第12話「虫相撲④」

文字数 2,113文字

 クーガーからカブト虫を突き付けられ悲鳴をあげたレベッカ。
 うるうる涙目になって、恨めしそうに見つめていた。
 強烈な悪戯を喰らって可哀想だったが、レベッカには俺からまたケアをしよう。

「よっし! じゃあ捕まえるぞ!」

「「「おお~っ」」」

 虫NGのレベッカは、当然ながら離れて見学。
 なので、俺とクーガー、そしてレオとイーサンでゲットする。

 俺はふと故郷の雑木林へ、カブト虫を取りに行った事を思い出す。
 
 カブト虫は、確か夜行性。
 真昼間は土の中に潜って寝ていた。
 かといって夜は危ないから、子供は外に出して貰えない。
 だから良く早朝に父親と一緒に行ったっけ。
 まるで今の俺と、レオ&イーサンだ。
 ああ、懐かしい!

 木の幹から樹液が染み出していて、カブト虫達は夢中になって舐めていた。
 だから無防備。
 捕まえるのは簡単である。

 但し俺は注意も忘れない。
 樹液を舐めに来ているのは、カブト虫だけではないからだ。

「大きな蜂が樹液を吸いに来ているから気をつけろ。絶対に触るな、居たらすぐパパに教えろよ」

「はぁい!」

 レオが返事をし、イーサンがカブト虫を見て不思議そうに言う。

「パパ! つのがないのがいる!」

「それはメス。女の子だから捕まえないでおこう」

「おんなのこ? わかった……」

 イーサンは暫くメスのカブト虫を見つめていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 こうして……

 カブト虫を捕まえた俺達は村へ戻った。
 当然、村は大騒ぎ。
 まあ大騒ぎしたのはウチの嫁ズだけど。
 
 これで判明した。
 虫嫌いな嫁が。
 結局、嫁ズの中ではクッカ、レベッカ、ソフィ、そしてグレースが苦手である事が判明した。

 まあ、生理的に虫が苦手なら仕方がない。
 4人には無害だという事を散々説明して、やっと納得して貰う。
 着地点としては母屋ではなく物置で飼う事になり、無事解決。
 虫嫌いな嫁ズは、暫く物置には近付かないだろう。

 しかし、虫が平気な嫁ズは興味津々だ。
 俺が飼う段取りを整えて行くのを、子供達と一緒にじっと見守っている。

 まず飼育箱だが、俺が内緒で使った引寄せの魔法で手配。
 使うのは大型の硝子製の箱である。
 上部を籠と同じ木で編んだ仕様でつくって蓋をするのが◎
 逃げ出すのを防ぐと共に、空気が充分に入るのが良い。

 箱の底には、おがくずを充分に敷き詰め樹皮や木片を入れた。
 軽く水を振って適度な湿り気を与え、乾かないようにする。
 後は暑さで参らないように、随時注意するのが大事。

 餌はリンゴがベストらしいが、まだ村では収穫されていなかったので、自作する事にした。
 まず水に黒糖を入れて煮込み、更に蜂蜜を少量加えれば出来上がり。
 焼酎があればなお可だが、無い物は仕方がない。

 雄のカブト虫は複数で飼うと喧嘩をする場合があるので、ひとつの飼育箱に一匹だけにするのがベストだ。

「カブト虫の世話をするのはだ~れだ?」

 俺がおどけて聞くと、イーサン、レオ、タバサ、シャルロットの4人が手を挙げる。
 自分の子供が飼うと聞いたクッカとレベッカは泣きそうになっている。
 なので、安心させてやる。

「大丈夫! 俺が4人を手伝うから」

 クーガーは勘がいいので黙っていた。
 ここで自分が手伝いを申し出ると、虫が苦手な嫁ズが無理をすると分かっているからだ。

 もしも慣れたらその時で……
 無理しなくて良い。
 それが俺の考え。

 但し念の為。
 カブト虫を飼うにあたって……
 飼育方法の説明をした上で、俺は子供達にふたつの事を約束させた。

 ひとつは、途中で投げ出さずしっかり面倒を見る事。
 もうひとつは2週間後に森へ放してやる事。

 幼児にとってはどこまで履行出来るか分からないが、今回は親も含めての勉強だと思っている。

 そして4人の子供が面倒を見るカブト虫にはそれぞれ名前をつけさせた。
 名前をつけて面倒を見た方が、単なるカブト虫として飼うよりはずっと愛着が湧く。

「パパ、これって、ぜんぶおとこのこ?」

 可愛らしく首を傾げるシャルロット。
 飄々としたところは、間違いなく母親のミシェル似だ。

「もう! パパがおとこのこだっていったじゃない」

 腕組みをしながら、しかめっ面をしているのがタバサ。
 真面目な優等生タイプって感じだが、クッカ似なんだろうか?
 だとしたら将来『どじっ子』になるのは確実。

「おとこは、つの……あるものな」

 ぼそっと呟いたのがレオ。
 相変わらず寡黙な奴だ。

「かっこいいなまえをつけよう、なにがいいかなぁ」

 おお、イーサンの奴が明るいぞ。
 失恋の痛手から、完全に立ち直ってくれたようだ。

 管理神様が仰ったように今回のカブト虫飼育は、良い経験になりそうだ。
 何か、ワクワクする。
 忘れられない夏になる予感。
 ユウキ家に立派な角のあるお客さんが短期滞在をする事になったから。

 俺達は早速準備を始めたのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)
本作の主人公。
学校卒業寸前、22歳の時に突然謎の死を遂げ、管理神から、サポート女神付きの異世界への転生を打診される。いくつかの選択肢を与えられたが、結局新人女神クッカを選び、外見は15歳の少年として西洋風異世界へ転生。その際、究極ともいえるレベル99の力を与えられた。

結局、転生して流れ着いた先はヴァレンタインという王国の南方、辺境ともいえるボヌール村。その後、数奇な運命に翻弄され、苦難の末に幸せを掴んだ。
転生して約3年後の現在……『ふるさと勇者』としてだけではなく、『ボヌール村村長代理』としても、大車輪の活躍振り。愛する家族と仲間を守る為に日々奮闘中である。

☆クッカ・ユウキ(クッカ)
元々はケンが異世界へ転生した時に、管理神から付けられた新人サポート美女神。レベル99の力を使いこなせるよう、異世界に不慣れなケンを全身全霊でサポート。

出自に重大な秘密を持っており、その後、人間に転生。相思相愛で、ケンの妻となった。
ユウキ家長女タバサの母。ハーブの知識に長けた、優れた魔法使い兼治癒士で上級の力を持つ。

☆クーガー・ユウキ(クーガー)
突如ケンの住む異世界へ降臨した、クッカそっくりの美しい女魔王。クッカと同じく出自に重大な秘密を持っており、ケンに深く執着、世界を滅ぼそうとした。その後、人間に転生し、相思相愛でケンの妻となる。
ユウキ家長男レオの母で、上級の力を持つ優れた魔法使いで戦士。厳しい教育方針の為、子供達から怖れられ、付けられた渾名は『ドラゴンママ』


☆リゼット・ユウキ(リゼット)
ボヌール村村長、ジョエル・ブランシュの娘。

病気になった祖母の為にハーブを摘みに行った際、ゴブリンの大群に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。だが転生したばかりのケンに救われ、運命の出会いを遂げる。
現在はケンの妻でユウキ家第一夫人、母フロランス似のしっかり者。良妻賢母タイプの美人で、フラヴィの母。ライフワークであるハーブ園の経営にも力を入れている。


☆レベッカ・ユウキ(レベッカ)
ケンの妻のひとりで、イーサンの母。唯一ケンを「ダーリン」と呼ぶ。門番ガストンの娘で、整った顔立ちをしたモデル風スレンダー美人。弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。結婚しても面食いで、イケメン好きは変わらず。
ケンと初めてした『デート』の際、超ツンデレな性格から、暴走。オーガに襲われ、危うく喰い殺されそうになるが、ケンにより命を救われ、ふたりは結ばれた。

☆ミシェル・ユウキ(ミシェル)
ケンの妻のひとりでボヌール村唯一の商店、大空屋の店主。シャルロットの母。経済感覚に長けた金髪碧眼の超グラマラス美人で、拳法の達人。
明るい性格故、表には出さなかったが、父を魔物の大群に殺され、生きる事に絶望していた。ケンとの出会いで立ち直り、本来のポジティブな性格で家族を支えている。レベッカとは親友同士。母のイザベルは、領主オベールの妻となった。

☆クラリス・ユウキ(クラリス)
ケンの妻のひとりでポールの母。リゼットの親友で、優しそうな垂れ目が特徴。顔立ち通り、大人しい性格の、癒し系美人。洋服作り、絵画、工作などマルチな才能を発揮する。ケンだけしか呼ばないが、別名ボヌール村の、レオナルド・ダ・ヴィンチ。
子供の頃、両親を魔物に殺され、孤独に耐えて懸命に生きて来たが……農作業を手伝ってくれたケンにひとめぼれ。恋に落ち、見違えるように明るくなって、ケンに愛を告白し、結ばれる。


☆ソフィ・ユウキ(ソフィもしくはステファニー)
ケンの妻のひとりで、品のある凛とした美人。ララの母。
正体を隠す為、ケンの魔法で髪と瞳の色を変えてはいるが、実は領主オベールの愛娘ステファニー。貴族社会のしがらみから、寄り親へ『妾』として差し出される寸前に、ケンに救われて結ばれた。

☆グレース・ユウキ(グレースもしくはヴァネッサ)
 ケンの妻のひとりで、ソフィ同様、品のある凛とした美人。
 魔法で正体を隠してはいるが、実は元貴族で、ドラポール伯爵家令嬢ヴァネッサである。
 領主オベールの元・後妻でもあり、血の繋がらない娘ソフィことステファニーとは犬猿の仲だった。
 家の駒として3度も政略結婚をさせられ、心身が疲弊してしまったが……

 ケンに救われ、後に結ばれる。
 村で暮らすようになって、角が取れたのか、芯は強いが本来のおっとりした性格に……

 ユウキ家は勿論、村の子供達全員から、人気ナンバーワンのグレースママとして慕われている。

 ソフィとも和解、実の姉妹以上の間柄となった。

☆サキ・ヤマト(サキ)

16歳の少女。可愛いが、とてもわがままできまぐれ。

ケンが元居た世界・日本で暮らしていたが、不慮の交通事故で死亡し、転生。

管理神により、ケンとは違う異世界へ送られた。

サポート女神の休暇から、臨時の神様を命じられたケンが『担当』となり、いろいろ世話を焼くが……


☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。

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