第35話「歓迎」
文字数 2,889文字
俺はフィリップの世話をソフィ達へ、旅行の片付けをクッカ、クーガー、レベッカへそれぞれ任せ、ミシェルだけを連れて大空屋へ行った。
商隊を率いる商会幹部と冒険者クランリーダーからは、改めてお礼をしたいと言われていたし、商談と納品の確認もある。
宿の手伝いも、必要とあればやるつもり。
商会幹部と会って話せば……
幸いトラブルなどなく、商談はスムーズ。
確認したら、納品もバッチリ。
冒険者リーダーからは、俺の強さと作戦の巧さを褒められ、改めて慰労された。
その上、俺が戦いに『助っ人』した礼金を、またも頂戴した。
今回に関しては、冒険者クランからも、素直に謝礼を受け取る。
あまり断ってばかりだと、関係がぎくしゃくしてしまうから。
ちなみにこの礼金は、俺個人の懐になど入れず、村の運営費へ回す。
先日の祭りのような形で、村民へ還元するのだ。
一方……
フィリップが来た事を考慮し、気を利かせたデュプレ3兄弟が夜の宿屋詰めを志願してくれた。
今夜、俺の家でフィリップの歓迎会が行われると踏んで。
その為、嬉しい事に、リゼット、グレース、サキは一旦帰宅出来る事となった。
翌朝また、出勤すれば良くなったのだ。
こうして……
フィリップの歓迎会が、俺達ユウキ家全員とアンリ&エマ夫婦によって行われた。
俺達にとっては、大人数で食事をするのはいつもの事。
そして村の暮らしに慣れたアンリ夫婦にも違和感がない。
だがフィリップにとって……
わいわい、がやがや、にぎやかに……
総勢21名で摂る食事は想像以上に楽しかったようだ。
え?
エモシオンのカフェで、大勢で摂る食事は体験しているって?
確かにあの時は、総勢20名でランチを食べた。
しかし、メンバーの半分近くが護衛役の従士と衛兵、冒険者。
それにオベール家の公式行事的な色も強かったから、冗談は言いつつも基本は真面目な雰囲気。
今食べているような、こんなフレンドリーな雰囲気にはならなかった。
フィリップは、改めて元気良く自己紹介。
全員から拍手を受け、少し赤くなっていた。
ちなみに歓迎会が始まる前から、タバサ達を通じ、俺の第二世代の子供達、フラヴィ、ララ、ポールとも仲良くなっている。
そして……初対面のグレースに優しくされ、感激したのか真っ赤になってしまう。
やっぱりグレースって、子供を惹き付ける何かがあるみたい。
更に何故か……
グレースの抱く、我が家の末っ子ベルティーユへ、熱い視線を送っている。
そういえば、着いた時からフィリップはベルを見ていたっけ。
魔法使いの俺には、また波動で分かった。
フィリップが、一体何を望んでいるのか……
案の定、フィリップは俺に近付いて、そっと囁いて来る。
「兄上……」
絶対に内緒の話であると、ピ~ンと来たので、俺も声のトーンを落とす。
「おう……何だい?」
「ええっと……僕も」
「僕も?」
「い、妹が……可愛い妹が欲しい。ベルちゃんみたいな」
フィリップはひとりっ子。
今迄は自身、ボッチが当たり前だと思って来た……
でもエモシオンで俺の子供達と初めて遊び……寂しくなったに違いない。
そして、普段は見慣れない、赤子のベルを見て……
そのあどけなさに、想いが一気に膨らんでしまった。
「ああ、分かるよ……」
私見だが、年の離れた弟妹は格段に愛しくなる。
実際、俺から見たフィリップがそうだから……
フィリップの切ない気持ちは理解出来る。
なので俺が同意したら、何と!
「妹が生まれるよう、兄上から、創世神様と母上に頼んで下さい」
とお願いが来た。
うむむ……
まだ子供が、どうして出来るのか知らないフィリップは、
「創世神様とイザベルさんへ頼んで」と、俺へ懇願したのだ。
こういう場合、言葉と対応が難しい。
まずイサベルさんの年齢と健康は気に掛けないといけないし、子供を作る具体的な方法なんて、フィリップへ教えるには早すぎる。
なので、仕方なく……
「分かった。俺からも頼むから、お前がまず母上に、さりげなく頼んでみてくれ……お前と母上、ふたりきりの時に……そっとだぞ」
と、返してやった。
「はい!」
妹を授かる事を、俺から全面的に応援して貰えると理解し、つい元気よく返事をしたフィリップ。
大声を聞いた家族全員から、何事かと注目され……
仕方なく俺は、曖昧に笑ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝午前4時……
ボヌール村の朝は早い。
お子様軍団と一緒にパンを皿に盛るなど、支度を手伝ったフィリップは……
その朝食を食べながら、俺へ昨夜の事を話していた。
予想通り……
子供達は凄く話が弾んだらしい。
フィリップが寝るのはさすがに男子部屋ではあったが……
最初のうちは、タバサ達の寝る女子部屋で子供達全員が盛り上がり……
就寝を命じられてからも暫し起きて、男子部屋でレオ、イーサン、ポールと話をしていたようだ。
話題はまずエモシオンでのみやげ話、次いでこのボヌール村での生活……
フィリップが興味のあるのは、当然村の暮らしの方。
そういえば、今日はレオとイーサンは、クーガー&レベッカと草原へ兎狩りに行く予定の筈だ。
フィリップは、レオ達の『予定』を聞いていたらしい。
「兄上! 僕もレオ達と狩りへ行きたい!」
まあ……気持ちは分かる。
しかしフィリップはまず、村の生活に慣れるのが先なのだ。
今日はまず村民全員に紹介してから、家で雑用をやって貰う。
雑用とは嫁ズの手伝いで、そうじ、洗濯、料理等の補助である。
つまりエモシオンでは、通常使用人がやる仕事だ。
「悪いが……アンリやエマも村に慣れるまで、家の雑用から始めて貰った。だからフィリップ、お前もそうだ」
俺が説明しても、フィリップは少し不満そうであった。
と、その時。
「フィリップ、お願い。今日も仕事でお昼過ぎまで留守にするから、ソフィママと一緒に、家でベルの面倒を見てくれる?」
優しい笑顔で頼んだのは、グレースである。
そう、これから彼女は大空屋の宿屋で、『女将見習い』として大いに奮闘するのだ。
「ベルちゃんの!? め、面倒?」
「ええ、そうよ。ソフィママの言う事を良く聞いて、頑張って、ベルの世話をしてあげて」
まさに渡りに船。
『可愛い妹、欲しい願望』が、超が付くほど強いフィリップには……
ベルを子守りするのは、
「もう! 待ってましたぁ!」と言うほど、渇望した仕事である。
「は、はいっ! 頑張ります!」
即座にOKの返事をしたフィリップは……
心の底から嬉しそうな、笑顔になっていたのであった。