第8話「クラリスと王都へ②」
文字数 2,090文字
こんな雑魚モンスターの群れは、本来、俺の指先ひとつでダウンって感じ。
うん!
まともに相手をしたら、大が付く楽勝なんだけど……
そんな事をすれば、絶対に『衛兵様』がすっ飛んで来る。
お決まりの「スターップ!」って、セリフを叫び、俺とクラリスまで、その場に留め置かれる。
そうなると、取り調べやらで、後が面倒くさい。
下手をすれば、「やりすぎだ」とか「過剰防衛だぞ!」とか言われて、俺の方が捕まってしまう。
絡んで来たナンパ男の方が悪いのは明白なのに、そんな理不尽は、
だから、俺のひと睨み、戦慄のスキルを発動させるのだ。
でも、この『特殊スキル』もやりすぎは禁物。
『魔王の眼光』という最高レベルでやったら、このレベルの男達は石化してお陀仏。
そうなると、町中がパニックへ。
当然衛兵も駆け付けて、絶対に大騒ぎ。
となるから、極めて軽度の『戦慄』を与える。
効果は抜群……
ナンパ男達はびびって全員が逃げ出し、俺とクラリスは無事宿泊先の『白鳥亭』へ入る事が出来た。
宿の建物内へ入ると……
女将のアマンダさんは、いつもの通り正面のカウンターに居た。
俺の顔を認め、にっこり笑う。
おお、相変わらず人が結構居る。
今日も、盛況みたい。
そもそも、白鳥亭は人気の宿である。
初めて来た時には、飛び込みで泊まったが……
2回目以降の宿泊は、さすがの俺も予約を入れている。
今回だって、当然予約済み。
「ケン様、いらっしゃい! あら、その方がクラリス様ですね」
「あ、ああ……は、はじめまして!」
クラリスは以前のレベッカ同様、アールヴ族を見るのが生まれて初めてだ。
アマンダさんは、相変わらず美しい。
身長こそ、約150㎝少しと小柄だが……
長い、さらさらな栗色の髪は、ポニーテール風。
栗色の髪の間から覘く、アールヴ特有のやや尖った小振りな耳。
細身で華奢だが、目立つ胸はアールヴとしては掟破りの巨乳。
抜けるような白い肌に、鼻筋の通った涼しげな顔立ち、瞳は深い灰色。
アールヴは、
人間とは全く違う趣きの美しさに、息を呑み、クラリスは切れ長の目が真ん丸になるほど、驚いている。
そんなクラリスへ、アマンダさんは優しい笑顔を向け、深くお辞儀をした。
「クラリス様、初めまして、アマンダです! ようこそ白鳥亭へ」
「は、は、はいっ! わわわ、私がク、ク、ク、クラリスですっ! お、お、お世話になりますっ!」
盛大に噛み、挨拶したクラリスだったが……
アマンダさんの笑顔と人柄に触れ、あっという間に距離が縮まった。
なごやかな雰囲気で、宿帳に必要事項を記入。
早速、部屋へ案内して貰うと、予想通りクラリスは夢見心地。
「す、素敵なお部屋!」
最近、大空屋の宿屋も白鳥亭風に改装したが……
やはり『本家』には敵わないのだ。
俺だって、何度来ても白鳥亭の部屋には感動する。
そんな夢心地の俺達へ、アマンダさんが……
「ケン様、落ち着かれたので、申し上げます。キングスレー商会から伝言を預かっていますよ」
「え? キングスレー商会から伝言?」
ええっと、キングスレー商会って……
ああ、思い出した。
少し前、子供達とエモシオンへ行った際……
同行した商隊を、編成した大元の商会だ。
クラリスの絵を高値で購入して貰うなど、世話になった礼も兼ね、
「この日に王都に着く、滞在中、買い物で伺う」と、魔法鳩便で、事前連絡を入れていた筈だ。
その際、王都の『宿泊先』を教えてくれと言われ、『白鳥亭』だと伝えていたっけ……
記憶を手繰った俺へ、アマンダさんが言う。
「はい! もし本日お越し頂けるのであれば、宿からご連絡を下さい。すぐに迎えを寄越しますと」
「え? 今日? 本当?」
「はい、間違いなく今日です! ずっとお待ちしていますと……」
「…………」
おいおい。
確かに、キングスレー商会には世話になった。
護衛の冒険者クランをサポートした縁もあって、一層仲良くなり……
絵以外にも、いろいろな村の特産品を大量に買って貰ったし、今回も、いくつか入手困難なものを頼んでいた。
でも……
俺達はたった今、王都へ到着したばかりだ。
「今日すぐ来い、ずっと待っている」なんて……
有無を言わさぬ感じで、凄く無理ゲーっぽくないか。
「伝言は、以上です。もしかして商会には、何か特別な事情があるのかしら?」
「特別な事情?」
「ええ……ケン様達は長旅でお疲れでしょうから、すぐ来いなんて……いくら大手の商会とはいえ、常識的にはありえません。個人的には、結構強引な話だと思いますが……」
少し同情的な目で、俺達を見るアマンダさん。
俺とクラリスは、ため息をつき、お互いに顔を見合わせたのであった。