第7話:二人の夏休み(その18)

文字数 1,129文字

その日の夕方6時過ぎ、おれと涼介は臨時の『天体観測会』を行うために、西森達が勉強合宿をしている別荘に向かった。

「ここが水野君ちの別荘か・・・」

安月給のおれからすると、「別荘を持っている」というだけでも、スゴいことなのだが、さらには別荘が大きくて立派なお屋敷なので、もはや何も言えないレベルである。

街中に建っている普通の一戸建ての家よりも大きいし、庭も広いし、こんな別荘を持っている水野君って「いったい何者なの?」と思ってしまう。

そんなことを考えながら、ボーっと別荘を眺めていると、涼介が、
「じゃあ、ピンポン鳴らすぞ。
流星、覚悟はいいか?
おまえ、西森ちゃんのことで心乱して、怪しまれるような行動はとるなよ。」
と釘をさしてきた。

「大丈夫だって。
こう見えても、やる時はちゃんとやるんだから、何も心配しなくていいよ。」
と、偉そうに涼介に話をしていると、
「あ、先生達来てくれたんですね」
と背後から声がした。

振り返ると、水野君と西森がコンビニの袋を持って立っていた。

「え?」

どういうこと?

なんで、西森と水野君が別荘の中じゃなくて、外から二人きりでコンビニの袋持って帰って来てんの?

勉強してたんじゃないの?

違うの?
二人きりでどこかに出かけていたの!?

状況が飲み込めずに、うろたえているおれを見かねたのか、西森が、
「ゲームに負けて、コンビニまで買い出しに行ってたんです。
それより、先生達来てくれてありがとうございました。
みんな待っているので、どうぞ中に入って下さい。」
と状況を簡単にさらっと説明してくれた。

「ああ・・・ゲームに負けて・・・」

状況は分かった。

つまり西森と水野君は何かのゲームに負けて、2人でコンビニまで買い出しに行ってたのね・・・。

それならよかった・・・、と思いながら、別荘の中に入ろうとした時、
「お!
水野と西森、2人きりのデートタイムどうだった?」
と、合宿に参加している男子の1人が庭の方からうれしそうに声をかけてきた。

「ええっ!?
デートタイム!?」

さっき涼介に『怪しい行動は慎むように』と言われたばかりなのに、あまりの衝撃の事実に驚いて叫んでしまった。

涼介に『おまえ、何やってんだよ』という感じで、背中をドンと叩かれたが、心乱されまくっている。

あわてて西森の方に振り返ると、西森は頬を真っ赤に染めて、
「ちっ、違うって!!
罰ゲームで負けたから、一緒に行っただけで
デートなんかじゃないって言ってるじゃない!!」
と叫んでいる。

うん、きっとそうだ。
西森がウソなんかつくはずがない!

罰ゲームで買い出しに行っただけで、何もやましいことはしてないって、先生は信じているぞ!!

と思った直後、水野君が、
「おれは、デートだって思ってたけど?」
と、西森に向かって言ったのだった。
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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