第18話「再提案」
文字数 2,522文字
2時間以上も掛かったが……
漸く、お子様軍団への説得が終わった……
無論、テレーズひとりには任せておけないので、俺と嫁ズも総出で熱く説得した。
ちょっち、失敗……
テレーズが帰る、ちゃんとした理由なしでの一方的な通達は、お子様軍団の反感を買った。
思えば、子供達も成長している。
タバサ達、第一世代へは、もう単純な言い方では駄目なのだ。
自分の昔を思い出しても分かるけど……
子供扱いされるのを、極端に嫌がる年頃。
なので、改めてしっかりと理由を話す。
テレーズのお父さんが、仕事の用事を済ませて迎えに来るって理由を、ちゃんと伝えたのだ。
そしてテレーズ自身の気持ちを……
子供達自身に置き換えて、「パパやママと離れて暮らすのが平気か?」と考えて貰ったのだ。
それでも、中々、お子様軍団は納得してくれなかった。
結局テレーズは、「またいつか遊びに来る」と約束をして、やっと許して貰ったのである。
予定は未定なので、何ともいえないが……
絶対、守ってくれると信じよう。
子供達だけではない……
俺や嫁ズだって……またテレーズには会いたいから。
当然ながら……テレーズもお子様軍団と共に、大泣きしたのはいうまでもない。
とりあえず、オベロン様が迎えに来るまで待機する事になり、各自が仕事の為に村内に分かれた。
全員我が家で、このままずっと待機するわけにもいかないから。
普段のように仕事をしながら、待つ事にしたのである。
やがて……
オベロン様が、馬車2台でテレーズを迎えにやって来た。
今日だけはクーガー、レベッカも、さすがに村外へは行かない。
村内で狩りの道具の手入れや、犬の訓練、馬の世話などをしていたところを戻る。
営業中だった大空屋も、休憩へ。
ミシェルとクラリスも、店に只今休憩中の札を提げ、戻って来る。
リゼットとクッカも、手入れをしていたハーブ園から汗を拭きながら、走って来た。
そして俺とメイン担当のソフィとグレースはというと……
お子様軍団の反乱を鎮めた後、テレーズが持って行く荷物の梱包を手伝っていたのだ。
しかし驚いた。
オベロン様ったら、愛しの恋女房を迎えに来たとあって、予想以上にバッチリ決めていたから。
見た目の年齢も、昨日は25歳くらいのイケメン青年だったのに……
今日の見た目は、10歳のテレーズの父親って事で、渋い35歳くらいのダンディに変わっている。
当然、着ているのも豪奢な王族風の服ではない。
基本的にはラフな、普段着のブリオーを粋に仕立てた、超が付くカッコイイ服を着こなしている。
またオベロン様は、自分以外に部下を5人連れて来ていた。
この部下の5人も、洗練されたデザインの革鎧姿の美男美女ばかり。
このイケメン&美女軍団は、選り抜きの妖精部下達であろう。
俺がガストンさんだけには事前に伝えておいたせいもあり、入村チェックもスムーズに終わった。
オベロン様達は護身用の剣を提げてはいたが、素直に渡してくれたので何の問題も起こらなかった。
しかし……問題は別に起こった。
とはいっても、想定内で大した事はない。
これも予想通りではあったが……
新しい仲間の『サヨナラ』を知ったボヌール村の村民達が、大いに別れを惜しんだ。
テレーズをぐるりっと、全員で取り囲んでしまったのだ。
一瞬、『愛する妻、女王様の危機だ!』と気色ばんだオベロン様達であったが……
俺と嫁ズが止めたのと、当のテレーズが嬉しそうに村民達からの握手に応えていたから……
逆に吃驚してしまう。
更に我が家を含めたお子様軍団も加わり、テレーズは当分放して貰えそうもない雰囲気だ……
さすがにオベロン様が声のトーンを落とし、そっと聞いて来る。
「ケンよ、一体これは、どうしたというんだい?」
あはは、昨日のみやびな言葉遣いが完全に変わってる。
テレーズの変貌と一緒だけど、もしかして、平民と普通に話せるよう猛練習したのかな?
俺がそんなシーンを考えて、思わずニヤニヤしていたら、オベロン様はムッとしたようだ。
「ふざけるな、ケン、私は真面目に聞いている」
「ああ、済みません。でも、これって、はっきりしていますよ」
「はっきり? どういう意味だ? 話が見えないが……」
俺の答えを聞いて、きょとんとするオベロン様。
ああ、ちゃんとした説明が必要だ。
だから、俺は分かり易く言ってあげる。
「ええ、奥様はこの村の誰もに、これでもか! というくらい好かれているって意味なんです」
「え? 村の者に? ティーが好かれて? な、何故?」
「ええ、オベロン様、考えるより見て下さい、奥様の笑顔……とても素敵ですよ」
「あ、ああ、そ、そう……だな」
俺に言われて、オベロン様。
愛する妻の表情を、じっと見つめている。
そして感極まったように……
「おお! ティー……とっても……素敵だ……」
愛する妻を、優しく見つめるオベロン様の微笑みは素晴らしいと、俺は感じた。
そして今更だが……10歳の人間少女に擬態したテレーズも、凄く可愛い。
さらさらな金髪が風に揺れ、美しい碧眼をキラキラさせて……
村民からの惜別の言葉に、こぼれんばかりの笑顔で応えている。
本当は、美しい妖艶なレディかもしれないが……
1か月余り暮らすうちに、美少女テレーズは、ボヌール村の人々にすっかり愛されていた。
あ、そうだ!
素敵なふたりを見て、良い事を思いついた。
「ええっと、ちょっと良いですかね。オベロン様達って……急いで帰国しなければなりませんか?」
「何? 急いで帰国? う~ん、この村を出たら……ついでにどこか、ティーへのお詫びに人間の街でも観光しようと思っていた。だから、少しくらいなら大丈夫だが……どういう事かな?」
「それならバッチリだ! もし宜しければ!」
俺は昨日同様、オベロン様へある提案をしたのであった。