第10話「妬みと陰謀①」

文字数 2,050文字

 俺とクーガーはスキルと魔法をフル稼働して、ドラポール伯爵家へ忍び込んだ。
 この屋敷の当主が居る部屋は、すぐ分かった。
 索敵を使ったら、あの鬼畜男ウジューヌに似た気配を発していたからだ。
 場所は、3階の一番奥の書斎である。
 幸いにも人払いしているらしく、扉の前に護衛の姿はない。 

 俺とクーガーは近距離転移魔法で扉を抜けた。
 部屋の中はと見れば、ふたりの中年男が話し合っていた。
 中年と言っても、まだふたりともそんなに年をとっていない。
 40歳に届かず、30代半ばから後半といったところであろう。
 
 応接用の肘掛付き長椅子(ソファ)に向かい合って座っているのは、前当主グレゴワール・ドラポール伯爵の跡を継いだ長男テオドールと補佐役である次男のイジドールだ。
 ソフィこと、ステファニーを救う際に俺はいろいろこの家を調べていた。
 その後も、何かあったら困るので妖精猫(ケット・シー)のジャンを使って調査を続行していたのである。

 テオドールとイジドールの会話の趣旨は、ひと目で分かる。
 深夜のせいもあるだろうが、声を潜めており、もろに(はかりごと)の密談であった。
 
 俺とクーガーは、姿を消したまま書斎の机に座っている。
 気配も消しているので、気付かれる心配はない。
 こいつらが何を話すか、暫くは高みの見物と洒落込もう。

 大きな溜息を吐いてから、最初に口を開いたのは長男テオドールだ。

「はぁ、何とか踏み止まったな」

「全くだよ、兄さん」

 同意する、次男イジドール。
 テオドールは眉間に皺を寄せた。

「ふん! 宰相から親父を修道院へ入れて引退させろといわれた時には、最悪ウチはお取り潰し、良くても爵位の剥奪かと思ったな」

 ドラポール伯爵家はステファニー誘拐の失態から始まって、ウジューヌの悪事もばれ王家から罰せられたと聞いた。
 この国の、宰相自らが通告したらしい。

「でも兄さん、親父の引退と同時に領地の大部分を没収されちゃって、すげぇ厳しいよ。兄さんと俺の嫁の実家からも絶縁状が来て、俺達はあっさり離婚、バツイチだぜ」

 イジドールが顔を顰めて嘆く。
 ふうん、ふたりとも離婚でバツイチになったんだ。

 貴族夫婦の絆って、こんなモノ?
 オベール様もそうだったし、愛なんか皆無じゃないか。
 俺が勇者になって、どこかの王女様を娶っても、能力喪失したら捨てられるようなものかな?
 でも俺がレベル99じゃなくなって平凡な男になっても、嫁ズは変わらないだろう、多分。
 まあ、明日は分からないから、いつもその時々で全力を尽くすのみだ。

 俺がつらつらとそんな事を考えていたら、渋面の弟イジドールの肩を兄貴テオドールがポンと叩く。
 こんな奴等でも一応、兄弟仲は良いんだな。 

「弟よ、まあ仕方がない……これから巻き返そうぜ。逆に専制君主の頑固親父が居なくなったんだからとってもラッキーじゃないか」

「ああ、俺達の天下だね。好き放題していた末っ子のウジューヌに、親父の奴が大甘だったせいでウチは背徳の館みたいに言われてしまった。だが、ウジューヌはすっぱり勘当すれば、もうウチの人間じゃなくなる。そうすれば全く問題は無い」

 成る程!
 ウジューヌの馬鹿野郎が女性へ無法出来たのは、父親である当主グレゴワールの過保護のお陰だったんだ。
 でもあんな悪行を許すなんて、甘やかすにも程があるだろう?

 テオドールが眉を顰める。

「うん、ただなぁ……あいつが弄んだ女は楽に50人を超えるだろう? そのせいで寄り子は皆、ウチを怨んでいる」

 はぁ?
 ウジューヌの奴が、50人以上の女を弄んだ?
 ふざけるな!
 その挙句に、ポイ捨てだろう?
 とんだ鬼畜野郎だ。

 俺がムカッと来ていたら、クーガーも怖い顔をして頷いた。
 ああ、価値観が一緒って大事だな。

「確かにね……だから寄り子共め、ウチが王家から罰せられると、さっさと鞍替えしやがった。ウジューヌめ! 本当にあいつは疫病神だ。屋敷に軟禁するくらいじゃ飽き足らないぜ」

 弟のイジドールも怒っていた。
 でも弟の酷い悪行というより、要領悪い事しやがってというオーラがバリバリ出ている。
 もう!
 こいつらの倫理観はどうなっているんだよ?

 そのうち、テオドールが凄い事を言いだした。

「まあ、あの時、謎の悪漢に殴られて俺はスッとしたけど。ウジューヌの奴、いっそあのまま死ねば良かったのに!」

「俺もそう思う! 兄さん、ヴァネッサもそうだよ。今迄の男運の悪さと来たら! 奴等のせいで俺達まで一緒に運が悪くなっちまう、最低だ」

「あははは、全くだな」

「ははははは」

 こいつら……いくら何でも、実の妹と弟にそこまで言うか?
 ウジューヌも含めて兄弟全員……屑。

 ん?
 また何か、話題が変わるようだ。
 
 俺とクーガーは改めて聞き耳を立てたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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