第10話:クリスマス・デート(その4)

文字数 817文字

「先生、何の資料を作るんですか?」

西森にそう聞かれ、
「資料作りは口実で、ただ西森と話をしたかっただけ」
と小声で答えると、
「え!?ウソだったんですか!?」
と西森は驚く。

おれは机の引き出しに入っていた、不要な紙の束を取り出し、
「でも、誰か他の人が職員室に戻ってきた時、怪しまれないように、これを何枚かに分けてホッチキスでとじてくれる?」
と言って、西森に渡した。

西森は何も言わずに受け取り、
「はい」
と言って、作業を始めた。

もくもくと作業をしている西森を見て、
「怒った?
ウソついてまで、呼び止めてしまって」
と聞くと、ブンブンと首を横に振り、
「いいえ、怒ってないです。
私も先生とお話したかったから・・・」
と小さな声で答えた。

そう言ってくれる西森が、かわいくて愛おしい。

机の下で、そっと西森の手に触れ、指を絡ます。

西森はびっくりして、
「せ、先生、ダメですよ!
誰か戻ってきたら・・・」
と言うが、
「大丈夫、机の下だから、すぐには見られないって。
普通に装っていたら」
と言って、お互いさらに指を絡ませる。

『普通を装えば大丈夫』と言ったが、西森の頬がどんどん赤くなって、呼吸も少し乱れてきた様子を見ていると、こっちもどんどん『普通』を装えなくなってきた。

このままエスカレートするとやばいと思ったので、名残惜しかったが、するりと絡めた指をほどく。

「あ・・・」

西森が小さく声を出した。

おれは、
「ご、ごめん・・・。
学校だということを忘れて、意地悪しちゃって・・・」
と謝ると、西森は首を横に振り、
「だ・・・大丈夫です・・・」
と言った。

西森は『大丈夫』と言ったが、お互い『大丈夫』の域を越えそうになりかかっていたことは間違いない。

そして何事もなかったかのように、再び二人で作業に励む。

西森が職員室に来てから、5分ぐらい経ったが、まだ誰も帰ってこない。

この様子なら、西森ともう少し話が出来そうだ。

おれは手を止めて、
「クリスマス・・・何かやりたいことはある?」
と聞いた。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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