第24話「驚愕の再会」
文字数 2,880文字
道中は、「強引過ぎる!」とぶうぶう言っていたが……
俺達の店『エモシオン&ボヌール』へ、無理やり連れて来られたカルメンは目を丸くしている。
今の店は……
当初、俺達が下見した空き店舗とはまた変わっていた。
大家であるオベール様夫婦の了解を得て、大胆に改装したのである。
壁を更に綺麗な白壁にして、窓を大きめなものにつけかえ、外から店内が良く見えるようにしてある。
ざっくりと説明すれば、1階は物産販売と、奥にはエモシオンとボヌール村の説明&移住等の受付カウンター、そして2階がカフェとギャラリーになっているのだ。
当然、俺が前世で見たアンテナショップの売り場やお洒落なカフェ等がモデルとなっているのは言うまでもない。
1階で仕事をしながら迎えてくれたのが、我が嫁リゼットの父ジョエルさん、同じく母フロランスさんの元村長夫婦である。
「おお、ケン、お疲れ。城の方はどうだ?」
「大きな歓声が聞こえて来たし……盛り上がっているみたいね。それと、さっき聞いたわ。すもうはクーガーが優勝したそうじゃない?」
と、ふたりから聞かれたので、
「ええ、クーガーが優勝しました。そして無事に大盛況ですよ」
と、言えば。
「おお! それは良かった。で、その人は移住希望者?」
「強そうな子ね」
すぐチェック? が入った。
当然、カルメンがボヌール村に合うかどうかだが………少々露骨過ぎるかも。
俺はちょっと苦笑して、答える。
「いえいえ、すもう大会の出場者ですよ。飯を食わせに連れて来ただけです」
だが……
ブランシュ夫婦の『移住者適性チェック』は止まらない。
「ふむ、とても良い身体をしている。年齢もまだ若いし、農作業でも何でも出来そうだな」
「本当に、丈夫そうな子ね、独身?」
「な! ど、どういう意味だ?」
ただならぬ気配を感じたのか、さすがのカルメンも引いていた。
これは、ちょっとまずいかも……
まあ、本オープンの前で良かった。
いきなり、ここまでチェックすると、来店者が警戒してしまう。
接客の仕方を改善しなければならないだろう。
でも、義両親へこの場ですぐ、指導などするわけにはいかない。
「ええっと、2階に連れて行きますけど……親父さん達、飯は?」
「おお、さっき上で食べたぞ。リゼット達のハーブ料理は最高だな。い、いや! フロランスの次にかな、に、2番目に美味い!」
「うふふ、その通り」
ああ、ジョエルさんたら、相変わらず奥さんの尻に敷かれてる。
否、妻への細やかな愛情表現という事にしておこう。
アンリ、お前は傍から見たら、こう見えるんだぜ。
店内を見ると、客も丁度途切れたようだ。
俺は軽く手を挙げて、カルメンを連れ、アンリと2階へと上がった。
「わぁお! 旦那様、おっかえりなさ~いっ」
俺の姿が2階に見えたら、いの一番に飛びついて来たのがサキである。
クラリスがデザインした、メイド服をアレンジしたカフェの制服をばっちり着こなしている。
「似合う?」
「おお、完璧だ」
「あは! 嬉しい! サキはね、昔から着たかったのよ、メイド服」
という会話を俺とサキがしていたら、カルメンは吃驚している。
サキはまだ、16歳の少女だから。
「な、妻って、この若い子が? あんた、あのクーガー以外にも、妻が居るのか?」
「ああ、そうさ」
という会話を、今度は俺とカルメンがしていたら……
続いて、リゼット、クッカ、レベッカ、ミシェル、クラリス、ソフィ、そしてエマも店の奥や厨房から姿を見せ、口々に「お疲れ様」と言い、俺とアンリを労わってくれた。
そして……
「ああ、旦那様、お疲れぇ」
「ああああっ! ……お、お前っ! ク、ク、クーガー! 一体、何してるんだぁ!」
目が点のカルメン。
何となく分かる。
俺も初めて嫁ズのメイド服着用を見た時は、ショックを受けたから。
まあ、俺のショックは『萌え』なんだけど。
そう、目の前のクーガーは、他の嫁ズやエマ同様、いかつい革鎧から可憐なメイド服へと着替えていたのだ。
「何って、見たら分かるじゃん」
「はぁ?」
「ああ、仕事しよ。カルメン……じゃないね。お客様だから、お嬢様か……お帰りなさい、お嬢様ぁ」
「な、な、何が、お帰りなさい、お嬢様だ! それに、何だ、その恰好は! さっきと全然違うだろ!」
「あったりまえよ。カフェのメイドさんなんだもの」
「はぁ?」
と、驚きっ放しのカルメン。
俺は改めて、嫁ズへ言う。
「悪い、みんな、この人に飯食わせてやってくれよ」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
こうして、呆気に取られっ放しのカルメンは、アンテナショップ『エモシオン&ボヌール』で食事をする事となったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「凄い! 美味い! な、何だ、これは!」
腹が派手に鳴ったので、分かってはいたが……
カルメンは、相当腹が空いていたらしい。
唸りながら、ボヌール村特製のハーブ料理を、ガツガツ食べていた。
そんなカルメンを見て、クーガーが悪戯っぽく笑う。
「あんたが食べてるの、私が作ったのよ」
「え? クーガー、お前が?」
「そうよ! 結構いけるでしょ」
「むうう、悔しいが美味い」
何となくカルメンの中では、クーガーが『ライバル』となっているらしい。
眉間に皺を寄せながら、美味い食事を味わうという離れ業を見せながら、カルメンは食べ続けたのである。
30分後……
アンテナショップは、休憩時間中。
スタッフの疲れも含め、ベストなオペレーションを模索しているのだ。
問題なければ、交代制で『通し営業』もするけれど。
という事で、今、カフェには他に客はいない。
だから全員でお茶タイムとなっている。
飲んでいるのは当然、ボヌール村名産のハーブティ。
「ほう……美味い……」
「ずずずっ」と、お茶を飲むカルメンはようやく落ち着いたようだ。
いろいろな意味で……
いきなり嫁ズを見て、吃驚したカルメン。
俺は、エマ以外は自分の嫁だと説明し、改めて紹介したら……
「ケン、呆れたぞ、こんなに妻が居るとはな」
「まあな、自分でもそう思う。だが全員愛してるぞ」
「ふん! ……良く臆面もなく言えるものだ」
「ははは、それより」
「それより?」
「カルメン、貴女みたいな名の知れた冒険者が、良くこんな田舎町へ来てくれたな」
「え?」
「ありがとう!」
「へ!?」
俺が深く頭を下げると、カルメンは「ポカン」としてしまった。
だが、徐々に真剣な表情に変わると……
カルメンは、そのまま「じっ」と俺を見続けたのであった。