第9話:風邪をひいた日の話(その22)

文字数 629文字

「先生?」

お腹が鳴る音が夏菜にも聞こえたようで、目をパチクリしてこっちを見ている。

今更言い訳をしても仕方が無いので、素直に、
「ごめん、お腹が鳴りました」
と頭を下げて謝った。

すると夏菜は、
「謝ることないですよ。
だって、昨日の夜からほとんど何も食べてないんでしょ?
だから私、お粥か雑炊を作ろうと思って、材料を持ってきました」
と言って、手に持っていたビニール袋を軽く持ち上げて見せてくれた。

「えっ!?
夏菜が手料理を作ってくれるの!?」

まさかの展開!

てっきり、スーパーやコンビニとかで、パンとか買ってきてくれるのかと思っていたのに!

というか、夏菜が『料理をする』というのも初耳だ。
なんか勉強ばかりしているイメージがあったから。

なので、
「よく家でご飯とか作ったりするの?」
と聞くと、夏菜は首を横に振り、
「いえ、ほとんど料理をしたことないけど、本やネットで調べてきたので、大丈夫だと思います」
と自信ありげに答えた。

おっ、おお・・・
そうなんだ・・・

『料理初心者』ということで、ちょっと不安もよぎるが、夏菜がおれのためにご飯を作るために、勉強してきてくれたことがうれしい。

そんな幸せをかみしめていると、夏菜はおれの背中を押しながら、
「さ、さ、先生は寝ていてください。
体調良くなった、といっても、まだ無理はダメですから」
と言って、ベッドに向かわせた。

おれを布団に寝かしつけると、
「じゃあ、キッチン借りますね。
お料理、がんばってみます」
と、うれしそうに言ってキッチンに向かった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み