第10話「全員で踊ろう!」

文字数 2,186文字

 数時間経ち、祭りはもう終盤へ差し掛かっている。
 陽も完全に落ち、かがり火が焚かれた。
 
 やはりというか、初めて体験する屋台のゲームは、村民達には大うけ。
 子供は勿論、俺達大人も楽しんだ。 
 
 美味い料理や菓子も、たっぷり食べた。
 充分堪能、腹いっぱい。

 そんなこんなで、プログラムは、ただいまダンスタイム。
 村の中央広場は、にぎやかな音楽が鳴り響いている。
 
 演奏しているのは、総勢10人ほどの楽団だ。
 彼等彼女達は、雇われたプロの楽団ではなく、全員村民なのである。
 
 思い起こせば、俺が来るまで、ボヌール村には楽団などなかった。
 今日明日の生活に汲々としていて、音楽を演奏して楽しむなんて、余裕もなかった。

 俺と嫁ズが結婚した際、オベール様が手配した楽団に刺激を受けたらしいが……
 以降、村民の何人かが少しずつ様々な楽器を買って、村には小さな楽団が出来ていた。
 当時の村長ジョエルさんと相談し、村も援助したので、楽団への参加人数も徐々に増えて行った。

 以来、何か祝い事があると、この楽団は演奏をするようになっていたのだ。
 
 演奏メンバーは、老若男女問わずいろいろ。
 日々猛練習をしていた甲斐あって、これがなかなか上手い。
 その楽団の演奏に乗って、ダンスは盛り上がりの真っ最中だ。

 さてさて……
 当然ながら、俺は嫁ズ9人全員と踊る。
 お子様軍団も混ざってね。
 久々に踊ると楽しい。
 スカッとする。

 少し休憩って事で、フェードアウトして、家族皆で地面に座る。

 アンリはと見れば……
 婚約者のエマと、仲良く踊っていた。
 息の合った、むつまじいふたりって感じ。
 もう少し経てば、村へ移住する事になるだろう。

 そして、デュプレ3兄弟はどうしたかと、気になって見てみれば……

 ここ数日の滞在の間に、いつのまに親しくなったのだろうか?
 村の可愛い女子達から誘われて、全員がペアで踊っていた。

 3兄弟は、ソフィへ声を掛けて来なかった。
 さすがに、主には「踊ろう!」とは言えなかったみたい。

 もしかして、俺の嫉妬を感じたのだろうか?
 ああ、何て、器が小さい俺。
 でも、仕方がない。
 ソフィが3兄弟と仲良くするのを見て、正直、ちょっとだけジェラシーだったから…… 

 それに何と!
 アベル、アレクシ、アンセルム全員が豹変している。
 3人共踊りながら、爽やかな笑顔を浮かべていたのだ。

 おいおい、何だ? その笑顔は!
 「青春が戻って来ました」って、言ってるような。
 いつもの、苦虫を嚙み潰したような仏頂面(ぶっちょうづら)はどうしたの?
 それに、相手の女子達も、まんざらではないみたいだし……
 うん!
 ……良かった!

 元気に嬉しそうに踊る3兄弟。
 3人を見たソフィが、悪戯っぽく笑う

「うふふ、旦那様。アベル達、とっても良い感じね」

「そうだな……でも良かったよ。これで彼等も、新たな人生へ歩き出せる」

 俺がそう言うと、ソフィの目が遠くなる。

「そうね……私が王都で行方不明になったのが分岐点かも……アベル達の人生は、あの時、違う方向の道へ変わってしまったんだものね」

 分岐点……道が……人生が変わった、か……
 でも……3兄弟のさしかかった分岐点は、アンリが遭遇し、選んだ道とも違う。
 騎士とは違う道を、自らエモシオン、そしてボヌール村へ来て選んだアンリとは、だいぶ異なるかも。
 
 分岐点経由の、別の人生へ歩んだんじゃない。
 行こうとしたどの道も完全にふさがれ、仕方なくその場に、足踏みしていたのだから。
 
 自分達は、人身御供となったステファニーを助けられなかった。
 どんなにあがいても、結局は何も出来なかった……
 という、忸怩たる思いが、3兄弟の人生の道をふさいでいた。
 しかし、ソフィとなったステファニーとの再会が、自責の念という障害物を取り除いた。
 
 もう3兄弟は、己の道を、自由に歩き出せる。 
 確信出来るから……

 俺はソフィへ言う。
 安心しろって!
 お前が彼等を救ったんだって!

「大丈夫! 無事で幸せになったソフィと出会えて、彼等3兄弟の人生は切り開かれたぞ。新たな出会い? と共にな」

「うふ! そうね!」

 微笑みながら、自分もまた踊りの輪に加わりたくなったのか、ソフィが誘う。

「ねぇ、旦那様、もう一回踊ろう!」

 するとララも、ママに刺激されたのか、

「パパ! わたしもおどる!」

「おう!」

 と返事をした俺だったが……

 あ?
 何か、強い視線を感じる。
 ぐるっと見渡せば、リゼット始め他の嫁ズとお子様軍団も、何かを訴えるように、じ~っとこちらを見ていた。

 よっし!
 こうなったら!

「おい! また全員で踊ろうか!」

 俺は再び家族全員で、踊りの輪の中へ飛び込んだのであった。 

※『人生の分岐点』編は、これで終了です。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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