第17話「お子様軍団の社会科見学①」
文字数 3,145文字
「さすがにまずい!」と思ったので、俺はカルメンへ、さりげなくフォローしておいたけれど……
さてさて、じゃあ俺達も出発だ。
表向きは、オベール様のエモシオン視察って名目。
ここで改めてメンバーを言うと……
オベール様、イザベル様、フィリップ……様のオベール家。
そしてユウキ家。
俺、クッカ、クーガー、レベッカ、ミシェル。
タバサ、レオ、イーサン、シャルロットの都合12人。
更に、護衛が8人。
内訳は城館詰めの従士が4人、町内警備担当の衛兵がふたり。
カルメンの部下である冒険者がふたり……
護衛の任務は前後左右を固め、万が一現れた不埒者から、俺達を守る事である。
俺とクッカ、クーガーは索敵の魔法を使うから、賊の奴らが行動する前に『処理』するけどね。
そんなこんなで全員が歩き出すと、いきなりタバサがダッシュして、俺の左手をぎゅっと掴んだ。
「パパ、一緒に歩こう、デートだよ」
目をうるうるさせながら、タバサが言う。
愛娘のセリフを聞き、クッカが苦笑している。
やっぱり、この子は『パパっこ』だって言うように……
すると、負けじとばかりにシャルロットも、俺の右手を掴んだ。
そして、
「パパ、私もデート!」
「あはは、旦那様、両手に花じゃない」
自分の姉に負けまいとする、愛娘の猛アタックを見て、ミシェルも笑った。
こういう時は素直どころか、オーバーアクションで喜ぶのが、父親の心得なのである。
「おお、やった! タバサ、シャルロット、パパは最高に嬉しいぞ。本当にデートしてくれるのか?」
と、俺が聞けば、
「うん! タバサは、パパとしかデートしないもん」
「シャルロットも! パパじゃないと嫌!」
とタバサとシャルロットはパパっこぶりを発揮。
嬉しくなった俺は、「もう何でもしてあげる!」って気持ちになる。
「よ~し! 今日は最高のデートをしよう!」
「やった!」
「デートぉ!」
というわけで、お子様軍団の女子ふたりはご機嫌。
で、男子はというと、こちらは『ママっこ』
レオはクーガーと、イーサンはレベッカと、手を繋いで話している。
まあ、こちらも安心だ。
でも……何か視線を感じる。
誰か?
と思えば、フィリップだった。
両親であるオベール様とイザベルさんに手を繋がれているのに?
魔法使いである俺は、フィリップから魔力の波動を感じる。
感情のこもった熱い波動を。
これは、激しい羨望の感情である。
でも何故?
と思い、少し考えた俺には分かった。
大好きなパパとママと3人で歩くのは、確かに楽しい。
楽しいけど……フィリップは大好きな『兄上』の俺とも歩きたいのだ。
そして……もうひとり……
フィリップの熱い視線はタバサへも注がれていた。
ふうん……そうか。
成る程、これは少しケアが必要かも。
すかさず俺は、クッカとミシェルへ『念話』で事情説明と指示を入れた。
状況を理解したふたりは、すぐ動いてくれた。
オベール様夫婦への対応をしながら、しっかりフィリップへ、ケアをしてくれたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
予定通り、俺達は町の正門へ向かった。
何故、正門なのか?
それは、正門が町の重要な場所だから。
俺達は正門へ着くと、了解を貰い、外へ出た。
大人数の俺達に気付いた門番のドニ達が会釈をし、入場手続きの仕事を続けている。
挨拶に来ないのは、
オベール様に了解を貰った上で、俺は門番や従士、衛兵達へ仕事優先を徹底させていたから。
お偉いさんが行けば、仕事そっちのけでぺこぺこする場合も良くあるじゃない。
だけど、このエモシオンは違う。
緊急事態や特別に呼ばない限り、各自が命じられた業務を粛々と遂行するのだ。
子供達は、昨日会った門番のドニを見つけ、指をさしている。
「あ~、昨日の門番さん」
「忙しそう!」
「朝なのに、いっぱい人が居る!」
以前も話したと思うけど、最近エモシオンの評判が良い。
治安も景気もね。
だから安全に暮らしたいとか、商売で一旗あげようとする移住希望者が出て来ているという。
そこまで行かなくとも、観光目的や長旅の途中の宿にという旅行者とか、結構な人が訪れるようになった。
こんな南方の、辺鄙な田舎町なのに凄いと思う。
その為か、朝というのに結構な数の人が居て、入場手続きをする門番や衛兵達は大忙しだ。
「みんな、聞いてくれ。少し説明するぞ」
俺がそう言うと、早速『司令塔』のタバサがフォローしてくれる。
「静かに! これからパパがお話しするからね。全員注目!」
タバサの号令を聞き、子供達は雑談をやめ、俺の方へ顔を向けてくれた。
俺はタバサにウインクし、話を始める。
「門番さん達の仕事はたくさんある。まずは町へ来た人のチェックだ」
「チェック?」
「?」
「ああ、話してるよ」
「何か、見せて貰ってる」
「うん! チェックというのは、町へ入る前に、貴方はどこの誰で、町へ来た理由は何ですか? って聞くんだ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
子供達は黙って聞いているが、あまりピンと来ないらしい。
ならばと、俺は改めて説明する。
「皆、思い出せ、昨日の戦いを」
「え? 戦い?」
「ううう……」
「怖い…………」
「パパ……」
子供達は一斉に怯えの表情を見せた。
無理もない。
昨日の今日。
戦いの、生々しい記憶が残っているだろう。
でも、今は教育の時間。
可哀そうだが、分かり易い『例え』を使う。
鉄は熱いうちに打て……だ。
「ああいう怖い人が来て、町へ無理やり入ろうとしても、門番さんが身体を張って止める。だから町の中が平和なんだよ」
「凄い!」
「大変なんだ!」
「ドニさん、強そうだものね」
「カッコイイ!」
「ああ、強くてカッコイイ。俺達のボヌール村でいえば、ガストン副村長達がやっている。イーサン、爺ちゃんを誇らしく思って良いぞ」
俺がそう言うと、イーサンは嬉しそうに笑った。
イーサンのママであるレベッカの父、ガストンさんは孫をとても可愛がっている。
当然、イーサンもおじいちゃんが大好き。
そのおじいちゃんは、ほぼ毎日、村の正門脇の
そんな祖父が、改めて凄いと思ったのだろう。
笑顔のイーサンは言う。
「うん! じいちゃんはカッコイイ! でもパパもやってるよね、門番」
「ああ、やってる。ママ達やお前達を守りたいからな」
「うん! ありがとう、パパ!」
俺とイーサンの会話を聞き、他の子供達も叫ぶ
「アンリ兄ちゃんもやってるよ!」
「アメリーちゃんのパパも……」
「この前来た、似た顔の人達も!」
顔が似た人達って……デュプレ3兄弟か。
はは!
子供って、良く観察してる。
うん!
アンリも3兄弟も、村へ遊びに来た時から門番を志願してくれた。
村に、少しでも早く溶け込みたいって。
そして村を守りたいって!
彼等の心意気が俺は嬉しい。
頑張り過ぎて、オーバーワークにならないよう、気を付けてやっている。
そして今日、子供達がそんな大人の仕事と気持ちを理解してくれた。
俺は更に嬉しくなり、子供達へ優しく微笑んだのであった。