第9話:風邪をひいた日の話(その24)

文字数 856文字

夏菜の不安そうな声を聞き、おれは思わず、
「どうしたの?」
と聞くと、
「先生の家、計量カップが無いんですね・・・」
と言う。

「計量カップ?」

夏菜にそう聞かれ、ベッドから起き上がると、
「計量カップ、あったようななかったような・・・。
あまり料理しないから、ほとんど使わないんだよな」
と言いながらキッチンに向かった。

夏菜は紙のメモを握りしめ、
「お粥のレシピを紙に書いてきたのですが、米1/2合に対して、水600ml必要みたいなんです。
だから、600mlを計りたいんですが・・・」
と言う。

「あ、それだったら」

おれは空の500mlのペットボトルを棚から持ってきて、
「これが500mlだから、これを基準として、だいたいな感じで600mlを入れてみたら?」
と夏菜に提案した。

すると夏菜はパアッと顔を輝かせ、
「なるほど!
そういう手もありましたね!
先生、すごいです!」
と褒めてくれた。

今まで怒られたことは何度もあったけど、褒められたことはほとんど無かったため、ビックリして固まっていると、
「先生?
どうしました?」
と、夏菜が不思議そうな顔で聞いてくる。

おれは照れながら、
「いや、だって、ほら、付き合う前とか、夏菜によく授業のことで説教されてたじゃん。
いつも怒られてばっかりだったから、今『すごいです!』って褒めてくれたことが、なんかすごくうれしくて」
と言うと、夏菜は急に真っ赤になり、
「そ、そんな昔のこと持ち出すなんて!」
と、あわてる。

そして、チラッとおれの方を見て、
「お・・・怒ってます?」
と聞く。

何に対して怒っているのかよく分からなくて、
「え?なんで?
別に怒ってないけど?」
と聞くと、夏菜は、
「その・・・昔、先生にお説教していたことを・・・」
と言うので、首を横に振り、
「全然!!
怒ってないし、あれはおれがどんくさくて授業が遅れていたわけだし、それを的確に指摘してくれた夏菜には感謝してたぐらいだし!
だから、心配しないで!」
と必死に誤解を解こうとした。

すると夏菜は、
「先生は、優し過ぎるんですよ・・・」
と言って、ソッとおれの手を握った。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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