第9話:風邪をひいた日の話(その5)

文字数 1,095文字

西森が電話に出るや否や、
「体調は大丈夫か!?
熱があるって、女子たちから聞いたんだけど!」
と大きな声で聞くと、西森は、
「は?
急にどうしたんですか?」
と困惑の声を出している。

電話ゆえ表情は見えないけれど、声を聞く限り、そんなにしんどそうではなさそうだ。

おれは、
「体調悪いのに、塾に行ったって聞いたから、心配したんだ。
ほんとに大丈夫か?」
と聞くと、西森は、
「大丈夫です。
親が数日前から風邪気味だったので、そのせいかと思います。
熱といっても、37.0℃ぐらいなので、平気です」
と答える。

37.0℃・・・
高熱ではなく、微熱のようだったので、ちょっと安心した。

でも、体調が悪いのは間違いない。

「塾は大丈夫?
無理に行って、しんどくない?」

そう聞くと西森は、
「大丈夫です。
今日はどうしても聞きたい授業もありますし」
と答えるので、おれは、
「分かった。
じゃあ、帰るころに車で迎えに行くから、終わったら電話して」
と提案した。

「え!?」

西森は驚いた声を出し、
「大丈夫ですよ!
先生、忙しいし、無理しないでください!」
と断ってくるが、おれは首を振り、
「無理じゃないし、心配だし!
迎えに行かせてくれ!」
と必死に頼み込む。

今朝、ちょっと寝坊したため、電車じゃなくて車で出勤したから、仕事が終われば、すぐ車で迎えに行けるし、何より『西森に会いたい』という気持ちが強い。

仕事も残っているけれど、急げば終わらせられるぐらいの量なので、大丈夫だ。

おれの必死の頼み込みに、西森の心も揺らいだのか、
「・・・分かりました。
塾が終わったら、連絡します」
と言ってくれたので、おれは『ホッとした気持ち』と『うれしい気持ち』があふれ出る。

「じゃあ、塾の近くで待ってるから。
くれぐれも無理しないように。
急にしんどくなったら、いつでも電話して」

そう伝えて、電話を切ろうとした時、西森が、
「あ・・・先生・・・」
と何かを言いかけようとした。

電話を切りそうになっていたので、あわてて持ち直し、
「何?どうした?」
と聞くと、西森はちょっと小さな声で、
「・・・私も・・・」
と何かをいいかけている。

「私も?」

耳を澄まして聞いていると、西森が、
「会いたいなぁ、と思っていたので、うれしいです・・・」
と、照れたような声でつぶやいた。

「え!?」

まさかの彼女からの『かわいい発言』に、ビックリしてその場で固まってしまう。

西森はあわてて、
「じゃ、じゃあ、また後で!」
と言って、急いで電話を切った。

ど・・・ど・・・どうした、西森!?

この前の『キス』といい、今の『会いたい』発言といい、急に積極的になっちゃって!?

うれし過ぎるけど、おれの心臓、ドキドキが止まらないんだけど!!
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登場人物紹介

高山流星

地学担当教師

西森夏菜

学年一の秀才。真面目な優等生。

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