第13話:気になる気持ち(その13)
文字数 2,007文字
「た、大将!?」
今にもキスしそうだったおれと西森を見た大将は、
「あーっ!ごめん、ごめん!
せっかく盛り上がっていたところをジャマしちゃってごめんねーっ!」
と苦笑いを浮かべながら、テーブルの上に料理を並べていく。
緊張の糸が「プツリ」と切れ、おれはヘナヘナと床に倒れ込んだ。
『大将!何、邪魔してくれてんだよ!』
と怒りたい気持ちもあったが、それ以上に、
『大将、おれを止めてくれて、ありがとう!』
という感謝の気持ちの方が強かった。
あのまま、雰囲気に飲まれて一方的にキスするのは、やはりヤバかったからだ。
「いやー、ほんとにお邪魔無虫が入って悪かったね。
もう2階へは上がってこないから、ゆっくり安心してご飯食べて行ってね!」
店長はニヤニヤおれの方を見ながら、部屋を出て行った。
「・・・」
まだショックから立ち直れないおれの隣で、
「わぁ、すごいごちそうですね!」
と、西森が驚きの声を上げる。
よく見るとテーブルの上には、注文したラーメン以外にも餃子、スープ、八宝菜、鶏のから揚げなど店長がサービスしてくれた料理が、ズラリとたくさん並んでいたからだ。
目をキラキラさせながら料理を見つめている西森を見ると、おれも気持ちを切り替えることにした。
おれは小皿に手を伸ばし、
「さ、ご飯、食べようか」
と言って、西森に皿を渡す。
まだ顔が赤い西森だったが、渡された皿をソッと受け取り、
「はい、とりあえず、ご飯食べます。」
と言った。
「いただきます」
西森はお腹が空いていたのか、さっそく『八宝菜』に手を伸ばした。
さっきまでドキドキして顔を真っ赤にさせていたのに、今はすっかり元の西森に戻って、美味しそうに料理をパクパクと食べている。
そんな西森を見ていると、消え失せていたおれの食欲も戻ってきた。
鶏のから揚げに手を伸ばしながら、
「まさか大将が、ここまでサービスしてくれると思わなかったな。
また今度、何かお礼でも持ってこないと。」
と、おれがつぶやくと、
「先生と大将さんは、本当に仲が良いんですね。
そんなにこのお店に通っているんですか?」
と西森が聞いてきた。
「ああ、ほとんど外食だからな。
ここのラーメン屋に来たり、あとは駅前の定食屋さんに行ったり。
その点、西森はいいよな。
帰れば、お母さんがご飯を作ってくれているし」
何気に言った言葉だったが、西森は、
「別に、そんなにいいことでもないですよ」
と、ボソリと答える。
「え?そうなの?」
意外な返しに驚くと、西森はコクリとうなずく。
「父は毎日帰ってくるのが遅いですし、私も夜は塾に行くことが多いので、家族全員そろって夕食を食べることなんてほとんどないですから。
1人で晩ごはんを食べていると、母が話しかけてきてくれますが、ほとんど勉強のことばかりですし・・・」
ちょっとさみしそうに答える西森。
そうか・・・
家族がいるからといっても、皆それぞれ生活パターンが違うだろうし、西森みたいに別々に食事をとっている家庭だってあるよな。
おまけに食事中の時まで、母親から成績や勉強のことばかり聞かれたら、西森だって気が滅入ってしまうだろう。
ちょっとしんみりしてしまった。
西森を『かわいそうだ』と思った気持ちが伝わったのだろうか。
西森は、
「そんな『気の毒』みたいな顔、しないでください。
コンビニでも言った通り、同情されるのはイヤなんです。
ほら、先生、これ食べて元気出してください。」
と言って、自分の『スタミナラーメン』に大量に入っていたニンニクを、レンゲでおれのラーメンにドカッと入れてきた。
「!?」
えっ、何、これ!?
おれにも『ニンニク』を食えと!?
それは、さっき雰囲気に流されてキスしようとしてしまったおれに対する拒否行動からなのか!?
突然の攻撃に驚くおれに対して、西森は、
「さっき先生は私に『自分のことをどう思っているのか』と、問い詰めてきましたが、逆に聞きます。
先生は、私のことをどう思っているからキスしようとしてきたんですか?」
と、聞いてきた。
「えっ」
突然の質問にたじろいでいると、西森はジロリとにらんでくる。
「そ、それは・・・」
急に変な汗が出てきた。
西森に『好きか、嫌いか』と一方的に聞いてばかりいたけど、おれは西森のことをどう思っているんだ?
ちゃんと自分の気持ちを伝えていないのに、西森にばかり気持ちを聞いているのは、卑怯じゃないのか?
「先生?」
じっとおれの顔を見つめる西森。
その愛しい顔を見て、この心の中にあふれてくる感情が『好き』以外の何者でもないことに気づかされる。
おれは緊張する気持ちを押さえつけ、話を始めた。
「正直言うと、おれは優等生の西森が、すごく苦手だった。
いつも授業で注意ばかりされるし、怒られてばかりで、怖くて怖くて。」
おれから『苦手だった』と言われた西森は『は?』と顔をしかめる。
そりゃ『苦手だ』と言われて、良い感情を持つ人はいないだろう。
でも、待ってくれ。
ちゃんと順番に話すから、そのまま話を聞いていてくれ。
今にもキスしそうだったおれと西森を見た大将は、
「あーっ!ごめん、ごめん!
せっかく盛り上がっていたところをジャマしちゃってごめんねーっ!」
と苦笑いを浮かべながら、テーブルの上に料理を並べていく。
緊張の糸が「プツリ」と切れ、おれはヘナヘナと床に倒れ込んだ。
『大将!何、邪魔してくれてんだよ!』
と怒りたい気持ちもあったが、それ以上に、
『大将、おれを止めてくれて、ありがとう!』
という感謝の気持ちの方が強かった。
あのまま、雰囲気に飲まれて一方的にキスするのは、やはりヤバかったからだ。
「いやー、ほんとにお邪魔無虫が入って悪かったね。
もう2階へは上がってこないから、ゆっくり安心してご飯食べて行ってね!」
店長はニヤニヤおれの方を見ながら、部屋を出て行った。
「・・・」
まだショックから立ち直れないおれの隣で、
「わぁ、すごいごちそうですね!」
と、西森が驚きの声を上げる。
よく見るとテーブルの上には、注文したラーメン以外にも餃子、スープ、八宝菜、鶏のから揚げなど店長がサービスしてくれた料理が、ズラリとたくさん並んでいたからだ。
目をキラキラさせながら料理を見つめている西森を見ると、おれも気持ちを切り替えることにした。
おれは小皿に手を伸ばし、
「さ、ご飯、食べようか」
と言って、西森に皿を渡す。
まだ顔が赤い西森だったが、渡された皿をソッと受け取り、
「はい、とりあえず、ご飯食べます。」
と言った。
「いただきます」
西森はお腹が空いていたのか、さっそく『八宝菜』に手を伸ばした。
さっきまでドキドキして顔を真っ赤にさせていたのに、今はすっかり元の西森に戻って、美味しそうに料理をパクパクと食べている。
そんな西森を見ていると、消え失せていたおれの食欲も戻ってきた。
鶏のから揚げに手を伸ばしながら、
「まさか大将が、ここまでサービスしてくれると思わなかったな。
また今度、何かお礼でも持ってこないと。」
と、おれがつぶやくと、
「先生と大将さんは、本当に仲が良いんですね。
そんなにこのお店に通っているんですか?」
と西森が聞いてきた。
「ああ、ほとんど外食だからな。
ここのラーメン屋に来たり、あとは駅前の定食屋さんに行ったり。
その点、西森はいいよな。
帰れば、お母さんがご飯を作ってくれているし」
何気に言った言葉だったが、西森は、
「別に、そんなにいいことでもないですよ」
と、ボソリと答える。
「え?そうなの?」
意外な返しに驚くと、西森はコクリとうなずく。
「父は毎日帰ってくるのが遅いですし、私も夜は塾に行くことが多いので、家族全員そろって夕食を食べることなんてほとんどないですから。
1人で晩ごはんを食べていると、母が話しかけてきてくれますが、ほとんど勉強のことばかりですし・・・」
ちょっとさみしそうに答える西森。
そうか・・・
家族がいるからといっても、皆それぞれ生活パターンが違うだろうし、西森みたいに別々に食事をとっている家庭だってあるよな。
おまけに食事中の時まで、母親から成績や勉強のことばかり聞かれたら、西森だって気が滅入ってしまうだろう。
ちょっとしんみりしてしまった。
西森を『かわいそうだ』と思った気持ちが伝わったのだろうか。
西森は、
「そんな『気の毒』みたいな顔、しないでください。
コンビニでも言った通り、同情されるのはイヤなんです。
ほら、先生、これ食べて元気出してください。」
と言って、自分の『スタミナラーメン』に大量に入っていたニンニクを、レンゲでおれのラーメンにドカッと入れてきた。
「!?」
えっ、何、これ!?
おれにも『ニンニク』を食えと!?
それは、さっき雰囲気に流されてキスしようとしてしまったおれに対する拒否行動からなのか!?
突然の攻撃に驚くおれに対して、西森は、
「さっき先生は私に『自分のことをどう思っているのか』と、問い詰めてきましたが、逆に聞きます。
先生は、私のことをどう思っているからキスしようとしてきたんですか?」
と、聞いてきた。
「えっ」
突然の質問にたじろいでいると、西森はジロリとにらんでくる。
「そ、それは・・・」
急に変な汗が出てきた。
西森に『好きか、嫌いか』と一方的に聞いてばかりいたけど、おれは西森のことをどう思っているんだ?
ちゃんと自分の気持ちを伝えていないのに、西森にばかり気持ちを聞いているのは、卑怯じゃないのか?
「先生?」
じっとおれの顔を見つめる西森。
その愛しい顔を見て、この心の中にあふれてくる感情が『好き』以外の何者でもないことに気づかされる。
おれは緊張する気持ちを押さえつけ、話を始めた。
「正直言うと、おれは優等生の西森が、すごく苦手だった。
いつも授業で注意ばかりされるし、怒られてばかりで、怖くて怖くて。」
おれから『苦手だった』と言われた西森は『は?』と顔をしかめる。
そりゃ『苦手だ』と言われて、良い感情を持つ人はいないだろう。
でも、待ってくれ。
ちゃんと順番に話すから、そのまま話を聞いていてくれ。