第34話「新たな旅の始まり②」

文字数 2,071文字

 フィリップは、初めて見るユウキ家を見て、目を丸くして驚いていた。
 魔法使いの俺は、彼の出す波動で感情が自然に分かる。
 
 そうか。
 自分の家みたいな城を……
 石造りの頑丈な城館を予想していたのに、俺の住む家が実際は全く違っていたからか。

 まあ我がユウキ家は、大きい事は大きいけれど……
 木造で、ところどころ石を使った素朴な家。
 部屋数はそこそこあるが、ボヌール村の中だけの限定で、最大級ってレベル。

 出迎えたのは、留守番をしていたソフィとクラリス。
 じゃあ、留守番組で他の嫁ズはどこ?
 ……って思う方がいらっしゃるかもしれない。
 
 彼女達は……当然、大空屋で仕事中なのである。
 
 少し前に増築して、最大40名程度の宿泊を対応可能にしたのだが……
 本日は出発時と同様、王都の商隊と護衛役の冒険者クラン、総勢25名のお客が一度に来た。
 だから、大空屋の宿屋部門は大忙しなのだ。

 でも……
 事前に魔法鳩&念話で連絡済だから、オペレーションはバッチリ。
 食事、ベッド、もろもろ万全の準備で、完璧にお客様達をお出迎えだ。
 
 現在、大空屋はリゼット、グレース、サキが対応している。
 特に女将志望のグレースは、はりきって仕事をしているだろう。

 更に『手伝い』にはアンリの嫁エマが入り、正門で俺を迎えてくれたアンリ&デュプレ3兄弟も追っかけ参戦しているから。
 もしフィリップへのケアがなければ、俺もすぐに行っているところだ。

 でもこんな時、改めて念話があって便利だと思う。
 エモシオン出発前と、旅行中、ボヌール村到着前の随時連絡可能。
 
 リゼットへ、内々で現状報告と詳細な指示をしておいたから、準備する時間も余裕が生まれて、きめ細やかな対応が出来るもの。
 留守番組の嫁ズへ、リアルタイムで安全と無事を報せるから、余計な心配を掛けないのもベストである。

 閑話休題。

 ソフィとクラリスは、既にフィリップとは、エモシオンで何度も会っている。
 だから大丈夫。
 当然フィリップも緊張しない。
 
 ソフィは愛娘ララを連れ、預かったグレースの子ベルティーユを抱っこしている。
 片やクラリスは、自分の子ポール、そしてリゼットの子フラヴィと手を繋いでいた。

 まずは、ソフィが挨拶。

「お帰りなさい。そしてフィリップ様、こんにちわ。良く来ましたね」

「ソフィママ、こんにちわ!」

 フィリップは、元気に挨拶したが……
 本当はママではない。
 ソフィことステファニーは血の繋がった実の『姉』だもの。
 オベール様じゃないけれど……
 いずれはフィリップにも本当の事を教えてあげたい。

 でもソフィは、呼ばれ方に全く(こだわ)っていない。
 逆に『ママ』と呼ばれ、とても誇らしげだ。

 そしてフィリップはすかさず、クラリスにも挨拶。

「クラリスママ、こんにちわ!」

「こんにちわ、フィリップ様。遠路はるばるお疲れ様」

 フィリップは同じく元気に挨拶。
 子供達も赤ん坊のベル以外、ララとポール、フラヴィがはにかみながら、フィリップへ挨拶。

 と、ここで俺がまたもフォロー。

「さあて、儀式は終わりだ! ソフィ、クラリス」

「「OK!」」

 俺の指示に応え、即座に了解の返事をしたソフィとクラリス。
 
 実は、念話で事前に嫁ズへ指示をしてある。
 歓迎の挨拶が終われば……
 フィリップを、呼び方を含めて、お子様軍団と完全に同列で扱うと。
 
 子供達と、フィリップの呼び方の話をしてから、俺が決めた。
 『様』なんか、「すぱっ!」と、とっぱらってね。

 なので、ソフィとクラリスは、フィリップの呼び方や接する態度が一変。

「さあ! フィリップ、行こう」

「家の中を案内するわ、おいでフィリップ」

「は、はい!」

 ガラリ言動が、変わったママ達へ……
 噛みながら、何とか返事をするフィリップ。
 
 更に、

「フィリップ、今夜から俺達と一緒に寝るんだ」

「そうそう、一緒の部屋だよ」

 傍らのレオとイーサンが、絶妙なタイミングで声を掛けてくれた。
 吃驚したフィリップは、声を掛けて来たレオ達ではなく、俺へ尋ねる。

「ほ、本当なの? 兄上?」

「ああ、本当さ。フィリップは今夜から、我が家の男子部屋でレオやイーサン、ポールと寝る」

「そ、そうなの?」

「ああ、男子部屋はお前達子供だけの部屋だ、俺は別の部屋で寝るから」

「え? 兄上は僕と寝ないの? レオ達だけなの」

 俺が一緒に寝ないと知り、フィリップはまた少しだけ不安を見せた。
 
 普段は個室でひとり寝。
 たまに両親と3人で寝るフィリップ。
 彼にとって、「子供だけで寝る」というのは、想定外のサプライズだったみたい。
 
 しかし、まるで約束するかの如く……

「大丈夫! きっと楽しいから」

 俺は、親指を立てた拳を「ぐいっ!」と、フィリップへ突き出していたのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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