第9話:風邪をひいた日の話(その9)

文字数 535文字

「先生?」

夏菜は驚いたような顔で、おれを見つめている。

おれはそのままギュッと夏菜を抱きしめ、
「あと1分、このままでいさせて・・・」
と頼んだ。

本当は早く家に帰らせて、安静にさせないといけないのに。

でも、やっぱり別れがつらくて、ワガママを言ってしまった。

にもかかわらず、夏菜もおれの背中に腕を回すと、ギュッと抱き返してくれて、
「1分だけですよ・・・」
とつぶやいた。

10秒、20秒、30秒・・・

ちゃんと時計を見ていたわけじゃないので、もう1分過ぎたか過ぎてないか分からない。

でも、これ以上ワガママを言うわけにもいかないので、夏菜を抱きしめていた力をゆるめた。

くっついていた体をソッと離し、愛しい顔を見つめる。

夏菜はマスクをかけているので、瞳の表情しか見えない。

おれは、そっと夏菜の耳に手をかけ、
「外していい?」
と聞いて、マスクを外した。

「えっ?」

マスクを外された夏菜は驚いて、
「ちょっ!先生!
だ、だめですよ、風邪、うつっちゃいますから!」
と少し抵抗をみせる。

でも、その行動がますます、おれの理性を狂わせる。

夏菜の頬に手を添え、
「うつってもいいよ」
と言って、ソッと唇を寄せる。

夏菜は瞳を潤ませて、
「だ・・・だめって言ってるのに・・・」
と言いながらも、おれからのキスを受け入れた。

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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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