第6話「きらめく魂」
文字数 2,975文字
「も、申し訳ありません! お客様の前で気絶するなんて」
とんでもない醜態を見せたせいか、コルネーユはすっかり恐縮していた。
俺は同情して尋ねる。
「身体は大丈夫?」
「だ、大丈夫です。でもお客様は奥様が8人もいらっしゃるなんて大変ですね。いくら我がヴァレンタイン王国が一夫多妻制を認めているとはいえ」
「いや、全然大変じゃないよ。俺は嫁を全員愛しているし、嫁同士も仲が良くて喧嘩も滅多にしないから。生活も何とか出来ている」
「ほ、本当ですか!」
再び驚くコルネーユ。
また気絶したら嫌だなと思っていたら、すかさずグレースがフォローしてくれる。
「はい! 旦那様は妻を分け隔てなく大事にしてくれるし、我儘言っても受け入れてくれますから。私は8番目の妻で、ご覧の通り結構年上ですが、とても可愛がって頂いています」
「はああ………凄い! あ、あのぜひ秘訣を教えて下さいっ!」
秘訣?
何、それ?
俺達の買い物に全く関係ないけど……
ああ、でも目を見れば分かる。
真剣な
この人は本気だ。
結婚に悩んでいる現状を、何とか打破したいんだ。
俺はとりあえず、もう少しコルネーユの話を聞く事にする。
「じゃあまず、貴方が女性と付き合う時の話を聞かせてよ」
「は、はいっ!」
話を聞き、やり取りする事約30分……
俺やグレースは本当にお人よしだ。
こんな奴は放っておいて店をさっさと出るとか、そんなの話せないとか言えば良いのに、ついコルネーユ……いやコルネーユ氏が可愛そうになったのだ。
良く話を聞いた結果、コルネーユ氏は基本的に優しいが、少々オラオラ系で女性を家政婦のように考えている事が分かった。
持っている価値観も独特で絶対に譲らない。
う~ん、これでは女性じゃなくても辛くなる。
本人は、『男は、女子を引っ張るタイプがもてる』という考えを曲解しているようだ。
「分かったよ、貴方がもてない理由」
「わ、分かりましたか?」
「うん、だけどこれはあくまで俺の個人的な意見だし、議論はしたくない」
「は、はいっ」
「アドバイスはするけれど……その代わり、これから俺の言う事に絶対に反論しない、怒らないで素直に聞くって約束する?」
「し、します!」
こういう前振りをするのは、危険回避の為。
人間って自分では分かっていても、他人から欠点をストレートに指摘されると頭に来るものだから。
まあ言い方にもよるけれど。
基本、良い気持ちにならないのは確かだ。
問題はいかに自分を客観的に見て、素直に受け入れられるかだろう。
「じゃあ言うよ。貴方は少し自己中心的なところがある。そして相手の女性を何でも雑務をしてくれる存在……つまり母親か、お手伝いさん扱いにして対等に見ていない」
「う!」
絶句するコルネーユ氏。
何で分かるの? と顔に書いてある。
俺は苦笑して、言ってやる。
「やっぱり、思い当たるみたいだね。すぐには直せないかもしれないけど、自分の事は極力自分でやる。そして相手の価値観を認めて気配りしてあげると良いと思う」
「な、成る程!」
おお!
意外に俺の話を素直に聞いて、頷くコルネーユ氏。
メモは、さすがに取らないけど。
俺のアドバイスの後に、グレースが事実を述べる。
「ウチの旦那様はやれる仕事は何でもします、料理も洗濯も掃除も。村のお店の番もしますし、農作業に家畜の世話、森へ狩りにも行きます。ああ、そうだ! 進んで子守りもしますよ」
「あ、あああ……そんなに?」
コルネーユ氏は俺とグレースを交互に見て、呆気にとられている。
でも当たり前だろう、これくらい。
俺は基本的に嫁ズの希望を聞いた上で、やれる事は何でもやるから。
「うん! 王都とは違って皆、仕事をたくさん兼任しているからね。俺がやっている仕事量は極端に多いかもしれないけれど、やれる事は俺がやる」
「やれる事を……私がやるのですか?」
「ああ、何度も言うけど、女性は貴方の使用人じゃないんだ。例えば……家事を何か一緒にやってお互いに楽しむとか考えた方が良い」
「それに旦那様はいつも自分の事はさておき、私達のやりたい事を叶える為に頑張ってくれて、楽しい嬉しい事は勿論、愚痴さえも聞いてくれます。凄く助かっています」
阿吽の呼吸で出たグレースの話を聞いて、コルネーユ氏は感極まったようだ。
「相手の為に努力し、まめに話を聞いてあげるのですね? は、はいっ! とっても参考になりましたぁ! 私、早速試してみます。ありがとうございます!」
話をしていて分かったが、コルネーユ氏は悪い人ではないみたいだ。
最初は俺を若造と見て馬鹿にしていたようだが、注意や助言を素直に聞いてくれた。
グレースが超美人で俺に熱々なのも、効いたみたいである。
ここで俺は改めて、コルネーユ氏から購入予定の宝石を見せて貰う。
うん!
男の俺から見ても、宝石って凄く綺麗だと思う。
ああ、星みたいに輝いている。
そして誕生月順に並べると、まるで嫁ズの
何て、素晴らしい!
レベッカは1月生まれでガーネット。
リゼットは2月生まれでアメシスト。
ミシェルは5月生まれでエメラルド。
クッカとクーガーは7月生まれでルビー。
ソフィことステファニーは9月生まれでサファイア。
クラリスは10月生まれでオパール。
そしてグレースことヴァネッサは、11月生まれなのでトパーズ。
グレースがぽつりと呟く。
「ああ、懐かしい……やっぱりトパーズって綺麗」
何?
懐かしい?
ああ、また違和感を覚える。
だが、まあ良い。
先に宝石代金の精算だから。
コルネーユ氏はにっこり笑う。
「ご予算は金貨100枚でしたよね、大サービスしておきましたよ」
俺が思い切って奮発し、総予算金貨100枚をコルネーユ氏へ伝えたところ……
コルネーユ氏は何と!
倍の、200枚相当の価値を持つ宝石を整えてくれたというのだ。
だから俺も意気に感じて、いつもみたいに値切ったりはしない。
まあ店側も一応利益は出るだろうから。
うん!
情けは人の為ならず……至言である。
30分後……
宝石をしっかり梱包して貰い、俺とグレースは店を出た。
これで嫁ズへのおみやげはバッチリ。
俺の金で買ったから、その分本来のおみやげ予算をお子様軍団へ回せる。
だけどお子様軍団のおみやげ購入はあとにして、とりあえず今夜の宿を探そうと話し合う。
そんなわけで、グレースの手を握って歩き出そうとした時である。
俺が歩き出すのを、グレースが止めたのだ。
「旦那様、ちょっと宜しいですか? 今夜、宿で大事な話があります」
大事な話?
何だろう?
もしそれが俺がさっきから違和感を覚える原因だとしたら……
俺は真剣な表情のグレースを、じっと見つめたのであった。