しさ……
スローライフを夢見た故郷も、将来に対して、不安が大いにあったと思う。
若い俺がユーターンすると聞いて、役場はすごく喜んでいたから。
だって……
住居費は、無料でリフォーム済みの、庭&車庫付きの2LDK空き家を無償で貸与。
生活費の補助もしてくれ、何と仕事までも世話してくれる、破格の好条件まで出して来たから。
クミカは生前、役場に勤務していたから、事情を良く知っているだろう。
「アンテナという言葉の意味を含めて、前世の説明をすると、凄く長くなるから省略するけど……簡単に言えば、ボヌール村の宣伝をしながら、村の特産品をエモシオンで売る店さ」
「???」
「???」
「???」
俺が説明しても……嫁ズは、まだ?マーク満開。
もっと、説明が必要だ。
「あはは、更に説明するよ。今は村の特産品である蜂蜜やハーブを、たまに立ち寄る商隊に卸して、エモシオンや隣のジェトレ村、そして王都で売って貰っているだろう?」
「そうです」
「大空屋の大事な売り上げになっているよね」
「村の貴重な収入です」
「うん、問題はその後さ」
「その後?」
「もっと説明をお願いします」
「そうそう」
「分かった! 商隊が村の特産物を売る時の事を想像して欲しい。……商隊にとって俺達は単なる取引相手のひとつだ。彼等は他の地域から仕入れた様々なものと一緒に売る。ボヌール村産だと、特別に強調して売ったりはしない」
「ええ、その通りです」
「普通に売るでしょうね」
「他の商品と、一緒に並べられるわ」
嫁ズは俺の説明を聞いて、村の商品が売られる光景を思い浮かべたようだ。
雑多な商品が並ぶ中に、混ぜられて沈んでしまう。
様々な場所から仕入れた、たくさんの品物を扱う商人からすれば、仕方がない事だとは思うが……
ボヌール村を愛する俺としては、酷く虚しくなる。
「なぁ、そんなのって、すっごく味気ないと思わないか?」
「確かに!」
「何か、大勢の中の単なるひとりって感じね」
ここでクーガーが「くすっ」と笑う。
「うふ、前世ではそう言うの、モブキャラって言ってたわね」
クーガーったら、面白い事を言う。
言い得て妙。
確か、モブキャラって、その他大勢に見える群衆キャラって意味。
我が村の商品には、ぜひ主役を張って欲しいのに。
プロの商人とはいえ、村へ愛のない赤の他人に任せたら、絶対に埋もれてしまう。
俺は頷き、説明を続ける。
「モブキャラか、その通り。だからさ、どうせ売るなら、村のアピールをしつつ、楽しく売って貰うのはどうかと思ってさ」
「村のアピール?」
「ええっと、アピールって宣伝ですよね?」
「もう少し具体的に!」
「了解! 例えば、クッカやリゼットの作ったハーブティや蜂蜜入りの紅茶を美味しく飲ませるカフェとか、クラリスの縫った綺麗で可愛い服を人形に着せて、おしゃれに売る店にしてとか……ボヌール村ってこんな素晴らしいものを作っているって印象付けるんだ」
「あ、あああ!」
「それ! 良いかも!」
「素敵!」
カフェ&洋服……
華やかなイメージが、「ぱっ」と浮かんだのであろう。
嫁ズは、夢見心地。
中でも、リゼットは特にそう。
カフェを開く長年の願望が叶うと想像したのか、目をキラキラさせて、俺と出会った時の夢見る少女に戻っていた。
だが、ここでもクーガー&クッカのチェック&突っ込み!
「でも旦那様、問題があるよ」
「そうそう、アンテナショップって経営がとっても難しいです。そう簡単には行きませんよ」
クーガー達の突っ込みに対し、他の嫁ズから疑問の声が飛ぶ。
「問題?」
「一体、何の問題が?」
「村の素敵な特産品を売るだけでしょ? 経営が難しいって、分かりません」
それらの質問に答えるのは、この俺である。
「いやいや、店だから、当然利益を出して経営して行かなければならない。だけど俺の前世で聞いた限り、黒字のアンテナショップを経営するのは難しいんだ」
「本当?」
「どうして?」
「何故?」
「良く考えてみてくれ。ボヌール村の大空屋は競合相手が居ない、独占状態じゃないか? 一軒しかないから、村の人は全員大空屋で買い物をする」
ここで、クーガーがフォロー。
「だけどエモシオンは、このボヌール村とは違うものね、旦那様」
「そうだ! 小さな町だけど、ライバルとなる店がたくさんある」
俺が同意したのを見て、他の嫁ズも考えが及んだらしい。
「ああ、そうか! 蜂蜜も服も他に素敵な商品がいっぱいあるものね。簡単に負けるとは思わないけど」
「納得です!」
「他にお茶や蜂蜜や服で、どんなライバル商品があるか……私達には分かりませんものね」
「だろう? 俺達には村の商品に対する愛……すなわち特別な思い入れがある。だが、初めて買うお客さんにはない。ついている値段が妥当かの判断もあるし、絶対売れるとは限らない。それと経費の問題もある」
「経費?」
「店の家賃とか……ですか?」
「家賃か……確かに、毎月払うのは大変かもしれません」
嫁ズにも、だんだん話が見えて来て納得し、頷きながら考えている。
俺は嬉しくなり、笑顔で説明を続ける。
「ああ、店を買うわけにいかないから、当然借りる。となると持ち主に要求された家賃を払う」
「ああ、それって……結構なお金かも」
「ですよね」
「大空屋は自前だから、家賃なんて不要ですけど」
「そうだ。そして、俺達はエモシオンには住まない。だからたまには手伝うけど、店員は基本的に町の人を雇う。雇った人に充分な給金を出さなくてはならないが、一体、どれくらい金がかかるか、分からないぞ」
「…………」
「…………」
「…………」
黙り込んでしまった嫁ズ。
夢は、遠のいた……
そんなショックを、受けてしまったらしい。
「ははは、でも対策は考えているし、アンテナショップって、メリットも大きいんだ。それをこれから話す」
俺はそう言い放つと、嫁ズをじっと見つめたのであった。