第42話「ボヌール村で旅気分②」
文字数 3,031文字
俺は、レオ以下4人男子組を引き連れて、例の納屋へ行った。
驚いた事に、空っぽだった筈の納屋の中に、たっぷりと
また、子供なりに掃除もしてあって、若干だけど綺麗になっていた。
あれ?
何故か……見覚えがある。
唐突に、旧い記憶が甦る。
もしかしたら……これって。
そう、『秘密基地』だ。
故郷でクミカと遊ぶ前……
ガキ大将だった男の子の『先輩』に連れて行って貰った事がある。
遊び仲間の子供達が作ったそんな場所が、家の周辺に数か所あった。
行く前に、「絶対に秘密を守れよ」と、固く誓わされたっけ……
俺が懐かしさと感動で、驚いていると、すかさず男子組の大攻勢。
「ね! パパ、大丈夫だよ」
「兄上、泊まれるよ」
「バッチリ」
「パパ、ここおちつく」
それなりに準備もしてあるし、子供達は本気だ。
でも嫁ズに話せば……推して知るべし。
絶対に反対される。
何故ならば、少し綺麗になったとはいえ……
大事な子供を寝かせる場所じゃないって、俺だって思うもの。
悩む俺は、軽くため息をつく。
確かに無理をすれば……泊まれる……
素泊まりで、火は絶対に使えないけど。
でも念の為、レオ達へ理由を聞くか……
この小屋へ、ここまでこだわる理由を。
まあ何となく分かるけど。
「お前達、聞いて良いか? どうしてこの小屋へ泊りたいんだ?」
と、俺が尋ねれば……
「ママ達だよ」と、レオ。
「うん、兄上。レオの言う通り……話していると、いっつも部屋を覗くんだ」と、フィリップ。
「男だけで、話しているのに……ねぇ、ちょっと良い? って、部屋へ入って来るんだ」
と、イーサン。
「ママ、じゃま。ここなら来ない」と、ポール。
やっぱりか!
男子組は、嫁ズ……すなわち自分のママ達から、必要以上に干渉されたくないんだ。
例の『事件』で、何かと締め付けが厳しくなったからかな?
だとすれば、俺にも責任の一端があるぞ……
どうするか……
少し考えた俺は、男子組に新たな提案をしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の夜……
俺と男子組は、自宅には居なかった。
じゃあ、例の納屋に泊まったのかって?
いやいや……
やはり嫁ズからは、猛反対の嵐で却下された。
「汚い、危ない」と言われ、「絶対に許可出来ない!」と言われたのである。
しかし、俺もそのまま引き下がったわけではない。
男子組が納屋に泊まりたいと言った理由を詳しく話し……
嫁ズが部屋を覗く頻度を押さえて貰ったのである。
まあ俺は、子供を心配する嫁ズの気持ちも分かるし、実際いろいろなやりとりはあったけど……
そして俺が男子組へ、納屋宿泊の代わりに提案した新たな企画とは……
子供達と、また「旅に出る」事。
かといって、ボヌール村を出るわけではない。
大空屋の宿屋へ、男全員で泊まるのだ。
具体的にいえば、大空屋の宿屋の、それも20名宿泊可能の大部屋にたった5名で泊まる。
これ、解放感たっぷりなのは確実。
そもそも大空屋の宿屋は、完全にお客さん用。
俺も子供達も、宿の食堂で飯を食った事はあっても、宿泊した事なんかない。
だから結構なサプライズ企画だ。
それに、前にも言ったけど……
最近はお客さんがとても増えて来た。
なので、大空屋は大改築を行った。
エモシオンから、腕の良い大工さんに来て貰ってね。
実は……
懇願されていた事もあり、少し前にミシェルを王都へ連れて行った。
観光はそこそこで、王都の様々な店を見て勉強したいという研修旅行の雰囲気が強かった。
宿泊は当然、あの白鳥亭だ。
かねてから、親友のレベッカの話を聞いていたミシェルは、部屋を見て大が付く感激。
とても喜んで、アールヴ風の内装をぜひ参考にすると、決めたのは言うまでもない。
結果、規模が広くなったのは勿論……
白鳥亭の様式を上手く取り入れて、大空屋の宿屋は素晴らしい内装に生まれ変わったのだ。
まだ改築して日が浅いから、全てがピカピカなのである。
今夜は幸い、お客さんの予定はない。
なので俺達が泊っても大丈夫。
大事に部屋を使い、しっかり掃除だけすれば良い。
食事だけはさすがに、嫁ズに協力して貰った。
ケータリング形式で、自宅から持ち込んだのである。
自分では作らないけど……
男同士で食べる飯なんて、以前従士達と旅行した時以来だから、凄く新鮮かも。
想像して欲しい。
子供達にとっては……
同じ村の中でも、大空屋の宿屋の中は別世界。
先日、エモシオンへ行った第一世代の子供達は、オベール様の城館に泊まった。
城館の宿泊部屋は、とても豪華な雰囲気で、とても喜んではいた。
でも、宿屋だって負けてはいない。
自宅は勿論、城の部屋とも全く違う趣きに、喜ばないわけがない。
え?
肝心の件は?
子供達は、ちゃんと納得したのかって?
うん、大丈夫!
ママ達が干渉し過ぎる件も、今夜は男同士で語り合う。
まずママ達が、『理解してくれた事』をしっかり話す。
子供だから、すぐに分かって貰えないかもしれないけど、根気良く話そうと思う。
それに、対等な男同士として話し合う。
こうして、レオ、フィリップ、イーサン、ポールはまた一歩、大人への階段を上るのだ。
そうそう……やはりというか
「男子ばっかり贔屓してズルイ!」って、タバサ達から猛抗議が来た。
なので、明日の晩は嫁ズとタバサ、シャルロット、フラヴィ、ララ、そしてベルの女子軍団が宿へ泊る。
女だけで水入らず、『母と娘の旅』って奴だ。
またタバサ、シャルロット、フラヴィ、ララは……『父と娘の旅』もやりたいと言って来た。
まあ問題はない。
近い内にママ抜き、パパの俺だけとも泊まる事で、今回の件をようやく納得してくれたのである。
でも、よくよく考えたら、この企画って、とっても使えるかも……
いずれ子供達は成長して、ボヌール村を出て、旅する事もあるだろう。
村の中だけでずっと生活していたら、宿屋の勝手なんか分からない。
この模擬宿泊が、ちゃんとした予行演習になるのだから。
貴重な体験になるのは間違いない。
それに、子供達だけの企画に使うのは勿体ないと考え直す。
非日常を、すなわち旅気分を体感出来るって事で……
俺や嫁ズだけじゃなく、他の村民にも無料で宿泊OKを考えている。
新たな村の福利厚生って事で。
そう簡単に、旅行に行く事が出来ない村民はとても喜ぶだろう。
皆、新たな張り合いを持ってくれそうだ。
今回の企画は、男子組の不平不満……
否、大人への成長から生まれた。
でも、まさに瓢箪から駒。
雨降って地固まると言えるだろう……
こうして……
予想通り、わいわい盛り上がりながら……
俺と男子組の『お泊り』は良き思い出となった……
家族全員、自宅で過ごす夜とはまたひと味違う……
部活の『合宿』のような趣きだった。
『男だけの夜』は、あっという間に更けていったのである。