第7話「レベッカと王都で①」
文字数 2,919文字
俺とレベッカは、王都セントヘレナの正門前へ来ている。
嫁とふたりっきりで王都へ来るのは、……グレースと来て以来だ。
……例の、あの夜の打合せで、リゼットから特別な『提案』があった。
特別な『提案』とは……俺とレベッカだけで行く、王都への小旅行企画である……
趣旨は、レベッカの新たな『夢』探し。
でも、レベッカへストレートに言うと『ベタ』になる。
最初から『将来の夢探しの旅』へ行こうなんて、「ずしっ」と重くなるし、彼女に変なプレッシャーもかかる。
だからレベッカへは内緒にして、長年頑張ってくれた慰労の為の、単なる観光旅行だと伝えてある。
それに、もしも『夢』が見つからなくたって、構わない。
気楽に俺とふたり、夫婦水入らずの旅を楽しんでくれれば良いもの。
グレースの時もそうだったが、このような企画って、必ず周囲への『根回し』が必要になる……
何で? いきなりレベッカだけを特別扱い! なんて他の嫁ズから不満が出てしまうから。
そこで、クッカとクーガーだけ俺が直接『趣旨』を話し、後の嫁ズへはリゼットが上手く伝えてくれた。
てな、
まあ、ずっと内緒にはしない。
頃合いを見て、「さくっ」と告げる。
さてさて……
聞けば、レベッカは生まれて初めての王都らしい……
と、いうか……
これほど遠くまで、旅行したのも初めてだそうだ。
加えて、俺とふたりきりだから、超が付く『うきうき気分』である。
遅まきながら、新婚旅行という趣き。
この異世界では、新婚旅行なんて風習はないのであるが。
ちなみに……
何度も言うけれど、王都まではまともに旅はしていない。
俺の転移魔法で、「ちょちょいっ」とズルして来た。
時間の節約と道中における危険回避の為であるが、レベッカとは事前の打合せ通り、ボヌール村からの長旅を装う。
冷静に、大人しく、目立たず……
しかし王都の威容を目の当たりにしたレベッカは、そんな取り決めをすっかり忘れてしまったようだ。
「わあ、ダーリン、見て見て! すっごいよぉ! 高い壁ぇ」
と、城壁を見上げて大声をあげ、
「ねぇ! あんなに、た、たくさん人が居るよぉ! 何、あの行列!」
と、正門へ並ぶ人々を指さして、鼻息を荒くする始末。
外敵から王都市民を守る城壁や、入場待ちの大行列を見て、興奮度MAXのレベッカ。
気持ちは凄~く分かるけど、まるで子供のように、はしゃいでいる。
「きょろきょろ」しているレベッカの手を引いて、俺も行列の最後尾に付く。
嬉しさ一杯のレベッカは、まだ興奮が収まらない。
「うわぁ、全部大きいねぇ! スケールが桁違いだねぇ! ボヌール村やエモシオンと比べ物にならないよぉ。ねぇ、ダーリン!」
何か、見ていると、レベッカが愛しくて堪らない。
心の底から、旅行に来た事を喜んでいるから。
だから、俺も嬉しくなって返してやる。
「おお、そうだな……うん、人口だけでも、エモシオンは約1,500人だが、王都は5万人だから、楽に30倍以上の規模だ」
「ご、ご、ご、5万!? な、何それぇ!? じゃ、じゃあ! わ、私達のボヌール村は100人だから……ええっと、50倍?」
「いや、500倍だって」
俺が即座に訂正してやると、レベッカの顔は真っ赤に。
「うっわ! 恥ずかしい、計算間違った」
でも、ここで揚げ足取りなどしない。
これから言う事は、半分以上が嘘だけど、さりげなくフォローしよう。
「あはは、俺なんか初めて王都へ来た時は、お前以上に緊張したよ」
「え? ダーリンもそうだったの?」
「おお、全身ガクブルだった」
俺が身振り手振りを入れて説明すると、レベッカは爆笑。
「あははははははっ、何それ? 全身ガクブルって? 可笑しいっ」
破顔するレベッカ……
俺は我が嫁を見て、思わず頷いてしまった。
うん!
王都でもレベッカは目立つ。
何故って?
理由は当然、美しいから。
25歳になったレベッカは、出会った頃の雰囲気に大人な魅力が加味されて、本当に凄い美人さんになった。
例えれば、前世で俺がテレビなどで目にしたスーパーモデル。
髪は、ストロベリーブロンドと呼ばれる
凛とした、ボーイッシュ&野性味のある顔立ち。
瞳は、深い灰色。
スレンダーで足が長く、スタイルは抜群。
凄いよ、レベッカ、お前って。
前衛的な服に身を固め、世界を股にかけて活躍するス-パーモデル達にも、けして負けない。
ちなみに今日の俺達は冒険者風ファッション。
衣装は当然、プレゼンテッドバイ、クラリス。
俺が渋い鉄紺の
パッと見は魔法使いに、シーフって感じ。
え?
レベッカなら、アーチャーだろうって?
いやいや、今のレベッカは、狩りの時みたいに弓を背負っていないからね。
素早さ、身軽さ満点のシーフって感じなんだ。
まあ……そんなこんなで漸く俺達の順番となった。
あれ?
門番さんの顔、見覚えがある。
この人は……
「お前の名はケン・ユウキ? ……ふむ、我が王国のボヌール村村長代理か、それで連れている女はお前の嫁か? 何でふたりとも冒険者風なんだ?」
質問を連発しながら、訝し気な表情で俺を見る門番さん。
続いて、連れているレベッカを見る。
俺は大きく頷き、きっぱりと言い放つ。
「はい、確かに俺はケン・ユウキ、ボヌール村村長代理です。そして彼女は愛する嫁のレベッカ。この服装は俺と嫁の個人的な好みだし、最も旅行向きなんで」
「んんん? 何か既視感があるぞ。以前もお前に会った気がする」
大柄なおっさん門番は、しかめっ面をして首を傾げている。
毎日、毎日凄い人数を捌くのに、この俺を覚えているなんて、たいしたものだと思う。
「当たり! お久しぶりでっす」
「むむむ……やはりか! でも、何だ? 今回は違和感がある」
「へぇ、既視感の次は、違和感がありますか?」
「確かにあるっ! む~っ、何だ……あ、ああっ! 思い出したぞっ! そ、そうだっ、連れている嫁が違うっ! 前のに劣らず、これまた凄い美人だっ」
「はい、確かに違いますね。そして仰る通り凄い美人です」
「くうう、何だ、その冷静で得意げな反応は?」
「ええ、門番様のお言葉通り、今回は違う嫁を連れて、王都へ遊びに来ました。はっきり言って自慢してます」
「あ、あんだとぉ! 大爆発しろ、お前はぁ!」
「…………」
俺と門番がやりとりをする間、レベッカはずっと黙っていた。
俯いていた。
そして、入場手続きが済み、王都の中へ入った瞬間。
「あははははははっ!!!」
レベッカは、顔を上げ、弾けるような大声で笑ったのであった。