第5話「領主&村長の最強企画」
文字数 3,239文字
翌日は、リゼット父ジョエル村長との話し合いを行った。
義理父ジョエルさんはこれまでに、どんどん俺に仕事を振っていて、普段は相当暇そうだ。
でも「暇でしょ?」なんて言ったりしたら、「何、言ってる。村長業務の引継ぎをしているんだ」と、返されそうなので、敢えて突っ込まない。
奥さんの、フロランスさんも呆れている。
だが、少しでも早く俺に村長を継いで欲しいらしく、最近は夫へ何も言わない……
気のせいか、ジョエルさん……
近頃は悠々自適オーラを「びしばし」と出している。
で、空いた時間に何をしているかといえば、ほぼ決まっている。
リゼットの娘――すなわち孫のフラヴィと仲良く遊んでいるのだ。
はっきりと、心の中だけで言おう。
ジョエルさん、貴方は完全に『お爺ちゃん化』していると。
孫のフラヴィが可愛くてたまらない、幸せ人生なのは良い事だけど……
まだまだ貴方は50代ですよ、充分若いのだから、ガンガン働いてください。
俺がさりげなくジト目ビーム、冷たい眼差し攻撃をしても、完全に無効化されてしまう。
……全く、効き目がない。
なので仕方なく、本題のアンテナショップの件のみを話したら……
意外にも……あっさりOKしてくれた。
それも単にOKだけではなく、村からの予算負担分として、金貨100枚を出してくれたのである。
予算として凄く多いとは言えないが、気前は良い。
やはりジョエルさんも、村の将来をだいぶ危惧していたようだ。
結構、嬉しいかも。
「ケン、その店、お前にしてはナイスアイディアだ。まあ、私のアイディアには到底及ばないがな」
俺を誉めながら、「自分のアイディアの方が全然上だぜ」と自信満々に言い放つジョエルさん。
自慢するのは良いけれど……
俺は、ジョエルさんの話自体に、吃驚してしまう。
だって、
「え? 親父さんのアイディア? あったんですか、そんなの?」
「失礼な! 私の施策はもう長年に渡って実施され、村への移住者集めに貢献しているのだぞ」
私の施策?
長年に渡って実施?
移住者集め?
何、それ。
そんな企画自体やってたの?
貴方と一に緒に、5年以上仕事をして来た村長代理の俺が、全くの初耳なんですけど……
「えっと……親父さん、その施策って良かったら、教えて貰えませんか? 後学の為に」
「ああ、良いぞ。ちょうど予備がある」
予備?
予備って何?
ジョエルさんはゆっくり立ち上がると、別室へ向かい、何かを小脇に抱えてすぐに戻って来た。
筒状の紙を巻いたものだ。
何だろう?
ぱらり……
巻いていた紙が、俺の前にさらされる。
「え?」
思わず声が出た。
紙は、何と!
ボヌール村、村民募集の『ポスター』であった。
「どうだ! 素晴らしい誘い文句だろう、あはははは! 許可を貰う際、オベール様にも、たくさんアドバイスを貰った」
「…………」
俺は無言。
と言うか、呆れて言葉が出なかった。
義理父ふたりの、超絶なセンスに……
「この紙は、ジェトレ村や王都にいっぱい貼ってある。あまり近場に貼っても、意味がないからな」
「…………」
「どうだ? 素晴らしいだろう? フロランスには、絶対に駄目だと却下されたがな……諦めきれず、こっそり内緒で作った。男同士なら、分かる筈だ」
「…………」
俺がそこまで呆れた内容、それは……
大自然あふれる、色気ムンムンな美少女村ボヌール!
元気バンビンな、熱血村民大募集!
性別、年齢不問!
詳しくは村長まで!
下ふたつの、募集の文言はともかく……
『色気ムンムンな美少女村』とか、『元気バンビン』などという、痛いキャッチコピ―には引いた。
個人的には、楽しいし面白いけど……
こういう、真面目な村民募集の趣旨にはそぐわない。
思いっきり、下手な文字で書いてあるし。
加えて、ビジュアルには超が付く絶句……
某有名前衛画家が描いたような人間離れした顔の、意味不明な半裸女性が笑いかけていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジョエルさんに、アンテナショップ開店のOKを貰って数日後の朝……
俺と嫁ズ選抜は、エモシオンへ出発した。
ちなみに今回のメンバーは、俺、リゼット、クッカ、クーガー、ミシェル、クラリスという布陣。
リゼットは久々のエモシオン行き。
クーガーは、固定の護衛役。
ミシェル、クラリスも、仕入れの固定メンバー。
レベッカは、自ら村の守り手を買って出たので留守番。
グレースは身重で出かけられないし、元々エモシオンには行かないと決めていたから留守番。
グレースに付きっ切りのソフィも、『姉』と一緒に留守番。
ちなみにソフィに関しては、最近『夢』で逢っているから、オベール様も寂しがらない。
ちなみに、従士は馬車をけん引するベイヤールのみ。
ケルベロスとフィオナは、レベッカと共に守り手として留守番。
ジャンには『別件』を頼んだ。
さて、俺達は……
例によって、村道の途中まで馬車で走り、「さくっ」と転移魔法。
エモシオン近くの、雑木林までスキップ。
そして、いかにも長旅って疲れを装い、正門へ。
顔パスなんで、すぐ城館へ案内される。
もう楽勝、楽勝。
いつものパターンで、午前早めのタイミングで到着したから、城館では昼食になるだろう。
昼飯を食べながらの、相談になりそうである。
実は例の夢魔法で、オベール様へアンテナショップの件は申し入れ済みなのだ。
結果は……その場で、基本的にはOKが出た!
基本的と言うのは、奥様のイザベルさんに了解を貰ったら、本決まりという事。
そして……
あの、『とんでもポスター』だが……
結局俺は、誰にも他言せず、完全封印する事に決めた。
新たな人材をボヌール村へ呼びたい!
真剣に考えた領主と村長の『熱意』だけは買うし、理解はするけれど……
趣旨が同じ今回の打合せでも、一切話はしないと。
悪いけど……
あんなキワモノを、作り許可するような、義理父ふたりの『黒歴史』は表に出すべきではない。
嫁ズのうち、少なくともリゼットとミシェルは、悪趣味な父に対し、不機嫌の極致に達するだろう。
そして、義理母ふたり……
ポスター制作に反対したフロランスさん、ポスターの存在すら知らないイザベルさんに、もしもばれたら……
王都や隣村に、あんなものがバンバン貼られている事実が分かったら……
「よくもオベール家やボヌール村のイメージを、失墜させたわね!」
と、どんな凄まじい怒りがさく裂するのか……想像するだけで、怖ろしい。
家庭内に、「ごうごう」と凄まじいブリザードが吹き荒れるのは、間違いない。
ちなみに、ジャンへ頼んだ『別件』とは……
文言と図柄を見せたらとても嫌がったが、無理やり命じて、『とんでもポスター』の撤去を命じた事。
全てのポスターをはがして、闇に葬れと……
そういえば、思い出した!
村の美少女目当てで、魔王軍の変態狼男が来たのは、あのポスターを見たからじゃないのか。
「おお、婿殿、良く来たな」
オベール様、手を振っているけど……
何か、小脇に抱えてるぞ。
あれって、何だ?
ま・さ・か!?
巻かれた紙……あの色は……例の!?
ポスター!?
やばい!
今回の話の流れで、『参考資料』として持って来たんだ、オベール様が。
瞬間!
俺はパチンと指を鳴らす。
必殺引き寄せの魔法! ……の応用!
俺はオベール様から、やばいポスターを強引に奪い取り、「さくっ」と空間魔法で隠していたのであった。