第7話:二人の夏休み(その27)

文字数 904文字

「無事でよかった・・・」

降りしきる雨の中、おれは西森をギュッと抱きしめていた。

ずっと雨の中走っていたので、全身雨で濡れてしまっているが、西森も、髪の毛も、着ているワンピースも全部ずぶ濡れ状態だ。

きっと、森の中で迷子になって雨に濡れていたのだろう。

「先生・・・」

西森が小さな声を出した。

「ん?どうした?」

すると西森は、おれの体に腕を回して、まるで離れたくないかのように、ギュッと抱きついてきた。

「道に迷って、すごく怖かったです・・・」

そうつぶやくと、西森はもっと強く抱きついてきた。

土砂降りの夜、森の中で2人きり。

周りは誰もいない。

雨の音だけがザーッと鳴り響いている。

「うん、もう大丈夫だ。
よく今まで一人でがんばったね」

そう言って、おれもさらに強く西森を抱きしめた。

今までも何度か西森のことを抱きしめたことがあったけれど、こんなに長く強く抱き合ったことはなかったから、頭の中が麻痺していく。

おれ達は『正式な恋人同士』ではなく曖昧な関係だけれど、西森が『本当の彼女』のように思えてきてしょうがない。

「西森・・・」

少しだけ体を離し、西森の顔をのぞきこんだ。

暗くて表情はよく見えない。

指で西森の頬をなでた。

雨に濡れていたせいか、少し冷たくなっている。

冷たくなった頬をしばらくなでていたが、指がふと唇に触れた。

「んっ・・・」

西森が小さな声を出し、少し体をビクッとさせた。

もうそれだけで、おれの「なけなしの理性」はパーンと飛び散り、そのままキスへと一気に加速しそうだったが・・・

「よし!帰ろう!!」
と言って、西森の頭をポンポンと軽くなでた。

「は・・・はい?」

西森がちょっと戸惑ったような声を出したけれど、おれがギュッと手をつないで歩き始めると、後ろからチョコチョコと一緒に歩き出した。

よかった!
なんとか理性がもちこたえた!

本当はもっとこのまま抱き合って、イチャつきたかった!

勢いに任せて、キスしたかった!

でも、西森が「OK」と言っていないのに、無理やりキスするのはやっぱりダメだろ!!

ここは『大人の男』の意地を見せ、ガマンだ!!

それに今は、イチャついている場合じゃなくて、早く別荘に戻って雨で冷えた体を温める方が先決だ!
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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